吉祥寺JazzSyndicate

 吉祥寺ジャズシンジケートは、東京、吉祥寺の某Barに集まるJazzファンのゆるーいコミュニティです。  コンテンポラリーJazzを中心に、音楽、アート、アニメ、カフェ、バー、面白グッズ、などなど、わがままに、気まぐれに、無責任に発信します。

piano

【Disc Review】“Last Decade” (2022) Benjamin Lackner

“Last Decade” (2022) Benjamin Lackner

Benjamin Lackner (piano)
Jerome Regard (bass) Manu Katche (drum)
Mathias Eick (trumpet)

Last Decade
Lackner, Benjamin / Eick, Mathias / Regard, Jerome
Ecm Records
2022-10-14


 ドイツ出身、アメリカ在住?ピアニストBenjamin Lackner、ECMレコードでの初アルバム。
 トランペットを迎えたワンホーンカルテットでの静かで穏やかなコンテンポラリージャズ。

 リーダーのピアノは繊細で美しい系。
 トランペットはノルウェーの哀愁系。
 ドラムはカラリと明るいビート感が新感覚なフランスの名手Manu Katche、ベースはこれまたフランスから。
 難しい人はいないのに、なぜか不思議系。
 このレーベルなので普通のジャズに落ち着かないのはさもありなんとしても、フリーでもない、不協和音系でもない、陰鬱でも、激しくもない。
 淡い色合いながら十分にメロディアス、終始穏やかな表情で気難しさはなし。
 が、不思議系。

 トランペットの醸し出す哀愁、ドラムとベースの明るさ、ポップさ、やんちゃさが混然としつつ、それらを支えるような、抑え込むような、あくまで控えめな美しいピアノ。
 そんな主従、イニシアティブが判然としない、かといってフリーインプロビゼーションな感じはなく、いわゆる”アンサンブル”とも違う感じ。
 ニュアンスが異なる三者三様が入り混じる、ありそうでないバランス。
 哀感とポップネスと美しさの微妙な綾。
 それが不思議感に繋がっているのでしょうか。

 そして全編を通じた強い浮遊感、淡くて穏やかな表情。
 そられが相まって、とても心地よい音。
 何度か聞いていくと、最初に感じた違和感が薄らぎ、より心地よく、より美しく感じられる音。
 これまた不思議。
 これは深い。




posted by H.A.


【Disc Review】“Bordeaux Concert” (2016.7.6) Keith Jarrett

“Bordeaux Concert” (2016.7.6) Keith Jarrett

Keith Jarrett (piano)


Bordeaux Concert
Keith Jarrett
Ecm Records
2022-09-30


 Keith Jarrett、2016年、フランスのステージでのソロピアノ。
 既発の同年同月の演奏“Budapest Concert” (2016.7.3)、“Munich 2016” (2016.7.16)の間のステージ。

 それらに似た構成。
 激しく抽象的で長尺な序盤、表情の違うコンパクトな演奏、緩急、軽重を織り交ぜながら穏やかな空気感に転じていく中盤、メロディアスでフォーキーな表情が増える終盤。

 “Rio” (Apl.2011)あるいは“Creation” (2014)あたりからの構成。
 この期のヨーロッパツアーの記録、リリカルで柔らかな1970年代“The Köln Concert” (1975)~“Sun Bear Concerts” (1976)、ハードでアートな“La Scala” (1995)~“A Multitude of Angels” (1996)に対して、少し硬質で次々と景色が変わる2010年代型のシリーズになってくるのかもしれません。

 ともあれ、この日の演奏、序盤はいきなりトップギアに入った激烈疾走系~混沌とした長尺な演奏から始まります。
 それを抜けると重々しい展開の時間は短く、メロディアス、フォーキーモードへの遷移が早い感じでしょうか。

