吉祥寺JazzSyndicate

 吉祥寺ジャズシンジケートは、東京、吉祥寺の某Barに集まるJazzファンのゆるーいコミュニティです。  コンテンポラリーJazzを中心に、音楽、アート、アニメ、カフェ、バー、面白グッズ、などなど、わがままに、気まぐれに、無責任に発信します。

Kip_Hanrahan

【Disc Review】“Tenderness” (1988-1990) Kip Hanrahan

“Tenderness” (1988-1990) Kip Hanrahan
Kip Hanrahan (Voice, Percussion)
Don Pullen (Piano) Leo Nocentelli (Electric, Acoustic Guitars) 
Sting, Fernando Saunders (Voice, Electric Bass) Andy González (Acoustic Bass) 
Ignacio Berroa, Robbie Ameen, Andrew Cyrille, Marvin Smith (Drums) 
Milton Cardona (Percussion, Congas) Giovanni Hidalgo (Percussion, Congas, Quinto) Cecilia Engelhardt (Percussion) Richie Flores (Percussion, Congas)
Chico Freeman (Tenor Sax) Alfredo "Chocolate" Armenteros (Trumpet) Alfredo Triff (Violin) 
Lucy Penebaz, Diahnne Abbott, Carmen Lundy (Voice)

Tenderness
Kip Hanrahan
Enja
2011-03-08
キップ・ハンラハン

 アフロキューバンなジャズ~ポップスKip Hanrahan、本作あたりが一番の人気作なのでしょうか?
 それとも“A Thousand Nights And A Night: Red Nights”(1996)なのかな?
 この期のKip Hanrahanサウンドに強烈な色を付けるピアノのDon Pullenが定着。
 サックスのDavid Murrayは抜けてしまいましたが、代わりにChico Freemanの復帰という何ともマニアックな人選。
 Jack Bruceはクレジットされておらず、誰かはわからないものの、囁く激渋ボイスの男声はフィーチャーされています。
 妖しいボイスのCarmen Lundyが継続参加し、超大物Stingも参加しています。
 さらにAstor Piazzollaバンドを意識してか否か、前作辺りから大きくフィーチャーされる揺らぐようなバイオリンが妖し気なムードと緊張感を助長しています。
 CDのフォーマットでは穏やかなソウル~ポップス調のソフトなバラード、LPではブルージーなバラード(?)から始まりますが、助走はそこまで。
 以降は激しい演奏がてんこ盛り。
 延々と続くシンプルなリフと怒涛のように押し寄せるラテンパーカション、別の次元から聞こえてくるような妖し気なバイオリンの音が誘う陶酔感。
 さらに、そんな陶酔感の中、Don Pullenのとてつもなく激しいピアノが意識をグチャグチャにかき回します。
 ぶっ飛んでいます。
 特に2~4曲目、“When I Lose Myself in the Darkness and the Pain of Love, No, This Love”、 “She Turned So the Maybe a Third of Her Face Was in This Fuckin' ...”、“At the Same Time, as the Subway Train Was Pulling Out of the Station”(タイトル長すぎ!)あたりは、エレクトリックMilesハンドもビックリの激しさ。
 ラテンなビートとコード進行が類似しているRolling Stonesの”Sympathy for the Devil”を何倍も激しく妖しく混沌にした感じの、呪術的ですらある音の流れ。
 そんな超弩級に激しい音を背景にした、男声、女声が交錯する囁きボイス・・・
 これは超、妖しく危険。
 このサウンドが、ハードなアフロキューバンジャズのKip Hanrahanの完成形でしょうか。
 次作“Exotica” (1993)、千夜一夜シリーズ“A Thousand Nights And A Night: Red Nights” (1996) に繋がっていると思います。
 トリップミュージックと呼ぶには輪郭が明確に過ぎ、煽情的に過ぎる感じではありますが、どこか遠い非日常に連れて行ってくれるような素敵な音。
 行き着く先はキューバなのか、ニューヨークの薄暗い地下室なのか・・・
 どこが”Tenderness”やねん?ってな感じではあるのですが、もちろんいつもながらに、さり気なくオシャレ。
 しかもクールでハードボイルド。
 いつもながらにカッコいいKip Hanrahanワールド。
 これが代表作に異論なし。




 posted by H.A.

