吉祥寺JazzSyndicate

 吉祥寺ジャズシンジケートは、東京、吉祥寺の某Barに集まるJazzファンのゆるーいコミュニティです。  コンテンポラリーJazzを中心に、音楽、アート、アニメ、カフェ、バー、面白グッズ、などなど、わがままに、気まぐれに、無責任に発信します。

Lyle_Mays

【Disc Review】“Eberhard” (2019) Lyle Mays

“Eberhard” (2019) Lyle Mays

Lyle Mays (piano, keyboards, synthesizers)

Bill Frisell (guitar) Mitchel Forman (Organ, Electric piano) Steve Rodby, Jimmy Johnson (bass) Alex Acuña, Jimmy Branly (drums, percussion)

Wade Culbreath (vibraphone, marimba) Bob Sheppard (Sax, Woodwinds) Timothy Loo, Erika Duke-Kirkpatrick, Eric Byers, Armen Ksajikian (cello) Aubrey Johnson, Rosana Eckert, Gary Eckert (vocals)

Eberhard
Lyle Mays
Oim
2021-08-27


 Lyle Mays、遺作。
 恩人Eberhard Weberへのトリビュート作品。
 制作途上で逝去し、Steve Rodby他?が仕上げたらしい約13分の組曲。
 いかにもEberhard Weber的な柔らかで幻想的なフュージョンミュージック。
 名作“Later That Evening” (1982)的であり、これまた名作“Solo: Improvisations for Expanded Piano” (1998)的であり、さらにPat Metheny Group的でもあり、それらの表情が交錯するいかにもLyle Maysな音。
 柔らかなビート、起伏を伴いながら薄く鳴るストリングス、マリンバが作る幻想的な空気感。
 リリカルなピアノとフレットレスベースが奏でる哀し気なメロディ。
 南米的な空気を付け加える女声スキャット、木管。
 それらの絡み合いが織り成す綾。
 繊細な質感で穏やかに始まりつつも、その表情はグラデーションを描きながら徐々に、そして複雑に変わっていきます。

 ビートが強くなりテンションと音量が上がる頃には”The Way Up” (2003,2004)なムード。
 そしてジャズなサックス、マリンバ、スキャットボイス、ピアノその他の激しい絡み合い、強烈な高揚感の中での大団円。
 さらに消え入るようなマリンバ、静かに鳴るシンセサイザーが作る余韻とともにフェイドアウト・・・

 さながら短編映画、とてもドラマチック。
 もしフルアルバムであれば、他がどうあれ名盤になっていたのでしょう。

 一曲のみであることが極めて残念です。
 が、その一曲がカッコいい。

 最後の最後まで、素晴らしいモノを遺していただきました。



 


posted by H.A.



【Disc Review】“Solo: Improvisations for Expanded Piano” (1998) Lyle Mays

“Solo: Improvisations for Expanded Piano” (1998) Lyle Mays

Lyle Mays (Piano, etc.)

Solo Improvisations for Expanded Piano
Lyle Mays
Warner Bros / Wea
2000-06-12


 Lyle Maysのリーダー作、第四弾、完全なソロ作品。
 Pat Metheny Groupとしては"Imaginary Day” (1997)と”Speaking of Now” (2001)の間の制作。
 ピアノのソロ演奏を中心として、ときおりシンセサイザーなどのサポートが入る形態。
 ビートを定めず、次々とフレーズを紡いでいくような音の流れ。
 とても静かで幻想的な時間。
 フリーなインプロビゼーションなのかもしれませんし、あらかじめ楽曲が用意されていたのかもしれません。
 ジャズっぽさはなく、ポップス、フォーク、ロックの色合いもありません。
 クラシックに一番近いのでしょうが、情景描写のような音楽。
 “Let Me Count the Ways”のようなとてつもなく甘いメロディ、あるいは淡く美しい音の流れから、厳しい表情を見せつつも、最後の”Long Life”は幻想的なとても美しいバラード。
 ゆったりとした不規則な音の流れは寄せては返す波のようにも聞こえるし、静かで温度、湿度の低い空気感はジャケットのような夜空を眺めているような感じかもしれません。
 非現実の世界へのトリップミュージックのようにも聞こえます。
 行き着く先はWichitaなのか、Alaskaなのか、それとも宇宙なのか・・・
 いずれにしても幻想的な場所。
 他のリーダー作はさておき、本作はECM的な音。
 私的にはこれが一番好きなLyle Maysのアルバム。
 2018年初現在、しばらく音信が途絶えていますが、ECMレコードでリーダー作を作らないでしょうかねえ・・・




posted by H.A.