 リリカル系、センチメンタル系、あるいは祈り系など、めまぐるしく展開し、この期のお約束のブルースの挿入も早々の中盤。
 終盤はテンポを落としてセンチメンタルなメロディの連発、祈り系を経て、穏やかに厳かに大団円。
 結果、全体を通じてぶっ飛び度は低め、カラフルな印象。
 深刻で混沌なスタートから、次々と現れる起伏の中、徐々に不安が解消されつつハッピーエンド・・・、でありながら含みを持たせた映画な感じ。
 ジャケットは、薄曇りの“Budapest Concert”と青空の“Munich 2016”に対して、タイトル通りのボルドー色、少々重め。
 演奏はそこまで暗く重い感じではありません。
 そんな2016年7月のヨーロッパでのドラマ、その一編。




〇:ソロ、除くクラシック ●:Standards

 “Life Between the Exit Signs" (May.1967)
〇“Restoration Ruin"(Mar.1968)
 “Somewhere Before" (Aug.1968)
 “Gary Burton & Keith Jarrett" (Jul.1970) 
 “Ruta and Daitya" (May.1971)
 “The Mourning of a Star" (Jul.Aug.1971)
 “Birth" (Jul.1971)
 “El Juicio (The Judgement)" (Jul.1971)

〇"Facing You" (Nov.1971)
 "Expectations" (Apl.1972)
 "Hamburg '72" (Jun.1972)
 “Conception Vessel” (Nov.1972) Paul Motian
 "Fort Yawuh" (Feb.1973)
 "In the Light" (Feb.1973)
〇”Solo Concerts:Bremen/Lausanne” (Mar.Jul.1973)
〇“Molde Jazz Festival 1972 & 1973” (Aug.1973)
 “Berliner Jazztage 1973” (Nov.1973)
 “Treasure Island” (Feb.1974)
 “Belonging” (Apl.1974)
 “Luminessence” (Apl.1974) 
 “Live In Hanover 1974” (Apl.1974) 
 “Death and the Flower” (Oct.1974)
 “Back Hand” (Oct.1974)  
〇“The Köln Concert” (Jan.1975)
〇“Solo Performance, New York ‘75” (Feb.13.1975)
 "Gnu High" (Jun.1975) Kenny Wheeler
 “Arbour Zena” (Oct.1975)
 “Mysteries” (Dec.1975)  
 “Shades” (???.1975) 
 “Closeness” (Mar.1976) Charlie Haden
 “The Survivor's Suite” (Apl.1976)
〇“Staircase” (May.1976) 
 “Eyes of the Heart” (May.1976) 
 “Hymns/Spheres” (???.1976)
 “Byablue” (Oct.1976)
 “Bop-Be” (Oct.1976)
〇“Sun Bear Concerts” (Nov.1976)
 “Ritual” (Jun.1977)
 “Tales Of Another” (Feb.1977) Gary Peacock
 “My Song" (Oct.-Nov.1977)
〇“Live At Budokan 1978” (Dec.12,1978)
 “Sleeper” (Apl,16-17.1979)
 “Personal Mountains” (Apl,16-17.1979)
 “Nude Ants:Live At The Village Vanguard” (May,1979)