【Disc Review】“Days and Nights of Blue Luck Inverted” (1988-1989) Kip Hanrahan

“Days and Nights of Blue Luck Inverted” (1988-1989) Kip Hanrahan
Kip Hanrahan (Producer, Percussion, Guitar, Keyboards, Voice, Percussion)
Peter Scherer (Piano, Keyboards) Pablo Ziegler (Piano) Leo Nocentelli (Guitar)
Andy Gonzalez, Jack Bruce (Bass) Steve Swallow (Bass, Piano) Fernando Saunders (Voice, Bass)
Ignacio Berroa, Robbie Ameen, Willie Green (Drums)
Milton Cardona, Puntilla (Congas) Giovanni Hidalgo, Anton Fier (Percussion)
Charles Neville, Rolando Napolean Briceno (Alto Sax) Mario Rivera (Baritone Sax) David Murray, George Adams, John Stubblefield (Tenor Sax) Lew Soloff (Trumpet)
Jerry Gonzalez (Trumpet, Congas) Alfredo Triff (Violin) Carmen Lundy (Voice)

キップ・ハンラハン

 アフロキューバンなジャズ~ポップスのKip Hanrahan、リーダー作第4弾。
 いつもながらのジャズ、ファンク、ロック、ブルース、フォーク、アフロ、キューバン、その他諸々、てんこ盛りのフュージョンミュージック・・・、さらに本作ではタンゴなども交えつつのKip Hanrahanワールド。
 デビュー作“Coup de tête” (1979-1981)のとんがったポップスな音に、ソフトな“Vertical's Currency” (1984)の色合い、さらにジャズ成分が強くなって、このアルバムで後々まで続くスタイルが完成したイメージでしょうか。
 バラードから始めるのがこの人の流儀のようですが、本作の冒頭はEllington所縁のジャズバラード“Love Is Like a Cigarette”。
 オールドスタイル、穏やかで優雅なホーンアンサンブルを中心に、普通に平和にジャズかと思いきや、最後に隠された唐突なCarmen Lundyの妖し気なアカペラボイス。
 普通にメロディを歌っているだけなのですが、ちょっと怖いような、ゾクゾクっとくる、なんとも凄い空気感。
 それがこれまた唐突にプツンと終わると、コンガが鳴り響くアフロキューバンロックなKip Hanrahanワールド・・・
 そんな流れでスタートしますが、後続は前作“Vertical's Currency” (1984)と比べると、少々強めのビート感。
 ザラツキ、トゲが独特の色合いのデビュー作“Coup de tête” (1979-1981)の音が洗練され、スッキリと整理されてきたようにも感じます
 もちろん妖しさ危なさは満点。
 囁くボイスとパーカッションの絡み合い。
 高揚と陶酔にいざなう音の流れの中での醒めたクールネス。
 本作、American Clave制作の“Tango: Zero Hour”(1986)、”La Camorra” (1988) Astor Piazzollaの制作と同時期といったこともあるのでしょう、レーベルメイト?のAstor Piazzollaが一曲”Ah, Intruder!”を提供。
 ピアノはPiazzolla バンドのPablo Ziegler
 タンゴなKip Hanrahanは、後にも先にもこれだけかも?
 どうせなら御大も呼んで、バンドネオンとコンガ&囁きボイスの共演を聞きたいような、そうでもないような・・・
 いかにもPiazzollaな名曲ですが、アルバムの中に溶け込んでいるような、そうでもないような・・・
 さておき、終盤は再びジャジーなムード・
 が、そこにも唐突なアカペラが隠されています。今度は男声・・・
 そんなこんなで、もちろん本作も妖し気な名作、さらに激烈な大名作“Tenderness” (1988-1990)へと続きます。




 posted by H.A.


【Disc Review】“Cab Calloway Stands in for the Moon” (1988) Conjure

“Cab Calloway Stands in for the Moon” (1988) Conjure
Kip Hanrahan (Producer)
Allen Toussaint (Piano) Don Pullen (Organ, Vocals)
Elysee Pyronneau, Johnny Watkins, Leo Nocentelli (Electric Guitar)
Steve Swallow (Bass) Fernando Saunders (Vocals, Bass)
Ignacio Berroa, Robbie Ameen (Drums)
Frisner Augustin, Manenquito Giovanni Hidalgo, Milton Cardona (Congas)
Hamiet Bluiett (Baritone Sax) Lenny Pickett, David Murray, Eddie Harris (Tenor Sax, Vocals) Olu Dara (Trumpet, Vocals, Harmonica)
Bobby Womack, Clare Bathé, Diahnne Abbott, Grayson Hugh, Robert Jason, Shaunice Harris, Tennessee Reed, Carla Blank, Ishmael Reed (Vocals)