【Disc Review】“Fictionary” (1992) Lyle Mays

“Fictionary” (1992) Lyle Mays

Lyle Mays (Piano)
Marc Johnson (Bass) Jack DeJohnette (Drums)

Fictionary
Lyle Mays
Geffen Records
1993-03-16


 Lyle Maysのリーダー作、第三弾。
 “The Road to You” (1991)で南米路線が終わり、“We Live Here” (1995)までの間の制作。
 ここまでとは打って変わって、アコースティックなジャズピアノトリオ作品。
 冒頭、アイドルなのであろうBill Evans縁のメンバーとあの"Waltz for Debby” (1961) Bill Evansの冒頭を想わせるバラード、その名も”Bill Evans”からスタート。
 ほんの少しだけ遅れ気味に置かれる静かなピアノと、ブラシの音がとても繊細で、あの空気感がたっぷり。
 以降、アップテンポな演奏が多く、トリオが一体となって畳みかけてきます。
 ブルージーではなくクラシックの色合いも強いヨーロッパ的なような、やはりアメリカ的なような、微妙なバランス。
 Pat Metheny Groupではピアノを弾きまくる場面は少ないのですが、本作は全編それ。
 フュージョン色はなく、全編もろジャズなのですが、Pat Metheny Group風の音の流れも少々あり、もしそのリズム隊この二人だったら・・・なんて妄想も楽しめる・・・かな?
 三人とも凄まじい演奏力。
 攻めまくりのピアノと、ちょっとJackさん、叩きすぎなのでは?
 カッコいいけど。
 Lyle Maysのジャズピアノを浴びるように聞くことが出来る貴重な一作。




posted by H.A.


【Disc Review】“Street Dreams” (1988) Lyle Mays

“Street Dreams” (1988) Lyle Mays

Lyle Mays (Piano, Keyboards)
Bill Frisell (Guitar) Marc Johnson, Steve Rodby (Bass) Peter Erskine, Steve Gadd, Steve Jordan (Drums) Glen Velez, Vicki Randle (Percussion)
Dave Taylor (Bass Trombone) Bob Malach, Bob Mintzer (Tenor Saxophone, Flute) Chris Seiter, Dave Bargeron, Keith O'Quinn (Trombone) Laurie Frink, Randy Brecker, Bob Millikan (Trumpet) Emilia Barros (Voice) Vicki Randle (Vocoder) and strings

Street Dreams (Reis)
Lyle Mays
Warner Bros / Wea
1998-12-15


 Lyle Maysのリーダー作、第二弾。
 名作“Still Life (Talking) ” (1987)、これも名作”Letter from Home” (1989)の間での制作。
 前作“Lyle Mays” (1985)はPat Metheny Groupに近いサウンドでしたが、本作は少々面持ちが異なります。
 前半は、よりアメリカンフュージョンに近い色合い。
 ドラム、サックスを中心として、その系の人が多いからなのか、もっとわかりやすい音楽にしたかったのか、その時代のサウンドなのか、とにもかくにも明るいフュージョンサウンド。
 少々デジタル臭もするキッチリしたビートに、豪華でこれまたキッチリとしたホーンのアンサンブル。
 Pat Metheny人脈では珍しいブルージーなジャズの雰囲気の演奏もあったりして・・・
 といってもファンキーでもキメキメのフュージョンでもスムースジャズでもない、淡くて柔らかな雰囲気はLyle Maysの音楽。
 ピアノトリオとBill Frisellで演奏されるフワフワした”August”や、幻想的な”Before You Go”なんてとてもいい感じ。
 後半は組曲。
 エスニック色、あるいはオーケストラも交えながら、幻想と躍動、強烈なインプロビゼーションが交錯するとてもドラマチックな構成の力作。
 などなど含めて、いろんなテイストがてんこ盛り。
 それら合わせて後の”We Live Here” (1995)、さらに”Imaginary Day” (1997)、”The Way Up” (2003,2004)のような大作路線につながっていくのでしょうね。
 時期的にはちょっと遠いか・・・




posted by H.A.