 "Invocations/The Moth and the Flame" (1979,1980)
 "G.I. Gurdjieff: Sacred Hymns" (Mar.1980)
 "The Celestial Hawk" (Mar.1980)
Concerts:Bregenz” (May.1981)
〇”Concerts:Munchen” (Jun.1981)
●“Standards, Vol. 1” (Jan.1983)
●“Standards, Vol. 2” (Jan.1983)
●“Changes” (Jan.1983)
 "Arvo Part: Tabula Rasa" (Oct.1983,1984,1977) 
 "Spirits" (May-Jul.1985)
●"Standards Live" (Jul.1985)
 “Barber/Bartók” (1984-85)
●"Still Live" (Jul.1986)
 "Book of Ways" (Jul.1986)
 "No End" (Jul.1986)
 "Well-Tempered Clavier I" (Feb.1987)
〇"Dark Intervals" (Apl.1987)
●“Changeless” (Oct.1987)
 “J.S. Bach: Das Wohltemperierte Klavier, Buch I” (1987)
〇”Paris Concert” (Oct.1988)
 “Lou Harrison: Piano Concerto” (1988)
●”Standards in Norway” (Oct.1989)
●“Tribute” (Oct.1989)
 “Hovhaness, Alan: Piano Concerto:Lousadzek (Coming Of Light) ” (1989)
 “J.S. Bach: Goldberg Variations” (1989)
●“The Cure” (Apl.1990)
 “J.S. Bach: Das Wohltemperierte Klavier, Buch II” (1990)
 “G.F. Handel: Recorder Sonatas with Harpsichord Obbligato.” (1990)
〇“Vienna Concert” (Sep.1991)
●“Bye Bye Blackbird” (Oct.1991)
 “J.S. Bach: The French Suites” (1991)
 “J.S. Bach: 3 Sonaten für Viola da Gamba und Cembalo” (1991)
 “At the Deer Head Inn” (Sep.1992)
 “J. S. Bach: 3 Sonatas with Harpsichord Obbligato. 3 Sonatas with Basso Continuo” (1992)
 “Peggy Glanville Hicks: Etruscan Concerto” (1992)
 “Dmitri Shostakovich: 24 Preludes and Fugues op.87” (1992)
 “Bridge of Light" (Mar.1993)
 “G.F. Handel: Suites For Keyboard” (1993)
●“At the Blue Note” (Jun.1994)
 “W.A. Mozart: Piano Concertos, Masonic Funeral Music, Symphony In G Minor” (1994)
〇“La Scala” (Feb.1995)
●“Tokyo '96” (Mar.1996)
〇“A Multitude of Angels” (Oct.1996)
 “W.A. Mozart: Piano Concertos, Adagio And Fugue” (1996)

〇“The Melody At Night, With You” (1998)
●"After The Fall" (Nov.1998)
●“Whisper Not” (Jul.1999)
●“Inside Out” (Jul.2000)
●“Always Let Me Go” (Apl.2001)
●“Yesterdays” (Apl.30.24.2001)
●“My Foolish Heart” (Jul.22.2001)
●“The Out-of-Towners” (Jul.28.2001)
●“Up for It” (Jul.2002)
〇“Radiance” (Oct.2002)
〇“The Carnegie Hall Concert” (Sep.2005)
 ”Jasmine” (2007)
 “Last Dance” (2007)
〇“Testament” (Oct.2008)
●“Somewhere” (May.2009)
〇“Rio” (Apl.2011)
〇“Creation” (2014)
〇“Budapest Concert” (2016.7.3)
〇“Bordeaux Concert” (2016.7.6) 
〇“Munich 2016” (2016.7.16)


posted by H.A.


【Disc Review】“The Next Door” (2022) Julia Hulsmann Quartet

“The Next Door” (2022) Julia Hulsmann Quartet

Julia Hulsmann (piano)
Marc Muellbauer (double bass) Heinrich Kobberling (drums)
Uli Kempendorff (tenor sax)


The Next Door
Julia Hulsmann Quartet
Ecm Records
2022-09-30


 ドイツのピアニストJulia Hülsmann、2022年作。
 前作に当たるのであろう“Not Far From Here” (2019)と同じメンバー、サックスを迎えたワンホーンカルテット編成。
 コンスタントな制作ペース、これだけ続けば21世紀のECMレコードの代表的ピアニスト、その穏やかで優しい系。
 いつもながらの安心・安全印、明るくて柔らか、落ち着いたヨーロピアンコンテンポラリージャズ。
 端正なピアノ。
 端正なサックス。
 端正なリズム隊。
 とても端正でノーブルなヨーロピアンコンテンポラリージャズ。
 ・・・で終わってしまうと・・・なので・・・
 ミディアムテンポで穏やかにスイングするビートの中に丁寧に置かれていく美しい音。
 クラシカルな色合いがあるのかもしれませんが、このレーベルにあっては、ジャズに寄った端正なピアノ。
 崩れたり、疾走したり、不協和音が鳴り響いたり、はありません。
 その雰囲気もときおりありますが、あくまでノーブルにまとまっていきます。
 サックスも同様。
 クラシカルな風味、音色ながら、あくまでジャズ。
 ときおりぶっ飛んでいくかと思わせつつも、これまた上品に収まっていきます。
 ともあれ本作、諸作に比べるとちょっと不思議系のメロディが増えた感、フリーな場面が増えた感、無きにしも非ずですが、その時間は長くはありません。
 全部合わせて、美しくて明るくて柔らか、上品なヨーロピアンコンテンポラリージャズ。
 トゲや毒気はないので、きっと体にもいいのでしょう。
 たぶん。




