吉祥寺JazzSyndicate

 吉祥寺ジャズシンジケートは、東京、吉祥寺の某Barに集まるJazzファンのゆるーいコミュニティです。  コンテンポラリーJazzを中心に、音楽、アート、アニメ、カフェ、バー、面白グッズ、などなど、わがままに、気まぐれに、無責任に発信します。

2010-

【Disc Review】“Return From The Stars” (2021) Mark Turner

“Return From The Stars” (2021) Mark Turner


Mark Turner (Tenor Saxophone)

Joe Martin (Double Bass) Jonathan Pinson (Drums)

Jason Palmer (Trumpet)

Return From The Stars
Tank and The Bangas
ECM
2022-03-25



 もはやベテランなのでしょう、すっかりECMレコードの人になった感もあるアメリカンコンテンポラリージャズの雄Mark Turner、二管ピアノレスカルテット。
 同レーベルで同編成での“Lathe of Heaven”(2014)がありますが、トランペッターがバリバリのアメリカンジャズの人(なのだと思う) に交代。
 前カルテット作と変わらない、摩訶不思議なハイテンションジャズ。
 テーマの提示~インプロビゼーションといったジャズな構成は維持されているものの、複雑なビートと複雑なメロディ。
 クールなムードを含めてWayne Shorterがいた頃のMiles Davisクインテットな感じがしないでもないけども、もっともっともっと複雑。
 テーマを決めたらビート以外は自由になって突っ走る感じは、Ornette Colemanっぽいのかもしれないのだけども、それも違う。
 テーマはひたすら長尺で複雑、計算し尽くしたのであろう二管アンサンブル。
 アップテンポな4ビートがベースなのだと思うのだけども、複雑な展開と相まってどんな拍子割なのかよくわかりません。
 それだけで不思議感たっぷり。
 それを決めた後は、ハイテンションなインプロビゼーション。
 ビート感は定常なのですが、どこに跳んでいくのか予測できない流れで強烈に疾走するサックス、トランペット。
 それらを煽りまくるベース、ドラム。
 まさに手に汗握るエキサイティングな演奏。
 そんな”ジャズ”の心地よさ。
 が、不思議感たっぷり。
 ジャズの流儀に乗っ取っているような、そうでもないような・・・
 きっと新しい感覚のジャズなのでしょう。
 紛れもなくアコースティックなジャズなのに、異次元から聞こえてくるようなというか、宇宙から聞こえてくるというか、そんな違和感。
 と思っていたら、アルバムタイトル、各曲のタイトルもそんな感じが多いようですね。
 なるほど。




posted by H.A.



【Disc Review】“Hafla” (2021) Jon Balke Siwan

“Hafla” (2021) Jon Balke Siwan

Jon Balke (Keyboards, Electronics, Tombak)
Mona Boutchebak (Vocals, Quitra) Derya Turkan (Kemençe) Bjarte Eike (Baroque Violin) Helge Norbakken (Percussion) Pedram Khavar Zamini (Tombak) Per Buhre (Vocals, Viola)