 Kip Hanrahan、Conjureプロジェクトでの第二作。
 “Conjure: Music for the Texts of Ishmael Reed” (1983)と同様に、Ishmael Reedの詩にみんなで曲を付けて集まって演奏しようぜ、ってな企画。
 いろんな畑から人が集まってきているので、いろんな色合いの曲が並びます。
 ソウル、ファンク、ロック、ジャズ、アフロキューバン何でもあり。
 オルガンが鳴り響くソフトソウルっぽいのもあれば、一つのリフを繰り返す正統派ソウルスタイル、ブルースギターが鳴り響く曲、ロック混じりのヘビーな演奏・・その他諸々。
 さりげなく収められたわずか1分30秒の女性ボーカルのアカペラがものすごくカッコよかったりもします。
 David Murrayその他、サックス奏者もバリバリと短からず長からずのカッコいいインプロビゼーション揃い。
 後のKip Hanrahanサウンドのキーマンの一人Don Pullenの参加もここからでしょうか。
 ともあれ、本作はAllen Toussaintのフィーチャーされる場面が最も多いのでしょう。
 柔らかくのほほんとしたニューオリンズファンクの寛げる空気感。
 詩のメッセージ自体はベビーなものかもしれませんが、Kip Hanrahan名義の作品ほど妖しさ危なさがないのもチェンジオブペース。
 いい楽曲、いい演奏が揃っています。
 とても素敵なフュージョンミュージック、ソウル寄り。




 posted by H.A.


【Disc Review】“Vertical's Currency” (1984) Kip Hanrahan

“Vertical's Currency” (1984) Kip Hanrahan
Kip Hanrahan (Percussion, Producer)
Peter Scherer (Organ, Synclavier, Synthesizer) Arto Lindsay, Elysee Pyronneau (Guitar)
Jack Bruce (Bass, Piano, Vocals) Steve Swallow (Bass) 
Ignacio Berroa, Anton Fier (Drums) 
Frisner Augustin (Tambou, Tamboura) Milton Cardona (Bongos, Congas) Olufemi Claudette Mitchell (Chekere) Orlando "Puntilla" Rios (Congas, Quinto)
David Murray, Andriau Jeremie, Ned Rothenberg, John Stubblefield (Tenor Sax) Mario Rivera (Baritone Sax) Lew Soloff, Richie Vitale (Trumpet)
Nancy Weiss, Nancy Hanrahan (Voices)

Vertical's Currency
Kip Hanrahan
Enja
2008-03-18
キップ・ハンラハン

 ニューヨークアンダーグランド、アフロキューバンジャズ~ポップスのKip Hanrahan、第三作。
 本作、Smooky Robinsonを意識して云々、タイトルはお金が落ちてくるようにの意、売れ線を狙って云々・・・との情報もあります。
 確かにメロディ、アレンジがキャッチーになり、しっとりとしたソウルな曲、ポップス仕立てのソフトな曲も目立ちます。
 結果的には、しっとりとした感じがジャジーさに繋がり、ここではまだハードではないものの、後々まで続くアフロキューバンジャズの色合いが見えてくる作品のようにも思います。
 もちろん純粋なジャズはないのですが、このあたりからのジャジーな作品が私的には最も好み。
 哀愁のメロディに独特のグルーヴ、Jack Bruceのうらぶれたような男臭い囁きボイスに、David Murrayのこれまた男臭い真っ黒けのテナーサックス。
 ポップスっぽい作りの曲でも、David Murrayのサックスが一音鳴ると一気にハードコアなジャズモード・・・
 ってなところまではいきませんが、ポップス~ソウルの枠にとどまらない、ジャジーな香り、エスニックな香りがとてもいいバランス。
 が、本作でもパーカッションだけで一曲、クリエイティブ系の妙な音のギターが鳴って、なんてマニアックな色もあります。
 ちょっと聞きではポップにロマンチックにできていてとても馴染みやすい音の流れですが、妖しく危ない空気、仕掛けもたっぷり。
 いつも通りの、ジャズ、ファンク、ロック、ブルース、フォーク、アフロ、キューバン、その他諸々、てんこ盛りのフュージョンミュージック、但し、本作は少々ソフトなポップス寄り。
 うらぶれた男の哀愁、それでいてちょっとオシャレなKip Hanrahanワールドはそのまま。
 30年の歳月が経った今にしても、古くない素敵な世界。
 とてもクールです。
 なお、近年のCDに追加された?未発表曲?“Against the Light”も、静かなグルーヴと囁きボイスの組み合わせ。
 静かな哀愁が漂う素晴らしいメロディ、高揚感~陶酔感、ソフト&ハイテンションなKip Hanrahanのカッコよさが濃縮されたとても素敵な演奏です。




 posted by H.A.


