吉祥寺JazzSyndicate

 吉祥寺ジャズシンジケートは、東京、吉祥寺の某Barに集まるJazzファンのゆるーいコミュニティです。  コンテンポラリーJazzを中心に、音楽、アート、アニメ、カフェ、バー、面白グッズ、などなど、わがままに、気まぐれに、無責任に発信します。

Keith_Jarrett

【Disc Review】“Creation” (2014) Keith Jarrett

“Creation” (2014) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
Creation
Keith Jarrett
Ecm Records
2015-05-12
キース ジャレット

 Keith Jarrett、2014年、トロント、東京、パリ、ローマでのステージからダイジェストされたソロピアノ。
 “La Scala” (Feb.1995)に代表されるような1990年代のソロピアノは、各パートの終盤に収められているとても美しいメロディを創り出すために長尺な試行錯誤を続けているイメージ。
 一方、2000年以降のソロピアノは短いパートに分かれ、難解、抽象的な展開も多い中に美しいメロディ、パートが散りばめられている構成。
 もし美味しい所だけを集めたらキャッチーな作品になるのだろうとは思っていました。
 が、さすがにそれをやると、天から降りてきたようなメロディを生み出す過程が見えなくなるのでやらないだろう・・・
 と思っていたのですが、それに近いことをついにやってしまいました。
 それが本作。
 タイトルは、まさにその意味、即興を通じて創造されたメロディ、演奏の意味なのでしょうかね?
 が、単にベストな演奏を集めたといった感じではなく、静かで敬虔なイメージで統一されています。
 元のステージの様子はわかりませんし、必ずしもキャッチーな部分を集めたものではなく、何らかのテーマをもって編集されているのでしょう。
 ここまでのソロピアノ作品の中でも少し異色な作品。
 拍手もカットされています。
 全9編、各々10分弱、全編スローバラード。

 “Part. 1”はゆったりとしたテンポ、少し重苦しいムードの祈るような展開。
 “Part. 2”では少し軽くなりますが、引き続きの祈るような敬虔な音の流れ。
 “Part. 3”~ “Part. 4”はメロディの形が明確になりそうでなり切らないバラード演奏。
 “Part. 5”でようやくはっきりとしたメロディのバラード。
 少し懐かしげな表情の穏やかな演奏、切ないような優しいような複雑な表情、冒頭からグラデーションをつけながら徐々に中盤の締め“Part. 5”に向かって組み立てられていいるようにも思われます。
 “Part. 6”はきらめくような高音の高速なパッセージから、センチメンタルなメロディ、漂うようなスローな演奏からスタート。
 新たな物語が始まったようにも聞こえるし、“Part. 5”からの続きのようにも聞こえるし、強めのタッチ、少し重さはありますが、明るいような切ないような、これまた複雑な表情。
 “Part. 7”は波が寄せては返すような演奏。
 明確なメロディの提示はありませんが、悲し気な表情を見せながらドラマチックな構成。
 “Part. 8”は少しアブストラクト、少し苦し気な音の流れを経て、前向きでメロディアスな“Part. 9”へ。
 これ見よがしな美メロではなく、淡い色合いのバラード。
 ドラマチックながら、とても穏やかな表情で幕を閉じます。

 全体の印象は少し重め、前作“Rio” (Apl.2011) で戻ってきたようにも感じた1970年代を想い起こさせるようなタメと高速なフレーズが交錯する場面もありません。
 抽象的で激しい演奏は採用されていませんが、派手だったり甘かったりするメロディも採用されていません。
 全編通じて穏やかで敬虔なムード。
 2014年のKeith Jarrettの意識はそんな感じだったのでしょう。
 たぶん。

 


 ECM制作以降の作品群。
 ソロピアノ(〇)作品に着目すると、
 ハイテンションでとにかく美しい様式美の1970年代、
 クラシック色合いが強くなり、フリーも織り交ぜながらドラマッチックにゴールを目指すイメージの1980-1990年代、
 休養を経て、ここまでの要素を短い演奏で並べていく2000年代~。
 わかりやすいのは“The Köln Concert” を代表とする1970年代でしょう。
 が、とてつもないのは“La Scala”(Feb.1995)。
 フリー混じりでこわもてな1980-1990年代ですが、終盤の美しい旋律を構築するまでの凄まじいまでのドラマ。
 凄いアートだなあと思います。
 “Rio”(Apl.2011)の後半もいいなあ。

〇(Nov.1971) "Facing You"
 (Apl.1972) "Expectations"
 (Jun.1972) "Hamburg '72
 (Nov.1972)   “Conception Vessel”    Paul Motian
 (Feb.1973) "Fort Yawuh"
 (Feb.1973) "In the Light"
〇(Mar.Jul.1973) ”Solo Concerts:Bremen/Lausanne” 
 (Feb.1974) “Treasure Island” 
 (Apl.1974) Belonging” 
 (Apl.1974) “Luminessence” 
 (Oct.1974) Death and the Flower” ,“Back Hand” 
〇(Jan.1975) The Köln Concert” 
 (Feb.13.1975) “Solo Performance, New York ‘75” 
 (Jun.1975) "Gnu High"   Kenny Wheeler 
 (Oct.1975) Arbour Zena” 
 (Dec.1975) Mysteries” 
 (???.1975) Shades” 
 (Mar.1976) Closeness”  Charlie Haden
 (Apl.1976) The Survivor's Suite” 
〇(May.1976) Staircase” 
 (May.1976) Eyes of the Heart” 
 (???.1976) “Hymns/Spheres” 
 (Oct.1976) Byablue”、“Bop-Be” 
〇(Nov.1976) Sun Bear Concerts” 
 (Jun.1977) “Ritual” 
 (Feb.1977) Tales Of Another” Gary Peacock 
 (Oct.-Nov.1977) “My Song"    
 (Apl,16-17.1979) “Sleeper”, “Personal Mountains” 
 (May,1979) Nude Ants:Live At The Village Vanguard
 (1979,1980) "Invocations/The Moth and the Flame"
 (Mar.1980) "G.I. Gurdjieff: Sacred Hymns", "The Celestial Hawk"