【Disc Review】“Lyle Mays” (1985) Lyle Mays

“Lyle Mays” (1985) Lyle Mays

Lyle Mays (piano, synthesizer, autoharp)
Bill Frisell (guitar) Marc Johnson (acoustic bass) Alejandro N. Acuña (drums) Nana Vasconcelos (percussion) Billy Drewes (alto, soprano sax)







 現代のアルゼンチン、ブラジル勢からリスペクトされているのであろう、Pat Metheny Group、Lyle Maysのリーダー作。
 “Cruces” (2012) Andrés Beeuwsaert、”As Estacoes Na Cantareira” (2015) André Mehmariなどで、さり気なくカバーされていたり、近い空気感の場面がしばしば登場します。

 Pat Metheny共同名義で“As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls”(Sep.1980)がありましたが、単独では第一作目。
 ECM最終作 ”First Circle” (1984)とGeffen移籍第一作 “Still Life (Talking) ” (1987)との間の時期。
 ECMでの録音は、Pat Metheny関連と“Home” (1979) Steve Swallow、“Later That Evening” (1982) Eberhard Weberぐらいでしょうか?
 そちら系の人たちとリーダー作品を制作していると面白かったのでしょうが、なかなかうまくいきません。
 本参加のBill Frisellも“Rambler” (1984)を制作の後、ECMから移籍した時期と思われ、そういう時代だったのでしょう。
 柔らかなビート感、あの柔らかなシンセサイザー、リリカルなピアノの音の流れは、Pat Metheny Groupのサウンド。
 複雑に展開するドラマチックな構成もこれまたPat Metheny Groupと同様。
 さらに、柔らかなサウンド、明快なようでどことなく幻想的な空気感も含めて、やはりPat Metheny Groupサウンドは、Lyle Maysサウンドでもあるのでしょう。
 それはさておき、本作、”Mirror of the Heart”のような、ただただ美しいピアノソロでの演奏や、電子楽器とアコースティックな演奏、ジャズとロック、クラシック、エスニックまでが交錯する、幻想的な情景描写のような組曲”Alaskan Suite”などの独自路線もたっぷり。
 そして、最後に収められたバラード”Close to Home”のこの上もない美しさ。
 とてもドラマチックです。
 Pat Methenyの単独リーダー諸作からすると、Groupの作品の色合いはLyle Maysの色合いが強かったのだろうなあ・・・と勝手に思っているのですが、本作を聞くとやはりそうだったような、そうでもなかったような・・・?




posted by H.A.


【Disc Review】“Montreal Live 89” (Jul.3, 1989) Pat Metheny Group

“Montreal Live 89” (Jul.3, 1989) Pat Metheny Group
Pat Metheny (guitars)
Lyle Mays (keybords) Steve Rodby (bass) Paul Wertico (drums) Pedro Aznar (voice, guitar, percussion) Armand Marsal (percussion,voice)
 
Montreal Live 89
Pat Metheny
Hihat
2016-04-15
パット メセニー

 Pat Metheny Group、ラジオかテレビ音源からのブートレッグ、2016年リリース。
 “Letter from Home” (1989)の頃、私の最も好きな時期、ブラジル色を入れた時期のコンサートの音源。
 “The Road to You” (1991)といった近い時期のライブアルバム、DVDもあるのですが、そちらはCD一枚、一時間前後に圧縮されていたこともあり、全体が聞けると思うと、つい・・・
 予想に違わない素晴らしい演奏。
 音質も”The Road to You”とまではいかずとも、普通に十分に楽しめる音。

Disc1.
●Phase Dance
〇Have You Heard
 Every Summer Night
 Change Of Heart
〇Better Days Ahead
〇Last Train Home
〇First Circle
 Scrap Metal
 Slip Away
 If I Could
 Spring Ain’t Here
 
Disc2.
●Straight On Red
●Are You Going With Me?
 The Fields, The Sky
 Are We There Yet?
 (It’s Just) Talk
〇Letter From Home
〇Beat 70
 Miuano
〇Third Wind