posted by H.A.


【Disc Review】“Abaton” (2002) Sylvie Courvoisier, Mark Feldman, Erik Friedlander

“Abaton” (2002) Sylvie Courvoisier, Mark Feldman, Erik Friedlander

Sylvie Courvoisier (Piano)
Mark Feldman (Violin) Erik Friedlander (Cello)


Abaton
Courvoisier, Sylvie
Ecm Import
2003-10-14


 スイスのピアニストSylvie Courvoisier、Mark Feldmanのバイオリンとチェロを迎えたトリオ作品。
 クラシック~現代音楽な作品ですが、ECM New Seriesではなく、ECMレコードから。
 楽曲を準備したのであろう長尺な演奏が揃ったCD一枚目、短い演奏が続くCD二枚目は即興演奏集なのでしょう。
 静謐な空気感。
 ゆったりとした音の流れ、定まらないビート。
 不思議感、不安感たっぷりの旋律。
 哀し気な表情、不穏なムードを醸し出す不協和音。
 三者の誰が前に出るともなく、カウンターを当て合うようなアンサンブル。
 たっぷりの余白。
 ときおり強烈に加速したり、音量が上がったりしますが、次の瞬間は残響音のみ、あるいは無音・・・
 全部合わせて強烈な緊張感、強烈な非日常感。
 極めて耽美的、内省的。
 が、甘いメロディは出てきません。
 いわゆるわかりやすいグルーヴもありません。
 あるいは、それらの断片が見え隠れするだけで、長くは続きません。
 ジャズの耳からすれば、気難しく難解。
 が、暗くはなく、あくまで透明、あるいは雑味のない“白”な空気感。
 透明で美しい音。
 静謐ながら、とても豊かな表情。
 流れ始めてしばらくすると、部屋の空気感が変わってしまうような気がします。
 非日常的な空気感ですが、とても心地よいので、何かよからぬものに絡めとられていってしまうような感、無きにしもあらず。
 そんな音。



posted by H.A.



【Disc Review】“Hafla” (2021) Jon Balke Siwan

“Hafla” (2021) Jon Balke Siwan

Jon Balke (Keyboards, Electronics, Tombak)
Mona Boutchebak (Vocals, Quitra) Derya Turkan (Kemençe) Bjarte Eike (Baroque Violin) Helge Norbakken (Percussion) Pedram Khavar Zamini (Tombak) Per Buhre (Vocals, Viola)