〇(May.1981) ”Concerts:Bregenz” 
〇(Jun.1981) ”Concerts:Munchen
 (Jan.1983) Standards, Vol. 1”、“Standards, Vol. 2” 、“Changes
 (May-Jul.1985) "Spirits"
 (Jul.1985) "Standards Live"
 (Jul.1986) "Still Live", "Book of Ways", "No End"
〇(Apl.1987) "Dark Intervals"
 (Oct.1987) Changeless” 
〇(Oct.1988) Paris Concert
 (Oct.1989) ”Standards in Norway” 
 (Oct.1989) “Tribute”
 (Apl.1990) “The Cure”
〇(Sep.1991) “Vienna Concert
 (Oct.1991) “Bye Bye Blackbird”
 (Sep.1992) “At the Deer Head Inn”
 (Mar.1993) “Bridge of Light”
 (Jun.1994) “At the Blue Note”
〇(Feb.1995) “La Scala
 (Mar.1996) “Tokyo '96”
〇(Oct.1996) “A Multitude of Angels” 

〇(1998)   “The Melody At Night, With You” 
 (Jul.1999) “Whisper Not”
 (Jul.2000) “Inside Out” 
 (Apl.2001) “Always Let Me Go”
 (Jul.2001) “My Foolish Heart”
 (Jul.2001) “The Out-of-Towners”
 (Apl.2001) “Yesterdays”
 (Jul.2002) “Up for It”
〇(Oct.2002) “Radiance
〇(Sep.2005) “The Carnegie Hall Concert
 (2007)   ”Jasmine”, “Last Dance
〇(Oct.2008) “Testament
 (May.2009) “Somewhere”
〇(Apl.2011) “Rio
〇(2014)   “Creation

posted by H.A.

【Disc Review】“Rio” (Apl.2011) Keith Jarrett

“Rio” (Apl.2011) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
Rio
Keith Jarrett
Ecm Records
2011-11-08
キース ジャレット

 Keith Jarrett、ブラジルでのソロピアノ。
 本作も21世紀型のソロピアノ、短めの楽曲を次々と演奏していくスタイル。
 ブラジルのイメージ、ジャケットのムードから明るくて陽気かも・・・とはなりません。
 CD一枚目は重い感じです。
 やはり“The Carnegie Hall Concert” (Sep.26.2005), “Testament” (Oct.2008)と同じ感じの21世紀型か・・・
 が、CD二枚目に明るい演奏がたっぷりと収められています。

 冒頭、” Part 1”は甘いメロディを排したフリージャズ~現代音楽のような展開。
 ぶっ飛んだような激しい音。
 “Part 2”、ゆったりとしたテンポの中から美しいメロディが見え隠れするような展開となりますが、まだもどかし気に試行錯誤しているようにも聞こえます。
 続く“Part 3”は不思議なワルツ。
 ビートが入って音の流れが少しずつ軽快になっていきますが、左手が不思議なコードを奏で続け、重いムードは抜けません。
 “Part 4”でソロピアノでは珍しいジャズバラード風の演奏、” Part 5”は“Treasure Island”(Feb.1974)風の軽快で明るいフォークロック。
 ようやく陽光が見えてきた感じですが、右手は軽快にメロディを奏でるものの、なぜか左手を中心とした重いムードはまだ抜けず、それは“Rio, Pt. 6”でも続きます。
 まだ上空の重々しい雲はなくなっていません。

 CD二枚目に入って“Part 7”は漂うようなムードのセンチメンタルなバラード。
 ここで重いビートが消えるとともに、メロディが明確になり、1970年代が想い起こさせるようなタメと高速なフレーズが交錯する素晴らしいインプロビゼーション。
 ようやく本当に陽光が差し始め、楽し気なワルツの“Part 8”を経て、得意の日本的な音階が散りばめられた雅な感じのバラード、とても美しい” Part 9”に展開します。
 この“Part 7”, “Part 8”,“Part 9”がこのステージのピークの一つでしょう。
 それを求めて試行錯誤し、ここで第一部が結実、完了したようにも聞こえます。

 それに安堵した?かのように” Part 10”から再び抽象的な音の流れが始まります。
 鬼神のような激しい演奏ですが、前半のような重さはなくなっているようにも感じます。
 軽快なブルース“Part 11”、思索的な“Part 12”を経て、もう一つのピークが“Part 13”。
 とてもセンチメンタルなメロディとタメと疾走の交錯。
 やはり1970年代 Keith Jarrettが戻ってきたかのような素晴らしい演奏。
 明るいフォークロックな“Part 14”から、最後はとてもセンチメンタルな美しいバラード“Part 15”。
 ”Part 10”から第二部が始まり、“Part 13”, “Part 14”, “Part 15”の創造、またはゴールを目指して試行錯誤をしていたようにも思えます。
 とても素晴らしい、美しく前向きなエンディング。
 気が付けば空は晴れ渡り、ジャケットのような明るいムード。

 結果としては馴染みやすい演奏がCD二枚目に集まっています。
 後半の明るいムード、1970年代型のKeith Jarrettのピアノが戻ってきた感じの場面も多々。
 これが2010年代型 Keith Jarrettのソロピアノの形かも・・・と思っていましたが、次作“Creation” (2014)を聞く限りは、見事に読みを外しましたかね・・・




posted by H.A.