Hafla
Jon Balke Siwan
ECM
2022-04-22


 ノルウェーの大御所Jon Balke、北アフリカ、中近東、その他のエスニックな色合いが交錯する摩訶不思議なプロジェクト、ECMレコードでの第三作。
 “Siwan” (2007,2008)、“Nahnou Houm” (2017)ときて、本作。
 メインのボーカリストは前作と同じアルジェリアの女性、他のメンバーは前々作から続いているのだと思います。
 古の地中海周辺をテーマとした(?)プロジェクトだったように思うのですが、ヨーロッパ周辺の経度の南北すべてをカバーしたというか、どこなのかわからない場所、その過去と未来感が交錯する・・・、そんなサウンド。
 アフリカンな感じでナチュラルだけど先端の香りも漂うビート、抑制された打楽器群。
 聞き慣れない音階。
 古楽、あるいは中近東的な弦の響き。
 ヨーロッパな流麗さを纏った、あるいはときに土の香りもするようなストリングス。
 それらが複雑に交錯する美しいアンサンブル。
 そして、何語か分からない透明で美しい女声。
 哀し気ながらどこか懐かし気で穏やかな空気感。
 それら合わせて、紛れもなくメロディアスで美しい音楽、奇を衒った感もないのだけども、強烈な非日常感。
 何が歌われ、語られているのかはわかりません。
 古いのか新しいのかも判然としません。
 あえてカテゴライズするとすれば、古楽とエスニックミュージックとポップスのフュージョン、ってな感じなのだと思います。
 が、それにとどまらず、先端的な色合いを感じるのは、おそらくは静かに鳴り続けるパーカションと、ときおりさり気なく響くシンセサイザー的な音、そして緊張感を高めるストリングス。
 全編哀し気な非日常の音ですが、決して深刻ではなく、気難しくもない、あくまでナチュラルで優しい空気感。
 それが聞きやすさに繋がっているように思います。
 優しいトリップミュージック。




posted by H.A.



【Disc Review】“Opening” (2021) Tord Gustavsen Trio

“Opening” (2021) Tord Gustavsen Trio

Tord Gustavsen (piano, electronics)
Steinar Raknes (double-bass, electronics) Jarle Vespestad (drums)


Opening
Tord Gustavsen Trio
ECM
2022-04-08


 ノルウェー発、哀愁のピアニストTord Gustavsen、トリオ作品。
 前作“The Other Side” (2018)と同様、オーソドックスなピアノトリオ編成ですが、ベーシストが交代しているようです。
 静謐で沈んだ空気感は、この人のいつもの音。
 ECMレコードでの初作であろう“Changing Places” (2001)と変わらない沈痛な哀感。
 が、前作の流れを引き継いでか、かつての悲壮感が漂うような沈痛さ、あるいは演歌な感じではなく、穏やかで軽い方向、あるいは淡い色合いに振れてきているように思います。
 ゆったりと丁寧に置かれていくメロディ。
 哀し気でキャッチーなメロディが揃い、涙ちょちょ切れ、これでもかこれでもかと押し寄せてくる怒涛の哀愁。
 概ねゆったりとしたテンポながらも、全体を通じた穏やかなグルーブと、ときおりの疾走。
 ・・・と、ここまでは初期の作品とも同じ。
 が、終始哀し気ながら、穏やかでほんのり温かな感じ、そのうえでときおり不穏さが表出する、そんなバランス。
 バンド全体のタッチが軽快になり、さらに三者が自由に動く時間が増え、それが初期とは違った軽くて淡い色合いと強い浮遊感に繋がっているようにも思います。
 暗いムードや胸を締め付けるような、あるいはベタつくまでの哀感がよければ、初期作品の方がお好みに合うのでしょう。
 が、メロディが強いだけに、このくらいのバランスの方がちょうど心地よいようにも思います。
 静かで穏やかな諦観。
 悟りの境地。
 そんな音。
 本作も極めて上質、この人のアルバムにハズレなし。



posted by H.A.



【Disc Review】“Isabela” (2021) Oded Tzur

“Isabela” (2021) Oded Tzur

Oded Tzur (tenor sax)

Nitai Hershkovits (piano) Petros Klampanis (double-bass) Johnathan Blake (drums)