 “Have You Heard”で始まり、”Third Wind”で締めるのは当時のお約束だったのかもしれませんが、オープニングに懐かしの” Phase Dance”、締めの前には“Still Life (Talking)” (1987)のオープニング曲” Miuano”。
 当時のライブを観た人、ブートレッグを聞いている人からすれば定番で当たり前の流れなのかもしれませんが、初めて当時のライブの全貌に振れる立場としては新鮮です。
 いわゆるブラジル三部作”First Circle” (1984), “Still Life (Talking)”, ”Letter from Home”(1989)の美味しい所を集めてきたような選曲。
 さらには“Travels” (1982)にしか収録されていない変則サンバの隠れた名曲”Straight On Red”やら、”Question and Answer” (1989) 収録曲やら、その他諸々。
 “The Road to You”との重複は上の〇、“Travels” (1982)とは●。
 ”Phase Dance”、”Straight On Red”など、”Travels”の方がスッキリしているかもしれないけども、こちらの方がハイテンション、凄まじいまでの熱感、疾走感。
 目くるめくような名曲名演の連続。
 柔らかくしなやかで、ヒタヒタと迫ってくるようなビート、少し湿り気と哀感があるサウンド。
 私的には一番好きな時期、一番好きなメンバーのPat Metheny Groupがぎっしり詰まっています。
 音楽の密度としては、各々の作品、”The Road to You”の方が高いのかもしれないけども、それらを全部まとめて楽しめる一作として、よろしいのでは。
 ブートレッグながら、無人島アルバムになる・・・かな?

 Pat Metheny Groupの活動は”The Way Up” (2003,2004)で事実上停止しているのだと思いますが、そろそろ復活しないでしょうかね。
 超大作“The Way Up”でやり切った・・・、懐メロはやらない・・・、と言われてしまうと納得してしまうところではあるのですが・・・
 いずれにしても、もうこの頃の音には戻れないのでしょうね。
 
 


posted by H.A.

【Disc Review】“New York November 1979” (Nov.1979) Pat Metheny Group

“New York November 1979” (Nov.1979) Pat Metheny Group
Pat Metheny (guitars) 
Lyle Mays (piano, oberheim, autoharp, organ) Mark Egan (bass) Dan Gottlieb (drums)
 
New York November 1979
Pat Metheny
Hi Hat
2017-01-20
パット メセニー

 Pat Metheny Group、“American Garage” (1979)直後のラジオかテレビ音源からのブートレッグ、2017年リリース(なのだと思います)。
 ブートレッグにはあまり手を出さない(出さなかった)のですが、先に入手した“Montreal Live 89” (Jul.3, 1989)があまりにも素晴らしかったので、グループ結成前の“Boston Jazz Workshop, September 1976” (Sep.21.1976)、さらにMark Egan、Dan Gottlieb時代のライブも聞いてみたくなり入手。
 “Travels” (1982)ではもうSteve Rodbyに交代していたし、どのくらい印象が違うのか気にもなる時期。
 まだ普通にフュージョンっぽいバンドサウンド、ロックっぽさもありますが、この頃から柔らかなこのバンド独自のビート感と、艶のある丸いクリーントーンで突っ走るギター。
 “Boston Jazz Workshop, September 1976” (Sep.21.1976)の疾走感はそのままに、粗っぽさが消え、よりまとまった完璧な演奏、音質もまずまず。
 “Pat Metheny Group” (1978)、“American Garage” (1979)をそのまま再現したようなステージ構成。
ライブながら一糸乱れない完璧な演奏からすれば、初期のこのグループのアルバムはこれだけ持っとけば・・・なんてのは言い過ぎですが、そんなステージ構成、演奏。
  “Phase Dance”で始まるのは後々までのお約束として、”April Joy”、“Jaco”、“Cross The Heartland”、 “American Garage”、”James”など、公式のライブアルバムで聞けない名曲のライブバージョンが聞けるのが嬉しいところ。

Disc1.
 Phase Dance
 Airstream
 April Joy
 Unity Village~The House Of The Rising Sun~The Windup
 The Epic

Disc2.
 James
 Old Folks
 Jaco
 The Magicians Theater
 San Lorenzo
 Cross The Heartland
 American Garage

 “Travels” (1982)と比べると元気な印象の本作。
 やはりMark Eganがベースだからでしょうかね。
 ” April Joy”、”Jaco”のベースソロはこの人のいる時期ならでは。
 終盤は、公式アルバムでは収録されていない、あちこちのオリジナル曲を合わせたようなサンバっぽいチューン“The Magicians Theater”でドーカンと盛り上がって、名曲”San Lorenzo”で締め。
 アンコールはあの”Cross The Heartland”~”American Garage”。
 完璧なステージ構成。
 好みからすれば“Montreal Live 89” (Jul.3, 1989)頃のサウンドがベストなのですが、シンプルで明るい心地よさがあるのはこちら、その中間が“Travels”ってな感じでしょう。
 いい感じで進化しているようなこの時期のPat Metheny Group。
 過渡期と呼ぶには適当ではない完成度・・・というよりも、爽やかで明るく元気なアメリカンフュージョンのPat Metheny Groupの第一期が完成したのがこの時期なのでしょう。
 アメリカンなフュージョンのステージですが、柔らかさしなやかさは特別。

 この後”80/81”(May.1980)、”As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls” (Sep.1980)などのソロ作品、”Toninho Horta” (1980)などへの客演などを経て、Steve Rodby、Nana Vasconcelosを迎えた新展開、”Offramp”(Oct.1981)へ。
 ブラジル色が入り、私にとってはベストな音が始まる一歩手前。
 が、このステージも別のテイストながら最高です。

※近い時期のステージから。


posted by H.A.