【Disc Review】“Testament” (Oct.2008) Keith Jarrett

“Testament” (Oct.2008) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
Paris London: Testament
Keith Jarrett
ECM
2009-10-06
キース ジャレット

 Keith Jarrett、パリとロンドンでのソロピアノ。
 “The Carnegie Hall Concert” (Sep.26.2005)から三年空いて、間の作品はCharlie HadenとのDuo、”Jasmine”, “Last Dance” (2007)のみで、スタンダーズも公式録音は2017年現在、発表されていません。
  “Radiance” (2002)、“The Carnegie Hall Concert”と続く21世紀型ソロピアノ、短編小説集のような構成。
 “La Scala” (Feb.1995)のような明確なゴールがあるわけではなく、抽象的な展開の時間が長い演奏。

 パリのステージ、冒頭から抽象的な音の流れ、怒涛のような激しい演奏。
 二十年前の“Paris Concert (1988)から完全にモデルチェンジしたソロピアノ。
 Part.2に入っても激しく重い空気感は拭えませんが、ビートが定まり、ジャズ的なインプロビゼーションの切れ味は増してきます。
 Part.3はスローバラード、漂うようなルバートでスタート。
 Keithの真骨頂、懐かしいような悲しいようなメロディの芯が見え始め、リズムが定まったと思ったらまた崩れ・・・とてもドラマチックに展開します。
 もっともっと長く続けてくれたらいいのに、と思う素晴らしい演奏。
 が、その安堵も束の間、Part.4では再び抽象的で激しいフリーな演奏が始まります。
 Part.5は穏やかながら祈るような質感。
 メロディが見えそうで見えてこない、複雑な表情のこの期のKeithの得意な展開。
 Part.6では強いビートが入り、ジャズ的なムードが強いノリのいい演奏。
 演奏後、長く続く拍手から考えると、ここでステージが終わったのかもしれません。
 Part.7でようやく登場するセンチメンタルなメロディ、フォークロック調の演奏。
 準備された曲なのだろうと思いますが、懐かし気で切ない、どこかで聞いたことがあるようなメロディ”My Song”なKeith Jarrett。
 締めの”Part.8”は激しいフリーからスタート。
 長尺な演奏、どこかで変わることを願いつつも、最後まで凄まじいフリーでパリのステージは幕。
 やはり“La Scala” (Feb.1995)的ではなく、“The Carnegie Hall Concert” (Sep.26.2005)的なステージ。
 1970年代型、1980年代型はもとより、1990年代型も終わり、21世紀型ソロピアノに遷移しているようです。

 ロンドンのステージは静かに思索的に始まります。
 フリーではなく穏やかですが、少々重め、甘いメロディは出てきません。
 “Part.2”でジャズ的なインプロビゼーション色が強くなり、”Part.3”はフォークロック調。
 “Part.4”は桜が舞い散るような日本的な音使い、短い演奏ですが、とても美しく幻想的な素晴らしい演奏です。
 “Part.5”の激しく長尺なフリーを経て、フォーキーなバラード”Part.6”と、以降も含めて目まぐるしく展開は変わっていきます。
 重めのビートの”Part.7”、フォーキーでドラマチックなバラード”Part.8”、素っ頓狂な疾走曲”Part.9”、不思議な行進曲風”Part.10”・・・
 締めの二曲は、不思議なビート、コードが先導し、メロディが見え隠れするようなバラード“Part.11”、おそらくアンコール?、フォークロックな“Part.12”。
 “Part.11”ではタメと疾走が交錯する1970年代 Keith Jarrettが戻ってきたかのような、また、“Rio” (Apl.2011)を予見するようなインプロビゼーションも聞かれます。
 そして“Part.12”、懐かし気なメロディ、アメリカンロックのLeon Russellを想わせるような展開とともに、前向きに幕。

 混沌を経てとてつもなく美しい演奏に到達する1990年型ではなく、楽曲を短く刻み、フリー度、現代音楽度も高い演奏とフォーキーな演奏が入り混じる21世紀型Keith Jarrettのソロピアノの一作。
 大衆小説、純文学、前衛小説が交錯する演奏。
 難解で散漫な印象もありますが、“The Carnegie Hall Concert” (Sep.26.2005)と同様に、合間合間に素晴らしいメロディ、演奏が散りばめられています。
 パリの”Part.3”、ロンドンの”Part.4”、”Part.8”、“Part.11”とかカッコいい演奏です。
 それに出会えること、他のパートについても見えてくる景色が変わってくること期待しつつ聞いてみますかね・・・

 


posted by H.A.


【Disc Review】”Jasmine”, “Last Dance” (2007) Keith Jarrett, Charlie Haden

”Jasmine”, “Last Dance” (2007) Keith Jarrett, Charlie Haden
Keith Jarrett (piano) Charlie Haden (bass)
 
Jasmine (Shm-Cd)
KEITH JARRETT
MUSICSTORE
2015-09-21
キース ジャレット
チャーリー ヘイデン

Last Dance
Keith Jarrett
Ecm Records
2014-06-17


 Keith Jarrett、かつての盟友とのDuo作品。
 ”Jasmine”は2010年、“Last Dance”は2014年の発表で、後者はCharlie Haden の遺作、もしくは追悼作になるのだと思います。
 “The Melody At Night, With You” (1998)と並んでKeith Jarrettの作品群の中では異色の静謐なバラードアルバム。
 この二人が揃うと“Death and the Flower” (1974)などのアメリカンカルテット諸作もさることながら、“Closeness”(1976)Charlie Hadenの強烈な演奏を思い出しますが全く異なる質感。
 楽曲も二人の作った数多くの名作バラードは取り上げず、ジャズスタンダードからのチョイス。
 Keith Jarrettの諸作、あるいはCharlie HadenのDuo諸作とは異なる音。
 “The Melody At Night, With You”と同じく不思議な磁力をもった静謐な音。
 ビートに乗った演奏も多いため、それとは違う質感ですが、Keith Jarrettは“The Melody At Night, With You”ほどではないにせよ、同様にタメを効かせて少し遅れ気味に音を置いていくスタイルも目立ちます。
 それに寄り添うように静かに音を置いていくCharlie Haden。
 訥々としたムード。
 それでも十分に流麗で、“The Melody At Night, With You”の凄みのようなものは無いのかもしれません。
 消えかかったろうそくのようにゆらめく“The Melody At Night, With You”に対して、静かに優しく煌めくような本シリーズ。
 興奮もなければ、かつての激情や狂気のようなものの表出もない穏やかな空気。
 その裏に隠された意味は・・・
 なんて野暮なことは考えずに、美しいメロディ、淡々と流れる音の流れに和むのがよいのでしょうね。




posted by H.A.