【Disc Review】“Conjure: Music for the Texts of Ishmael Reed” (1983) Conjure

“Conjure: Music for the Texts of Ishmael Reed” (1983) Conjure
Kip Hanrahan (Producer, Instruments, Congas)
Kenny Kirkland, Peter Scherer, Steve Swallow (Piano) Allen Toussaint (Piano, Organ) Arto Lindsay, Elysee Pyronneau, Jean-Paul Bourelly (Guitar) Taj Mahal (Vocals, Guitar, Dobro) Andy Gonzalez (Bass) Jamaaladeen Tacuma, Sal Cuevas, Steve Swallow (Electric Bass) Billy Hart (Drums) Puntilla Orlando Rios, Olufemi Claudette Mitchell, Frisner Augustin (Percussion) Frisner Augustin, Milton Cordona, Puntilla Orlando Rios (Congas) David Murray (Vocals, Tenor Sax) Lester Bowie (Vocals, Trumpet) Olu Dara (Trumpet) Brenda Norton, Don Jay, Ejaye Tracey, Molly Farley, Robert Jason (Vocals)
Ishmael Reed (Voice)



 Kip Hanrahan、リーダー作と並行して動くプロジェクトの第一作。
 参加メンバーを眺めるだけでもなんだかすごい人たち。
 彼らが詩人Ishmael Reedの詩に楽曲を付け、入れ代わり立ち代わり演奏する構成。
 リーダー作と同様、ジャズ、ファンク、ロック、ブルース、フォーク、アフロ、キューバン、その他諸々、てんこ盛りのフュージョンミュージックですが、楽曲がKip Hanrahan作曲ではないもの中心なので、全体の印象はリーダー作とは異なります。
 ソウル、ブルース、ロックな感じの楽曲が中心。
 が、演奏は、怒涛のパーカッション、ハードコアなジャズの人たちのホーン陣とあわせて、アフロキューバンなジャズの香りも濃厚。
 メロディラインは違っても、どことなく妖し気で危ない空気感は常に流れています。
 地下に潜って、何かわからない煙が立ち込めて・・・ってな危険な香りに、哀愁漂ううらぶれたような歌声。
 パーカッションの連打の中の熱狂の中で、どこか醒めたような空気感。
 そこに炸裂するあのDavid Murrayの真っ黒けなサックス・・・
 それでいてクールで、どことなくオシャレなKip Hanrahanワールド。
 Taj Mahal、Allen Toussaintがフィーチャーされる場面も多く、それらは彼らの色合いなのですが、その他含めて、なんだかんだで全てKip Hanrahanワールド。
 さり気ないブルースまでがクール。
 にしても、Allen Toussaintがピアノ、Jamaaladeen Tacuma, Steve Swallowがベースを弾いて、David Murrayがテナーを吹き、Taj Mahalが歌うなんて、なかなかちょっと・・・
 カリスマLester Bowieもカッコいい演奏。
 いろんな要素をぶっ込んで、強烈な個性の最高の人を集めて、なおKip Hanrahanワールド。
 文字通り、最高のフュージョンミュージック、でしょう。
 なお、Ishmael Reed本人の朗読も収められていますが、私は最近までナレーターとしてMorgan Freemanを呼んだんだ、と思っていました。
 声も語り口もそっくりだもんね。
 ホントは彼などをキャスティングして、映画を作りたかったんだろうなあ。




 posted by H.A.


【Disc Review】“Desire Develops an Edge” (1983) Kip Hanrahan

“Desire Develops an Edge” (1983) Kip Hanrahan
Kip Hanrahan (Vocals, Percussion)
Arto Lindsay, Elysee Pyronneau, Ti'Plume Ricardo Franck (Vocals, Electric Guitar) Alberto Bengolea, Jody Harris, John Scofield (Electric Guitar)
Jack Bruce (Vocals, Electric Bass) Steve Swallow (Piano, Electric Bass) Jamaaladeen Tacuma, Sergio Brandao (Electric Bass)
Anton Fier, Ignacio Berroa, Tico Harry Sylvain (Drums)
Milton Cardona (Congas, Shekere) Olufemi Claudette Mitchell (Vocals, Chekere, Percussion) Puntilla Orlando Rios (Vocals, Congas, Congas)
Teo Macero (Alto Saxophone) John Stubblefield, Ned Rothenberg, Ricky Ford (Tenor Saxophone) Hannibal Marvin Peterson (Trumpet) Jerry Gonzalez (Trumpet, Congas, Claves, Percussion) Molly Farley (Vocals)