【Disc Review】“Boston Jazz Workshop, September 1976” (Sep.21.1976) Pat Metheny

“Boston Jazz Workshop, September 1976” (Sep.21.1976) Pat Metheny
Pat Metheny (guitar)
Lyle Mays (piano) Mike Richmond (bass) Dan Gottlieb (drums)
 
BOSTON JAZZ WORKSHOP
PAT METHENY
HIHAT
2016-09-16
パット メセニー

 Pat Metheny、“Bright Size Life”(Dec.1975)と”Watercolors”(Feb.1977)の間、 “Passengers” (Nov.1976) Gary Burtonセッション の二か月前、放送音源からのブートレッグ。
 これは前から出回っていたのでしょうか?私が初めて聞いたのは2016年。
 Jaco Pastriusはもちろん、Eberhard Weber、Mark Eganの参加もありませんが、ここから半年後の”Watercolors”のサウンドが出来かかっています。
 初期のPat Methenyの柔らかでしなやかなビート感、サウンドはEberhard Weberの影響、透明度の高い美しい音はECMの色合いと思っていましたが、このアルバムを聞く限り、Pat Metheny自身、あるいはLyle Maysとのコンビの色合いと考えた方が適当なのでしょうね。
 音質はよくはないですが、ま、十分に楽しめます。
 冒頭、Lyle Maysのピアノが入った”Bright Size Life”なんて、ありそうでない演奏。 
 全編でピアノがキレまくっています。
 オリジナルよりもハイテンション。
 続く名曲“River Quay”、ちょっとベースが暴れ気味なのはご愛敬、後のPat Metheny Groupのお三方はこの時点で完璧。
 ギターはもちろん出来上がったPat Metheny サウンド、さらに盛り上がってしまうLyle Maysのピアノのソロがとてもカッコいい。
 さらにはジャズスタンダード“There Will Never Be Another You”。
 ちょっと変わった質感ではありますが、きちんと4ビート、バース交換までしているのが微笑ましいというか、何というか。
 これまたLyle Maysのジャズピアニスト振りがカッコいいけど、ちょっとベースの人、飛ばし過ぎ。
 続く“Watercolors”で突っ走るギター。
 やっぱりこの人は4ビートよりこっちだなあ。
 “Passengers”収録の二曲を経て、“Watercolors”収録の”Ice Fire”、“Bright Size Life”収録の“Unquity Road”から、珍しい直球なラテン曲で締め。
 やはりEberhard Weberがいるといないとでは印象は異なり、荒っぽい場面も少なくないのですが、いかにも”Watercolors”が生まれる空気感は十分。
 ま、半年前ですから当然ですか。
 “Bright Size Life”でもない、“Watercolors”でもない、”Pat Metheny Group” (Jan.1978)でもない、過渡期のPat Metheny & Lyle Maysサウンド、少々普通のジャズ・フュージョン寄り。
 が、柔らかでしなやかなビートと、明るくて爽やか、透明感のある音。
 やはり特別です。
 
 


posted by H.A.


【Disc Review】“As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls” (Sep.1980) Lyle Mays, Pat Metheny

“As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls” (Sep.1980) Lyle Mays, Pat Metheny
Lyle Mays (piano, synthesizer, electric organ, autoharp) Pat Metheny (guitars, bass)
Naná Vasconcelos (berimbau, percussion, drums, vocals)