【Disc Review】“The Carnegie Hall Concert” (Sep.26.2005) Keith Jarrett

“The Carnegie Hall Concert” (Sep.26.2005) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
Carnegie Hall Concert
Keith Jarrett
Ecm Records
2006-09-26
キース ジャレット

 Keith Jarrett、“The Melody At Night, With You” (1998)で病床から復帰し、“Radiance” (2002)に続くソロコンサート。
 本作も前作に続き10分以内の短めの演奏集、抽象的、現代音楽的な演奏が中心。
 “La Scala” (Feb.1995)ようなドラマチックな展開を期待してしまうのですが、そうはなりません。
 以降の作品を眺めても“Radiance”からは、21世紀型のソロピアノのスタイルに遷移したようにも思います。

 冒頭から抽象的な演奏の連続。
 特に前半は、少なくともポップミュージック、ジャズ的な意味でのメロディアスな演奏ではなく、現代音楽的な音の流れ、あるいはヘビーなビート感が目立ちます。
 Part IIIでようやくセンチメンタルなメロディの漂うような演奏が登場しますが、これも少し重いムード、発展させることなく短く終わり、Part IVのぶっ飛んだフリーの展開へと続きます。
 さらに重々しく始まるPart Vの中盤から美しいメロディが見え隠れし始め、ドラマチックな展開になるか・・・?と思わせながら大きく盛り上がることなく、淡く悲し気な空気を残したまま終了、再びぶっ飛んだフリーなPart VIが始まります。
 中盤、Part VIIに”Let It Be”っぽいフォークロックな展開が登場、続くPart VIIIでセンチメンタルなメロディがようやく奏でられ、静かながら胸に迫るような演奏。
 “La Scala”にもあったどこか懐かし気な美しいメロディ。
 後の名作“January” (2008) Marcin Wasilewskiなどは、“La Scala”、あるいはこのあたりからの影響が強いのかな、と思ったり。
 さらに抽象的で激しいPart IXに続いて、締めのPart Xは祈るような敬虔なムード、シンプルなリフをベースとした、熱は高くはないものの、かつてのゴスペルチックな演奏。
 場面々をとらえれば、紛うことなき1970年代から続くKeith Jarrettのピアノミュージック。
 抽象的、離散的な演奏ばかりではありませんし、かつての演奏を髣髴とするような場面も多々ありますが、展開の予想はできません。
 その時々に降りてきたモノを音に変えていくスタイルも変わっていないのだと思いますが、連続するインプロビゼーションの中から美しいメロディを生みだす、あるいはそれに到達する“La Scala”のようなやり方はあまり前面には出ません。
 Part VIII~Part Xがそのゴールに当たるのかもしれませんが、演奏が分断されていることもあり、長編映画を見ていた感覚の“La Scala”に対して、短編小説を読むような本作。
 大衆小説、純文学、前衛小説が交錯するようなステージ。

 そして、三分以上続く拍手の後に始まるアンコールは大衆小説のオンパレード。
 既成?の美しい楽曲“The Good America”、さらにあの”Mon Coeur Est Rouge(Paint My Heart Red)"、なんと “My Song”・・・以降も続く演奏。
 アンコールというよりも第二部。
 難解だとか、流れが見えないとか、なんとか言わずにKeith Jarrettの感性の動きを感じるのがよいのでしょうね。
 私はまだそこまで大人には成れていませんが。
 それでもPart VIII、Part Xなんて美曲、直接的に胸に迫るような演奏が潜んでいるので聞き逃せないことは、ファンゆえの悲しい性でしょうか・・・




posted by H.A.


【Disc Review】“Radiance” (2002) Keith Jarrett

“Radiance” (2002) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
Radiance
Keith Jarrett
Ecm Records
2005-05-03
キース ジャレット

 Keith Jarrett、“The Melody At Night, With You” (1998)で療養から復帰し、“Whisper Not” (Jul.1999)・・・など、毎年トリオ作品を録音する中、久々のソロピアノ。
 大阪、東京での録音。
 “La Scala” (Feb.1995)で新しいスタイルを完成させたかと思われる後のピアノインプロビゼーション。
 ここから21世紀型 Keith Jarrettのソロピアノのスタイルが始まっています。
 かつての作品では同じく日本でのステージ"Dark Intervals" (Apl.1987)的な展開。
 15年の歳月が流れていますが、そこで試行していた展開を再び始めたと考えるべきなのか、長尺な連続する演奏の中からピークを作っていく形ではなく、短い演奏を積み上げていく形で音楽を組み立てる方法に変えたのか・・・
 その他含めてどんな意図、事情でスタイルを変えたのかはわかりません。
 “The Köln Concert” (Jan.1975)が長編の大衆小説、“La Scala” (Feb.1995)が長編の純文学だとすれば、本作以降は、短編の大衆小説、純文学、抽象的な散文的なモノも入り混じる短編小説集、といった感じ。
 演奏の切れ味は鋭く、凄まじい演奏が多いのですが、抽象的な時間が長くなっています。
 Part1~13は大阪のステージ全体、Part14,15は東京の冒頭、Part16,17は東京のエンディング。