Hafla
Jon Balke Siwan
ECM
2022-04-22


 ノルウェーの大御所Jon Balke、北アフリカ、中近東、その他のエスニックな色合いが交錯する摩訶不思議なプロジェクト、ECMレコードでの第三作。
 “Siwan” (2007,2008)、“Nahnou Houm” (2017)ときて、本作。
 メインのボーカリストは前作と同じアルジェリアの女性、他のメンバーは前々作から続いているのだと思います。
 古の地中海周辺をテーマとした(?)プロジェクトだったように思うのですが、ヨーロッパ周辺の経度の南北すべてをカバーしたというか、どこなのかわからない場所、その過去と未来感が交錯する・・・、そんなサウンド。
 アフリカンな感じでナチュラルだけど先端の香りも漂うビート、抑制された打楽器群。
 聞き慣れない音階。
 古楽、あるいは中近東的な弦の響き。
 ヨーロッパな流麗さを纏った、あるいはときに土の香りもするようなストリングス。
 それらが複雑に交錯する美しいアンサンブル。
 そして、何語か分からない透明で美しい女声。
 哀し気ながらどこか懐かし気で穏やかな空気感。
 それら合わせて、紛れもなくメロディアスで美しい音楽、奇を衒った感もないのだけども、強烈な非日常感。
 何が歌われ、語られているのかはわかりません。
 古いのか新しいのかも判然としません。
 あえてカテゴライズするとすれば、古楽とエスニックミュージックとポップスのフュージョン、ってな感じなのだと思います。
 が、それにとどまらず、先端的な色合いを感じるのは、おそらくは静かに鳴り続けるパーカションと、ときおりさり気なく響くシンセサイザー的な音、そして緊張感を高めるストリングス。
 全編哀し気な非日常の音ですが、決して深刻ではなく、気難しくもない、あくまでナチュラルで優しい空気感。
 それが聞きやすさに繋がっているように思います。
 優しいトリップミュージック。




posted by H.A.



【Disc Review】“Opening” (2021) Tord Gustavsen Trio

“Opening” (2021) Tord Gustavsen Trio

Tord Gustavsen (piano, electronics)
Steinar Raknes (double-bass, electronics) Jarle Vespestad (drums)


Opening
Tord Gustavsen Trio
ECM
2022-04-08


 ノルウェー発、哀愁のピアニストTord Gustavsen、トリオ作品。
 前作“The Other Side” (2018)と同様、オーソドックスなピアノトリオ編成ですが、ベーシストが交代しているようです。
 静謐で沈んだ空気感は、この人のいつもの音。
 ECMレコードでの初作であろう“Changing Places” (2001)と変わらない沈痛な哀感。
 が、前作の流れを引き継いでか、かつての悲壮感が漂うような沈痛さ、あるいは演歌な感じではなく、穏やかで軽い方向、あるいは淡い色合いに振れてきているように思います。
 ゆったりと丁寧に置かれていくメロディ。
 哀し気でキャッチーなメロディが揃い、涙ちょちょ切れ、これでもかこれでもかと押し寄せてくる怒涛の哀愁。
 概ねゆったりとしたテンポながらも、全体を通じた穏やかなグルーブと、ときおりの疾走。
 ・・・と、ここまでは初期の作品とも同じ。
 が、終始哀し気ながら、穏やかでほんのり温かな感じ、そのうえでときおり不穏さが表出する、そんなバランス。
 バンド全体のタッチが軽快になり、さらに三者が自由に動く時間が増え、それが初期とは違った軽くて淡い色合いと強い浮遊感に繋がっているようにも思います。
 暗いムードや胸を締め付けるような、あるいはベタつくまでの哀感がよければ、初期作品の方がお好みに合うのでしょう。
 が、メロディが強いだけに、このくらいのバランスの方がちょうど心地よいようにも思います。
 静かで穏やかな諦観。
 悟りの境地。
 そんな音。
 本作も極めて上質、この人のアルバムにハズレなし。



posted by H.A.



【Disc Review】“Vermillion” (2021) Kit Downes

“Vermillion” (2021) Kit Downes

Kit Downes (piano)
Petter Eldh (double-bass) James Maddren (drums)