As Falls Wichita So Falls Wichita Falls
Pat Metheny
Ecm Records
パット メセニー
ライル メイズ


 Lyle Mays, Pat Metheny共同名義作品。
 “American Garage” (Jun.1979)の後、ベーシストが交代し、音作りも大きく変わった“Offramp” (Oct.1981)の前の作品。
 シンセサイザーの音が目立つ、ドラマチックな組曲、その他諸々の要素。
 このアルバム、Lyle Maysの志向、色合いが強いのでしょうかね。
 前半の組曲は静かで淡々としたビート感、ギター、ピアノのインプロビゼーションが前面に出る場面も少なく、Pat Methenyグループっぽさ、あるいはジャズっぽさはあまり感じません。
 何かの映画のサウンドトラック、といった面持ち。
 後のピカソギター的な音や、民族音楽的な笛っぽい音、幻想的なムードなどもこの作品から。
 後々の作品でのさまざまな実験的とも聞こえる音使いが、この作品の中にたくさん納められています。
 また、Naná Vasconcelosが初参加。
 このアルバムでは強いブラジル色はありませんが、しばらく共演が続きますので、一つの転機なのでしょう。
 NanaのECM参加が“Dança Das Cabeças” (Nov.1976) Egberto Gismontiからで、少し間が空いています。
 “Toninho Horta” (1980)へのPatの参加は近い時期、あるいはEgberto Gismontiっぽいオリジナル曲が収められていることも興味深いところ。
 アメリカンなLyle Mays, Pat Methenyにとっては、彼らへのあこがれがあり、それらの要素を吸収、消化中といったところだったのでしょうかね。
 さらにはシンセサイザーを背景にアコースティックギター、ピアノを中心としたBill Evansへ捧げられたバラード、そしてNanaの幻想的なボイス、妖しげなパーカッションが映える曲、などなど、後々のグループの音作りにつながる演奏がたくさん。
 この後、グループ作品で初めてブラジル色、アバンギャルド色を入れた“Offramp” (Oct.1981)へ続きます。
 なお、このアルバム収録の“It’s for You”には、矢野顕子のカバーがあり、ゲスト参加のPatのギター含めて、オリジナルよりもしなやかでドラマチック、とてもカッコいい演奏です。




posted by H.A.

【Disc Review】”The Way Up” (2003,2004) Pat Metheny Group

"The Way Up" (2003,2004) Pat Metheny Group
Pat Metheny (Acoustic guitar, Electric Guitar, Synth guitar)
Lyle Mays (Piano, Keyboards) Steve Rodby (Bass, Cello) Antonio Sanchez (Drums)
Cuong Vu (Trumpet, Voice) Gregoire Maret (Harmonica, Percussion) 
Richard Bona (Percussion, Voice) Dave Samuels (Percussion) 
 
THE WAY UP
Pat Metheny Group
Nonesuch

パット メセニー

 Pat Metheny Group、”Secret Story” (1991,1992)~”We Live Here”(1995)~”Quartet”(1996)以降、あるいは全キャリアの集大成ともいえそうな、超大作。
 ”Secret Story” (1991,1992)、 ”Imaginary Day”(1997) のドラマ性、プログレッシブロック的質感をベースとしつつ、”Speaking of Now”(2002) のしなやかさ、幻想的な南米路線、アコースティックギターでのフォーク路線、4ビートのハードジャズ、さらには変拍子~今日的なビートなどなど・・・全部詰め込んだ全一曲。
 乱暴にまとめると・・・
 ビート感は強め、リズムは複雑で今日的、
 楽曲、アンサンブルは複雑でドラマチック、ぶ厚い音、
 次から次へと目まぐるしく変わる景色、カラフルな音作り、
 メカニカルで複雑な展開、アンサンブル、計算し尽くされた構成と強烈な高揚感、
 かつての淡い色合いが極彩色に、水彩画が油絵に・・・、
 そんな感じ。
 これでもかこれでもかと突っ込んでくる凄まじい演奏が最初から最後まで続きます。
 これをやりたくて何年も試行錯誤してきたのでしょう・・・そう思わせるような凄み。
 さすがに全一曲の組曲、4種のブロックごとでも長尺ですので、気楽に聞ける感じではないのですが、要所にカッコいいメロディ、強烈な展開がたくさん組み込まれています。
   パート1の超弩級にドラマチックな展開に、パート2にかけての強烈な4ビートでの凄まじいインプロビゼーション、パート3にブラジル路線のイメージなどなど・・・
 1990年代からの集大成であるとともに、音のイメージは変われど1970年代からの集大成でもあるのでしょう。
 超弩級にハイテンションな超大作、でも暗かったり深刻だったりはしないし、Pat Metheny Groupらしい素晴らしいアルバム。
 好みはさておき、これが最高傑作、に異論なし。
 それにしてもごっつい音楽・・・・・・
 スピーカーに対峙して正座して聞かないとね・・・そう思わせる最高のアート。

 なお、この作品の後、Pat Methenyと盟友Lyle Maysの共演は途絶えている・・・のかな・・・? 




posted by H.A.

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