 冒頭Part1は鋭い切れ味、静かなフリージャズ的な音。
 美しいメロディが見え隠れする場面はありますが、目まぐるしく次のべ面へと切り替わっていきます。
 Part2でビートは定まりますが、激しいクラシック的な展開。
 Part3で落ち着き、穏やかでフォーキーなバラード。
 Part4、Part5は再びフリー~現代音楽的な抽象的な音の流れ。
 激しい演奏が続きます。
 Part6は物悲しげな表情、少し重めの今にも止まりそうなスローバラード。
 Part7はまたまた激しいフリーを経て、Part8はフォーキーでメロディアスな演奏。
 Part9で漂うようなバラードがようやく登場しますが、綿々としたというよりも淡々とした表情。
 Part10は揺れ動きながら静かに音が散りばめられていくような音使い。
 メロディが見え隠れするような展開を経ながら、崩れ落ちそうになりながら、終盤に音がまとまり、穏やかな表情~波のようなリフレインで締め、“La Scala”などのステージ全体をコンパクトにまとめたような演奏。
 短いインタールード的なPart11から、少しヘビーなリフ、高速なパッセージが映えるPart12でステージは幕。
 アンコールPart13はとても繊細音使いの美しいバラード。

 東京のステージPart14も抽象的な演奏からスタート。 
 まとまりそうでまとまらない、穏やかになりそうそうでまた激しくなる音の流れ。
 激しく攻撃的な音のまま終了します。
 その流れを引き継ぎながら、その激しさ和らげるかのようなバラードPart15。
 重厚で厳しい表情から始まりますが、徐々に美しいメロディが定まり、優しい表情へと変わっていき、静かに幕。
 こちらはそれぞれ長尺な演奏、“La Scala”などかつての前後半の二部構成の一部のような構成。
 東京のステージの終盤に当たるPart16は穏やかな短いバラード。
 続く長尺なPart17は、波が押し寄せるような、グラデーションをつけながら微妙に変わっていく音使い、大阪のPart10と似た展開からスタート。
 穏やかだったPart10と比べると激しい演奏から、Part12に近い重いビートの演奏で幕。

 長尺な“La Scala”などと違って曲が断片化し、抽象的な展開も多いため、グラデーションをつけながら終盤のピークを目指す印象は薄いのですが、おそらく大阪のステージのピークはPart10。
 そこに向けて何かを繋ぎ、組み立てながらイメージを作っていっていることは感じられます。
 そして熱を冷ますようなメロディアスなアンコール。
 かつての演奏と構成は変われど、目指しているところ、やはりKeith Jarrettのソロピアノの本質は変わらないのでしょう。




posted by H.A.


【Disc Review】“The Melody At Night, With You” (1998) Keith Jarrett

“The Melody At Night, With You” (1998) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
The Melody At Night, With You
Keith Jarrett
Ecm Records
1999-10-19
キース ジャレット

 Keith Jarrett、療養からの復帰第一作。
 この前の作品が“La Scala” (Feb.1995), “Tokyo '96” (Mar.1996), “A Multitude of Angels” (Oct.1996)。
 “La Scala”で新しいソロピアノの形を完成させたとも思われる後の療養。
 とても静かなスタンダード曲の演奏。
 とても穏やかな音。
 冒頭の“I Loves You, Porgy”。
 ただただ、淡々とメロディ+αを奏でるのみ。
 微妙にタメが入り、訥々とした印象の音の流れ。
 ここまでのKeith Jarrettにはなかった音の置き方。
 長年のファンからすれば何が起こったのかわからない不思議な音。
 続く”I Got It Bad”などでは饒舌なインプロビゼーションも展開され、決してリハビリの途上なわけばかりではなさそうです。
 では、Keith Jarrettはこの演奏で何を表現しようとしたのか?
 さらに後の同じ空気感のCharlie HadenとのDuo”Jasmine”, “Last Dance” (2007)を含めて繰り返し聞いても、おおよそ二十年後の今の耳で聞き直してみても適当な言葉が見つかりません。
 ただただ、慈しむような優しいピアノの音が流れるだけ。
 曲が進むにつれ、穏やかになる気持ち。
 単に原曲の素晴らしさだけではない何かがある、特別な音であるように感じます。
 これに類するような演奏は他にはないと思います。
 あの“Ballads” (Dec.1961,Sep.1962,Nov.1962) John Coltraneなととも全く質感の異なる優しく穏やかな音。
 最高の癒しの音。
 いつかこの時のKeith Jarrettが考えたこと、やりたかったことが、しっくりとわかる日が来るのかもしれません。


 

posted by H.A.


【Disc Review】“A Multitude of Angels” (Oct.1996) Keith Jarrett

“A Multitude of Angels” (Oct.1996) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
A MULTITUDE OF ANGELS
KEITH JARRETT
ECM
2016-11-04
キース ジャレット




 Keith Jarrett、2016年にリリースされたソロピアノアルバム
 公式音源では大名作 “La Scala” (Feb.13.1995)、スタンダーズ“Tokyo '96” (Mar.1996)に続く、休養に入る直前の時期の録音。
 この人のソロピアノは飽きるぐらいに聞いたのでもういいや・・・と思いつつも、あの“La Scala”に近い時期なら何かあるかもなあ・・・で入手してしまったアルバム。
 “La Scala”から二年弱後、同じくイタリアでの4ステージがたっぷりと収められています。
 後の楽曲を短く刻むスタイルではなく、各会場、前半後半の二部構成+アンコール、“La Scala”と同じ構成、組み立ても似ています。
 が、全体的に淡い色合いで、“La Scala”までの完成度、テンションのステージは無いように思います。
 それでも各部の終盤にピークを作るべく、長尺な試行錯誤を続けるような、1990年代のソロピアノの貴重な記録。