DESIRE DEVELOPS AN EDGE
KIP HANRAHAN
ewe
2007-06-27
キップ・ハンラハン

 ニューヨークアンダーグランド、アフロキューバンなコンテンポラリーミュージックのKip Hanrahan、第二弾。
 後々まで共演する、あのCreamのJack Bruce、Steve Swallowがここから参加。
 その他何人かのメンバーが入れ替わってはいますが、前作“Coup de tête” (1979-1981)と印象は違います。
 妖しく危ないいムードながら素直な構成だった前作に比べて、本作は構成もマニアック。
 冒頭からパーカッションとドラムのみでの六分超。
 二曲目はホーンアンサンブルが鳴り響く明るいキューバンポップス。
 三曲目からやっとJack Bruceの激渋ボイスが前面に出て、二台のエレキベースとパーカッションと、さらにサックスの妖し気な絡み合い。
 途中からビートが上がって、穏やかながら何とも凄みのあるキューバングルーヴ。
 ニューヨークなのかハバナなのかはわかりませんが、都会のうらぶれた街角、やるせなく危ない空気感がたっぷり。
 そんなムードの合間に、カリブの陽光が見えるようなエスニックで明るい演奏、あるいは、もろカリビアンエスニックな演奏、さらには穏やかなボッサ、などが交錯します。
 オーソドックスなバンド編成で素直に演奏する曲ばかりではなく、パーカッション、ドラムの少ない音数を背景として、囁くボイス、あるいはカリビアンエスニックな歌声を乗せ、ベース、ギター、サックスなどで彩りを付けていくような音作り。
 それがちょっと普通ではない感じ、さらに緊張感を醸し出しているようにも思います。
 先の“Coup de tête” (1979-1981)風はもちろん、後のソフトな“Vertical's Currency” (1984)風あり、激しい“Exotica” (1993)風あり、もろキューバンエスニックな“This Night Becomes a Rumba” (1998)風ありで、後の作品の色合いのショーケース。
 この時点ですでに、彼の頭の中では先々に発表するそんな音が鳴っていて、どう整理するか試行錯誤していたのでしょうか。
 カリビアンな陽光と都会のうらぶれた街角の陰影が交錯する音。
 二作目にして応用編、というか、これがKip Hanrahanの世界、そのショーケースといえば、その通り。




 posted by H.A.

【Disc Review】“Coup De Tête” (1979-1981) Kip Hanrahan

“Coup De Tête” (1979-1981) Kip Hanrahan
Kip Hanrahan (Percussion, Synthesizer, Vocals)
Carla Bley (Piano, Vocals) Orlando Di Girolamo (Accordion)
Arto Lindsay, Bern Nix, Fred Frith, George Naha (Electric Guitar)
Bill Laswell, Jamaaladeen Tacuma (Electric Bass) Cecil McBee (Bass)
Anton Fier, Ignacio Berroa, Victor Lewis (Drums)
Nicky Marrero (Bongos) Angel Perez, Carlos Mestre, Gene Golden, Jerry Gonzalez Daniel Ponce (Congas, Percussion) Jerry Gonzalez, Daniel Ponce, Nicky Marrero (Percussion) Daniel Ponce, Gene Golden, Jerry Gonzalez (Shekere) Dom Um Romao (Surdo, Agogô)
Chico Freeman (Clarinet, Tenor Sax) Carlos Ward, George Cartwright (Alto Sax) David Liebman (Soprano Sax) Byard Lancaster, John Stubblefield, Teo Macero (Tenor Sax) Michael Mantler (Trumpet) George Cartwright, Byard Lancaster, George Cartwright (Flutes) John Clark (French Horn) Billy Bang (Violin) Lisa Herman (Vocals)