Vermillion
Kit Downes
ECM
2022-02-11


 イギリスのピアニストKit Downes、ピアノトリオ作品、ECMレコードから。
 ECMでは“Time Is A Blind Guide” (2015) Thomas Stronenでタダモノではない感たっぷりな疾走ピアノ、リーダー作としてはパイプオルガン演奏“Obsidian” (2017) 、ベースレスの変則編成“Dreamlife of Debris” (2019)ときて、ようやくオードドックスなピアノトリオ編成。
 が、オーソドックスではない不思議感たっぷりな音。
 難解さ、気難しさはありません。
 美しく、サラサラとした質感の音。
 メロディアス、でも幻想的、そんなバランス。
 柔らかな音の軽やかなピアノ。
 饒舌なベースと静かで自由なドラム。
 静かながら凝りまくったビート。
 誰が何拍子で何を演っているのかわからない複雑さ。
 三者三様、キッチリと主張しているのですが、誰が突出するわけではない一体感。
 淡いメロディ、静かで穏やかな音の流れ。
 疾走や激情はありません。
 ECMでのお約束、ルバートでのスローバラードもありません。
 ビートが効いているのに、なぜか漂う浮遊感。
 メロディアスなのですが、なぜかその芯をつかめない感じ。
 不思議感たっぷり。
 でも迷宮感はない、穏やかで明るい色合い。
 強い浮遊感、淡い色合いは、21世型ECMの典型のような感じですが、このバランスは新しいのかも、とも思います。
 いずれにしても心地よい時間。
 不思議感ゆえなのでしょう、飽きそうにありません。



posted by H.A.



【Disc Review】“Live At Budokan 1978” (Dec.12,1978) Keith Jarrett

“Live At Budokan 1978” (Dec.12,1978) Keith Jarrett

Keith Jarrett (piano)

Live At Budokan 1978
Keith Jarrett
Hi Hat
2021-08-08


 Keith Jarrett、ソロピアノ、東京でのライブ音源。
 これもブートレッグ、FM放送の音源でしょうか?

 “My Song" (Oct.-Nov.1977)と“Sleeper”, “Personal Mountains” (Apl.1979)の間、ソロ作品では“Sun Bear Concerts” (Nov.1976), ”Concerts:Bregenz” (May.1981)の間。
 1970年代終盤、作風が変わってきたと思しき時期の演奏。
 沈痛な面持ちのバラードからスタートし、ビートが定まった後も沈痛、散りばめられる高速パッセージ。
 その表情は徐々に明るくなっていき、フォークロックモードから、リフレインが続く長尺なゴスペルモードへ。
 20分を過ぎたあたりでビートを落とし思索モードから再びバラード、フォークロック~リリカルへと変わっていき、強い音、不思議感たっぷりなリフレインに帰着、リリカルな展開と交錯しながら前半は終演。
 後半は冒頭から速いテンポでの哀しく激しい表情。
 後のソロ演奏でよく聞かれる強い音、沈痛な面持ちのリフレインへと展開。
 ときおりの明るさは短い間、重く激しく不可思議なムードが全体を支配。
 フォークロックな表情もヘビー、静かな場面はリリカルというよりも沈痛。
 終盤は不可思議で激しい音、混沌と高揚の中でのエンディング。
 そして重苦しいムードを払拭するような喝采から、あの”My Song”。

 暴風雨は終わり陽光が射し・・・ってな感じのありがたい演出。
 静かに始まり、沈痛、不安、混沌を経て、安寧に至る、ってなドラマ。
 1970年代中盤のリリカル成分が強くてメロディアス、前向きな高揚感で結ぶ様式が、この辺りで変わってきたのでしょうか。

 キャッチーでわかりやすいのは“The Köln Concert” (Jan.1975)前後~“Sun Bear Concerts”、複雑で少々気難し気だったり、クラシック~現代音楽色が強かったりなのがこのあたり以降、といった感じでしょうか。

 いずれにしても、いまだ全貌つかめず、それが面白くて抜けられません。





posted by H.A.