CD.1 Modena (Oct.23, 1996)
 第一部は淡いメロディのスローバラードからスタート。
 静かで淡々とした優しい音の流れが続きます。
 10分過ぎたあたりからビートが定まり、祈りモード。
 が、いつもと違って明るいムード、短いタイミングで、フォークロックモード、マーチモードへと切り替わります。
 強いタッチの演奏が続きますが、30分過ぎたあたりから、この期の特徴、懐かし気でセンチメンタルなメロディが見え隠れするバラード~そのまま静かに幕。
 第二部はフリーからスタート。
 “La Scala”の二部冒頭ほどは激しくはありませんが、もどかしいような、何かと格闘するような音の流れ。
 続くこと20分弱、ビートが穏やかになるとともに明るさが戻り、フォークロックモードへから穏やかなバラードへ遷移し、前向きに幕。
 アンコール?は今にも止まりそうなスローバラード”Danny Boy”。
 明るいムード、緊迫感など、質感は異なりますが、様式、展開は“La Scala”に同じ。
 やはりこの期のソロピアノはこの形がメインのようです。

CD.2 Ferrara (Oct.25, 1996)
 このステージも淡いバラードからスタート。
 ”Modena”よりもビートが早く入り、躍動感のある演奏から始まりますが、次第にテンポを落とし、漂うようなスローな展開から静かな祈りモード、さらに強めのタッチの抽象的な、が、何かを積み上げていくような音の流れ。
 強いタッチのままメロディの形が見え隠れし始めたと思いきや、マーチモード、オリエンタルな音階、と目まぐるしく展開は変わります。
 25分前後からミディアムテンポのリフ、グルーヴの形がまとまりますが、ストップ&ゴーも含めて変幻自在な展開。
 徐々にテンションと音量を上げながら続くこと十数分、高い熱を冷ますような切ないメロディの短いバラードで一部は終了します。
 この日も第二部は飛び跳ねるようなフリーからスタートしますが、すぐにビートは定まり速いテンポ、不思議な音使いの展開から、フォークロックで落ち着き、テンポを変えながらの長尺なインプロビゼーション。
 22分前後からテンポを落とし、締めの漂うなバラードパート。
 時折ビートを留めながらの、これまた何かを懐かしむような、慈しむような、穏やかで優しいメロディで静かに幕。
 アンコールはとても静かな、日本の民謡の香りも漂うバラード。
 この日のステージはフリーな部分はわずか、全体のテイストも”Modena”とは少々異なりますが、様式、構成は同様です。

CD.3 Trino (Oct.28, 1996)
 この日も漂うようなバラードからスタート、スローなテンポはそのままに、早いタイミングから抽象的な音の流れ、美しいメロディの断片が現れては消える展開。
 続くこと十数分、ビートを止めて、高音のみを使った何かが舞い落ちるような幻想的な音の流れ。
 19分前後からビートが入り始め、祈りモードとマーチモードを合わせたような重厚な展開から、再びビートを止めてカデンツァ的な演奏へ。
 オリエンタルな音階から徐々にセンチメンタルなメロディが見え始めますが、再び重厚な音の流れに。
 その重々しい空気のまま、この日の一部は短い静かなメロディとともに終了します。
 戸惑うように間を空けた拍手・・・
 第二部はこの日もフリーから。
 切れ味抜群、あちこちを飛び跳ねるような、高速に突っ走るようなフリー。
 18分過ぎ、どこまでも続いていきそうなその流れは収まり、漂うような美しい展開が始まります。
 断片的な流れが徐々に整理され、美しいメロディが見え隠れし始め、集約されていくスタイル。
 この日は、無伴奏的なミディアムテンポのフォークロック調から始まり、そのままビートが入り、最後はカデンツァで終了します。

CD.4 Genova (Oct.30, 1996)
 この日は一部の冒頭から散文的、フリーな展開。
 叩くような強いタッチ、あちこちに飛び回るような演奏。
 続くこと二十余分、ようやく音が整い始め、漂うような、波のような音の流れに変化。
 そこから十数分、波のうねりは続き、その波間に見え隠れするような、極めて超スローなテンポな美しいメロディ。
 そのまま波が引くように幕。
 とても優雅でドラマチックなエンディング。
 第二部は穏やかなバラードからスタート。
 “La Scala”などのこの期のステージ構成とは一部二部が入れ替わる形。
 今にも止まりそうなテンポ、とても悲し気なメロディと儚い音使い。
 徐々にビートが定まりますが、悲しげな表情は変わりません。
 再びビートは止まり、無音の余白も多い時間を経て、強いビートの陰鬱な展開へ。
 その重々しい雲が晴れることなくエンディング。
 その重々しい空気を払うべくか、アンコールは明るいブルース、そして最後は、晴れた空を待ちわびたような、”Over the Rainbow”。
 
 “The Köln Concert”(Jan.1975)を典型とする1970年代型のソロピアノの形を量産したのが“Sun Bear Concerts”(Nov.1976)といった関係に対して、1980年代~型、あるいは1990年代型ソロピアノの典型“La Scala” (Feb.13.1995)に対する本作、といった整理になるのかもしれません。
 フリーで激しい演奏も交えながら、終盤の美しいメロディをどう生み出していくかのドキュメント。
 “La Scala”のとてつもなく素晴らしい展開、超ハイテンションな演奏には及ばないのかもしれませんが、何か美しいものが生まれる過程を感じ、期待しつつ、時には裏切られ、時には結実する、全く先の読めない物語のようなスリルとサスペンス。
 こんなことができるのは、あるいはやろうとしていたのは、この期のKeith Jarrettだけのように思います。
 私は他には知りません。
 このステージの後、Keith Jarrettは療養入りし、次のソロピアノでのインプロビゼーション作品“Radiance” (2002)以降は、長尺ではなく短いパートで構成する演奏。
 1970年代から続く長尺でドラマチックなスタイルのソロピアノ、最後の記録としても貴重な音源なのでしょう。