Coup De Tete
Kip Hanrahan
Yellowbird
2010-07-13
キップ・ハンラハン

 ニューヨークアンダーグランド、アフロキューバンなコンテンポラリーミュージックのKip Hanrahan、第一作。
 ジャズ、ファンク、ロック、ブルース、フォーク、アフロ、キューバン、その他諸々、てんこ盛りのフュージョンミュージック。
 人種のるつぼ云々の土地柄通り、全部突っ込んで混ぜ合わせてみました、それも薄暗い地下室に危ない人たちが集まって・・・そんな感じの音。
 発表と同時に聞いたわけではなく、“A Thousand Nights And A Night: Red Nights” (1996)のDon Pullenの凄まじい演奏、あるいは後の作品に参加するDavid Murrayからさかのぼって聞いた人。
 もちろんジャズではないのだけども、ジャズ系、ファンク系の恐ろし気なメンバーの名前を眺めるだけどもその凄みが伝わってきます。
 冒頭から乾いたパーカッションの響き、ドスの効いたファンクなベースラインを背景にした、囁くように緩く歌う妖しい男声、女声。
 後にあのCreamのJack Bruce、ジャズボーカリストCarmen Lundyを求めた理由がよくわかります。
 さらに、時にクールに、時にクダを巻くようななサックスに、遠くから響いてくるようなフルート、狂気の漂うギター、バイオリン・・・
 ピアノが入るのはCarla Bleyが参加した一曲のみで、基本的にはピアノレスな音、ギターの多用が、初期の作品のクールな色合い、あるいはロック色、ポップ色の強さにも繋がっているように思います。
 それでもサックスが鳴り出すと一気にハードコアなジャズのムード・・・ 
 もちろん楽曲は、うらぶれた街角のやるせなさが漂う、Kip Hanrahanのメロディ。
 ほどほどポップでほどほどソウル、猥雑な感じながらなぜかオシャレでクールな空気感。
 硬派と軟派が交錯する感じは、アメリカ版あるいはアフロキューバンなThe Style Councilってな感じがしないでもありません。
 が、ポップスと片づけてしまうには、あまりにも凝ったアレンジに、充実したインプロビゼーションとインタープレーに、一部のアバンギャルドで激しい音。
 ここからメンバーが入れ替わりながら完成度を増していきますが、この時点でその世界観は出来上がっています。
 それは約30年後の最近作、“At Home in Anger” (2007-2011)まで変わっていないように思います。
 もし、トゲやザラつきを削ってポップさを前面に出していけば、The Style CouncilやSadeのような存在になったのかもしれません。
 後の“Vertical's Currency” (1984)でそれにチャレンジしたのかもしれません。
 あるいは、プロデューサーとして素晴らしい作品を制作したAstor Piazzollaと長く活動を共にできたならば、または、誰かしら彼に続く才能に出会っていたら、新世代のTeo Macero、あるいはアメリカのManfred Eicherになっていたかもしれません。
 が、なんだかんだでさらにマニアックに、アンダーグラウンドに潜っていくのも、この人のカッコよさ。
 まずはスーパープロデューサーのスーパーアーティストとしてのカッコいいデビュー作。
 とても妖しくて危なくて、クールです。




 posted by H.A.

【Disc Review】 “A Thousand Nights And A Night: Red Nights” (1996) Kip Hanrahan

“A Thousand Nights And A Night: Red Nights” (1996) Kip Hanrahan
Kip Hanrahan (Producer, Percussion)
DD Jackson, Don Pullen, Mike Cain (Piano) Eric Schenkman (Guitar)
Andy Gonzalez, Fernando Saunders (Bass)
Negro Horacio Hernandez, JT Lewis, Robby Ameen (Drums)
Abraham Rodriguez, Anthony Carrillo, Eric Valez, Milton Cardona, Paoli Mejias, Richie Flores, Puntilla Orlando Rios (Congas)
Henry Threadgill (Flute) Charles Neville (Tenor Saxophone) Alfredo Triff (Violin)
Brandon Ross, Carmen Lundy, Jack Bruce, Silvana Deluigi (Vocals)

キップ ハンラハン



 

 Astor PIazzollaのプロデューサーにしてニューヨークアンダーグランウンドの雄、Kip Hanrahanの千夜一夜物語。
 主役はパーカッションとピアノ、そして超妖しいヴォイス。
 凄まじいまでに強烈なグルーブ。
 リズムはカリブ~キューバ系。
 都会的に洗練されたクールかつ緊張感が漂うビート。
 パーカッシブ&メロディアスなピアノ。
 ピアノはDD Jackson、さらにあの故Don Pullen。
 そして何とも言えない哀感が漂うメロディ。
 それもやるせない男臭い哀愁。
 それらを囁くように歌うジャズボーカリストCamen Lundy、さらにあのクリームのJack Bruceなどなど。
 妖しさ満点。
 妖しく危ない、そして美しく、さらにオシャレな音楽。
 これはカッコいいわ。



posted by H.A.
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