【Disc Review】“Live In Hanover 1974” (Apl.1974) Keith Jarrett

“Live In Hanover 1974” (Apl.1974) Keith Jarrett

Keith Jarrett (piano)
Palle Danielsson (bass) Jon Christensen (drums)
Jan Garbarek (saxphones)


Live In Hanover 1974
Keith Jarrett European Quartetto
Hi Hat
2021-08-08


 Keith Jarrett、いわゆるEuropean Quartetでのライブ音源。
 American Quartetでの“Berliner Jazztage 1973” (Nov.1973)と同じくブートレッグ、TV放映用のものからの音源なのでしょう。
 同じくハイテンションながら、そちらとは色合いの違うスッキリしたコンテポラリージャズ。
 “Belonging” (Apl.1974)の録音の一週間前の録音、その全曲を演奏、さながら公開リハーサル。
 当然“Belonging”に近い色合いではあるのですが、ここから余剰なモノを削って研ぎ澄ましたのがそちら、激しく生々しいのがこちら。
 公式ライブ録音作品では、“Nude Ants” (1979)よりも、スッキリした“Personal Mountains”, “Sleeper” (1979)寄りな印象。
 ぶっ飛ぶDewey Redmanとは違うぶっ飛び方をするJan Garbarek、アクが強いリズム隊含めて遠いところまで行ってしまうAmerican Quartetに対して、破裂寸前のようなピリピリした緊張感が持続するこちらのバンド。
 スタジオ録音とは違う印象のダークで妖しい”Belonging”から始まり、ビートが入るとハードなハイテンションジャズ。
 怖いほどに張り詰めたサックス、突っ走るピアノ。
 バラードもありますが、後の”My Song”やら”Country”のような甘さは抑えたられたハイテンションな演奏が続きます。
 激しくとも崩れていっても、あくまで端正でクールなこのバンド。
 散りばめらたフリーな展開もあくまでスッキリ。
 この期の演奏、どのバンド、どの作品とも、カッコいいんじゃないでしょうか。




posted by H.A.



【Disc Review】“Berliner Jazztage 1973” (Nov.1973) Keith Jarrett

“Berliner Jazztage 1973” (Nov.1973) Keith Jarrett

Keith Jarrett (Piano,Reeds)
Charlie Haden (Bass) Paul Motian (Drums) Guilherme Franco (Percussion)
Dewey Redman (Tenor Sax)

Berliner Jazztage 1973(+2)
Keith Jarrett American Quartetto
Hi Hat
2022-01-29


 Keith Jarrett、いわゆるAmerican Quartet+αでのライブ音源。
 ブートレッグ、TV放映用の音源なのでしょう。
 ”Solo Concerts:Bremen/Lausanne” (Mar.Jul.1973) と“The Köln Concert” (Jan.1975)の間、“Treasure Island” (Feb.1974)録音直前。
 神掛かってきた時期の演奏の、妖しくハイテンションなコンテンポラリージャズ。
 公式ライブ作品で"Fort Yawuh" (Feb.1973)、“Eyes of the Heart” (1976)がありますが、激しい前者、残り火な感じの後者に対して、もちろん近い時期の"Fort Yawuh"寄り。
 "Fort Yawuh"で演奏されていた楽曲を中心に、“Treasure Island”から少々、それらをもっと妖しくして、ほどほどに激しく、そんなバランス。
 “Death and the Flower” (1974)の冒頭的、妖しいパーカッションと笛のイントロダクションからスタート。
 その後は"Fort Yawuh"と同様、全力疾走ハイテンションジャズ。
 突っ走り転げ回るピアノにグショグショなテナーサックス、それらが落ち着いたら二管での不思議系。
 そして何事もなかったように始まる沈痛耽美系、が、早々にハイテンションジャズに様変わりし、ゴスペルチックなリフレインヘ。
 続いて“Treasure Island”的ノリノリフォークロックにリリカル系、ピアノレス二管での4ビートジャズ。   
 さらにその合間に妖しいパーカッション大会やら、山奥系のボイスやら。
 何が何だかなカオス状態。
 いかにもこのバンド的なハチャメチャさ。
 黒いサックス、バタバタドラムとボコボコベース、ピアノはタメと疾走が交錯する絶好調期。
 毒気たっぷり、甘さも少々。
 カッコいいんじゃないでしょうか。




posted by H.A.



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