※こちらは1987のステージ。



(Nov.1971) "Facing You"
(Apl.1972) "Expectations"
(Jun.1972) "Hamburg '72
(Feb.1973) "Fort Yawuh"
(Feb.1973) "In the Light"
(Mar.Jul.1973) ”Solo Concerts:Bremen/Lausanne” 
(Feb.1974) “Treasure Island” 
(Apl.1974) Belonging” 
(Apl.1974) “Luminessence” 
(Oct.1974) Death and the Flower” ,“Back Hand” 
(Jan.1975) The Köln Concert” 
(Feb.13.1975) “Solo Performance, New York ‘75” 
(Jun.1975) "Gnu High"   Kenny Wheeler 
(Oct.1975) Arbour Zena” 
(Dec.1975) Mysteries” 
(???.1975) Shades” 
(Mar.1976) Closeness”  Charlie Haden
(Apl.1976) The Survivor's Suite” 
(May.1976) Staircase” 
(May.1976) Eyes of the Heart” 
(???.1976) “Hymns/Spheres” 
(Oct.1976) Byablue”、“Bop-Be” 
(Nov.1976) Sun Bear Concerts” 
(Jun.1977) “Ritual” 
(Feb.1977) Tales Of Another” Gary Peacock 
(Oct.-Nov.1977) “My Song"    
(Apl,16-17.1979) “Sleeper”, “Personal Mountains” 
(May,1979) Nude Ants:Live At The Village Vanguard
(1979,1980) "Invocations/The Moth and the Flame"
(Mar.1980) "G.I. Gurdjieff: Sacred Hymns", "The Celestial Hawk"
(May.1981) ”Concerts:Bregenz” 
(Jun.1981) ”Concerts:Munchen
(Jan.1983) Standards, Vol. 1”、“Standards, Vol. 2”、“Changes
(May-Jul.1985) "Spirits"
(Jul.1985) "Standards Live"
(Jul.1986) "Still Live", "Book of Ways", "No End"
(Apl.1987) "Dark Intervals"
(Oct.1987) Changeless” 
(Oct.1988) Paris Concert
(Oct.1989) ”Standards in Norway” 
(Oct.1989) “Tribute”
(Apl.1990) “The Cure”
(Sep.1991) “Vienna Concert
(Oct.1991) “Bye Bye Blackbird”
(Sep.1992) “At the Deer Head Inn”
(Mar.1993) “Bridge of Light”
(Jun.1994) “At the Blue Note”
(Feb.1995) “La Scala
(Mar.1996) “Tokyo '96”
(Oct.1996) “A Multitude of Angels” 
(1998)   “The Melody At Night, With You” 


posted by H.A.


【Disc Review】“La Scala” (Feb.13.1995) Keith Jarrett

“La Scala” (Feb.13.1995) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
La Scala
Keith Jarrett
Ecm Records
キース ジャレット


 Keith Jarrett、“Vienna Concert” (Jul.1991)から四年後のソロコンサート。
 大傑作。
 スタンダーズでは “Keith Jarrett at the Blue Note” (Jun.1994)、“Tokyo '96” (Mar.1996)の間。
 本作ももちろん1970年代型ではなく、1980年代~の型のソロピアノ。
 現代音楽的な色合いも強い"Dark Intervals"(Apl.1987)を経て、”Paris Concert” (Oct.1988)、“Vienna Concert” (Jul.1991)あたりではメロディアスさも戻ってきましたが、時間を経るにつれ重厚に抽象的に、あるいはクラシック的になってきている感じがします。
 が、本作、それだけではなく、ここまでの作品とは何か違う凄み。
 “The Köln Concert”ではない、新しいピアノインプロビゼーションのスタイルがここにきて完成を見たようにも思います。
 “The Köln Concert”が大衆小説の大傑作だとすれば、本作は純文学の大傑作。
 人気、わかりやすさ、好みはさておき、本作がKeith Jarrettのソロピアノの最高傑作といっても過言ではないように思います。

 第一部、何かを慈しむような、懐かしむようなとても美しい旋律で幕を開け、静かで淡々とした優しい演奏が十数分続きます。
 が、次第に重苦しい音の流れに変わり、ビートを止めた片手のみでの演奏、さらにはヘビーなビート、スパニッシュなようなアラビアンなような音階・・・深刻な音の流れ、陰鬱で苦し気にも聞こえる演奏。
 それらを経て、冒頭から35分過ぎ、徐々に穏やか、前向きになり、再びリリカルなメロディに戻る展開。
 そこから10分弱、甘すぎることのない、漂うような音の流れの中で静かに幕。
 冒頭、終盤のあまりにも美しい整ったメロディとドラマチックな展開。
 本当にこれも即興なのでしょうか?
 疑いたくもなる素晴らしい演奏、構成。
 唖然としているのか、戸惑っているのか、演奏が終了したことを確認するような間を空けた後の拍手喝采・・・
 が、私見ながら、40分を優に超える長尺な第一部はあくまで予告編に過ぎません。
 それをしのぐ、とてつもない第二部に続きます。

 第二部はフリージャズ~現代音楽的な展開からスタート。
 激しい音の動き。
 おもちゃ箱をひっくり返したような飛び跳ねるような音、怒涛のような演奏の中から現れる日本的な雅な音の流れ。
 それが新たな、そして美しい怒涛に変わります。
 音量、テンポを落とした13分過ぎ辺りから、少し穏やかになった波間にゆったりとした切ないメロディが見え隠れするような、現れては消えていくような展開。
 そこからが10分間以上続くクライマックス。
 止まりそうで止まらないスローのルバート、曖昧なようなはっきりと見えるような何とも微妙な切ないメロディも合わせて、心臓が止まりそうになるような感動的な音。
 グラデーションをつけながら徐々に周囲の景色が変わっていくような音の流れ、次第にまとまり始め、どこか懐かし気なメロディ、インプロビゼーションに続きます。
 そして現れるのは準備されたとしか思えない、とてつもなく美しいメロディ。
 この上なくドラマチックな展開、映画の最後の場面のようなエンディング。
 この部分が、最もカッコいいと思うKeith Jarrettのひとつ。
 “The Köln Concert”前後の名演の連続の中にも、スタンダーズにもカルテットにも、ここまで激しくも繊細で、悲しく美しい音の流れはなかったように思います。
 何度聞いても胸に迫るとてつもなく感動的で素晴らしい演奏。
 ・・・と思っていたら、最後は短い混沌に遷移し、幕・・・
 そしてアンコールは、嵐の後、雨風の余韻が残る空にかかる虹のような、美しいことこの上ない”Over the Rainbow”。
 いやはやなんとも・・・

 全編通じてヘビーな長編映画を通して観たような感覚。
 かつてのソロピアノ演奏は静から動への流れ、明解な起承転結でしたが、この頃は静動が交錯する予測が難しい展開。
 そして最後にとてつもなく美しい旋律、感動的な場面が現れます。
 見方を変えれば、最後の美しい結びを見つけ出し、生み出すために格闘し、葛藤しているようにも聞こえます。
 もし、一部二部ともに終盤の旋律が準備されていたモノではなくて、途中の激しい演奏を経て降りてきたものだとすれば、凡人には想像できないような感性、創造力。
 “Vienna Concert” (Jul.1991)などの一連のコンサートでやろうとしてやり切れなかったことが、ここで結実したようにも思えます。
 新しいクリエイティブのスタイル、公式に残された記録では”Concerts:Bregenz” (May.1981)、”Concerts:Munchen”(Jun.1981)、"Dark Intervals"(Apl.1987)、”Paris Concert”(Oct.1988)、“Vienna Concert” (Jul.1991)を経て出来上がった、1990年代型Keith Jarrettソロピアノのスタイルなのかもしれません。
 そんなことは意識していなかったとしても、とにもかくにも素晴らしい演奏です。
 わかりやすい展開、美しいメロディが、長尺な演奏の終盤に収めれらているため、そこまでたどり着くのが大変なのですが、その構成に気付けば、とてつもない作品、アートが見えてくるように思います。

 ここから二年後、同じくイタリアでのステージ、2016年発表の”A Multitude of Angels” (Oct.23-30.1996)などを経て療養入り。
 こんなことばかりしていると疲れるのも当たり前でしょう。
 この後しばらく間を空けて、“The Melody At Night, With You” (1998)でまた新たな姿で復活を遂げます。
 本作の最後、あるいは”A Multitude Of Angels”の最終トラック、”Over the Rainbow”が、その冒頭曲“I Loves You, Porgy”の穏やかな演奏に繋がっているように聞こえるのは、きっと気のせいなのでしょう。

 


posted by H.A.


【Disc Review】“Vienna Concert” (Jul.1991) Keith Jarrett

“Vienna Concert” (Jul.1991) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
Vienna Concert
Keith Jarrett
Ecm Records
キース ジャレット


 Keith Jarrett、1990年代以降のソロピアノ、私が知る限り。
 本作は“The Köln Concert”(Jan.1975)に代表される1970年代の作品とは作風が変わった“Paris Concert” (1988)から三年後の作品。
 スタンダーズでは“The Cure” (Apl.1990)、”Bye Bye Blackbird” (Oct.1991)の間。 
 “Concerts:Bregenz” (1981)からの1980代型ソロピアノと同様に、甘さや興奮よりも、上品で高貴な感じの音の流れ。

 冒頭、クラシック的でもあるし、フォーク的でもあるようなゆったりとしたテンポの美しいメロディからスタート。
 その流れが続くこと十数分、ゆったりとしたテンポはそのままに重厚で思索的な音の流れに変わります。
 メロディアスにセンチメンタルになりそうでなりきらないConcerts:Bregenz”, “Concerts:Munchen” (May.28.1981/Jun.2.1981)、あるいは“Paris Concert” (1988)以降の特徴的な展開。
 徐々にポップミュージック、ジャズからの距離を取ってきているようにも感じます。
 メロディアスさが薄くなり、フリーインプロビゼーション~現代音楽的な抽象的な展開も長い時間を占めます。
 その後、32分前後、かつてのゴスペルチックな展開になるかと思いきや、長くは続かず、テンポを抑えて、穏やかに慈しむような前向きな展開、かつてとは別の形のドラマチックな流れの中、一部は終了します。

 第二部は漂うような音、日本的な音階、琴を模したかのような音からスタート。
 とても悲し気な音の流れ。
 かつてであれば強烈に加速しながら激しいフレーズが出てきそうな場面でもそうはならず、思索的でもがくような音使いが続きます。
 中盤からテンポを落とすと祈るような音の流れ。
 徐々に激しさを増しますがピークは作らず、とても悲し気、達観したようなエンディングへ向かいます。
 最後も琴のような音使い。
 長尺な25分超の間、共通したイメージがKeith Jarrettの中では流れていて、新しいメロディを模索していたようにも感じます。

 “The Köln Concert”(Jan.1975)のようなわかりやすい展開ではなく、抽象的な音の場面が増え、重厚で深遠なムード。
 その間に散りばめられた美しいメロディ、ドラマチックな構成。
 1970年代、”The Köln Concert”前後のソロピアノは、一般受けもする素晴らしい大衆小説のようなイメージだったとすれば、1980年代の諸作は純文学の大作を目指して試行錯誤を繰り返しているようにも感じます。
 様式、印象は変われど、素晴らしい音楽であることには変わりはありません。
 が、本作も“La Scala” (Feb.13.1995)に向けた助走に過ぎなかった・・・は言いすぎでしょうか?
 そんな大傑作、“La Scala”へ続きます。




posted by H.A.


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