Isabela
Oded Tzur
ECM
2022-05-13


 イスラエルのサックス奏者Oded Tzur、ECMレコードでの第二作、郷愁感たっぷりのコンテンポラリージャズ。
 前作“Here Be Dragons” (2019)は静かで穏やかな名演でしたが、本作も同じメンバー。
 同胞のピアニストに欧米のベース&ドラム、オーソドックスなジャズカルテット編成。
 冒頭は、僅か二分に満たない時間ながら、静けさから激烈一歩手前まで展開する、このアルバム全体を象徴するようなイントロダクション。
 続いてミディアムテンポに乗った懐かしさが溢れるようなメロディ。
 少々のエキゾチシズムを纏ったSaudadeな世界。
 例によって日本の懐かしいメロディに通じる感じなのが不思議。
 Charles Lloydな感じの透明度が高く美しい音からダーティな音までが交錯するサックス、軽快に動きまくるピアノ。
 このピアノが凄い。
 転がりまくり、要所々で疾走しまくり。
 あくまでサポートしている感じではあるのですが、軽やかで美しいフレージング、強烈な存在感。
 前作では繊細なイメージが強かったように思うのですが、本作では強烈な疾走が前面に。
 同胞の名手Shai Maestroにも近い感じは現代イスラエルの色合いなのかもしれませんし、近年のECMレコードのピアニストの代表的な色合いの一つかもしれません。
 いずれにして凄まじい演奏力。
 終始穏やかな前作とはまた違った、徐々に音量と激しさを増していくハイテンションな演奏が印象に残ります。
 そして終盤に収められた10分を超えるタイトル曲は、今にも止まりそうなスローバラード。
 ドラムが定常にビートを出している時間が長い分、ECMレコードのお約束全編ルバートな感じではないのですが、強烈な浮遊感。
 穏やかで懐かし気なメロディと空気感。
 漂うサックス、軽やかに転がるピアノ、目まぐるしくパターンを変え、テンションを上げながら自由な形に遷移していく、あくまで静かなドラム。
 とてもドラマチック。
 そして締めはいかにもイスラエルな感じのエスニックなメロディ、アップテンポのハイテンションな演奏。
 これまたドラマチック。
 凄まじい演奏力に裏打ちされた、少しだけエスニックな違和感が漂う、Saudadeなコンテンポラリージャズ、今回はテンション高め、ってな感じでカッコいいんじゃないでしょうか。



posted by H.A.



【Disc Review】“Naked Truth” (2021) Avishai Cohen

“Naked Truth” (2021) Avishai Cohen

Avishai Cohen (Trumpet)
Yonathan Avishai (Piano) Barak Mori (Bass) Ziv Ravitz (Drums)


Naked Truth
Cohen, Avishai
Ecm
2022-02-25


 イスラエルのトランペッターAvishai Cohen、ECMレコードから。
 穏やかで不思議なコンテンポラリージャズ。
 ギターが入り先端ロック色も混ざる前作“Big Vicious” (2019)から変わって、オーソドックスなワンホーンカルテット編成。
 その前の“Playing The Room” (2018), “Cross My Palm With Silver” (2016)あたりからさらに抑制された印象の音。
 組曲なのでしょう。
 テーマは自然との関係と絡めた“悟り”的(?)なイメージでしょうか、そんな音。
 全編通じて静かで穏やか、淡い色合い。
 前後左右に舞い散るあくまで静かなシンバル、ドラム。
 控え目なピアノ、ベース。
 絞られた音数、音量、適度なエコーを纏い、まるで耳元で鳴っているようなトランペット。
 とても繊細。
 全編を覆う浮遊感。
 いわゆるテーマからインプロビゼーションといったジャズなフォーマットではありません。
 エキゾチックなのか何なのか、聞き慣れない音階、少し哀し気で不穏な感じがしないでもない、でも決して暗くはない、難解でも気難しくもない不思議感たっぷりのメロディ、というかリフ、というか・・・、なんと申しましょうか。
 ビートは効いていてジャズな感じではあるのですが、前掲の諸作とも違う、なんとも不思議な空気感。
 強い音やドカーンとくる場面はありません。
 が、穏やかに高揚する場面が散りばめられていて、それらと全編を通じた不思議感と浮遊感とのバランスがいい感じ。
 いずれにしても、とても繊細で美しい音と相まって、心地よい音。




posted by H.A.



【Disc Review】“Vermillion” (2021) Kit Downes

“Vermillion” (2021) Kit Downes

Kit Downes (piano)
Petter Eldh (double-bass) James Maddren (drums)

Vermillion
Kit Downes
ECM
2022-02-11


 イギリスのピアニストKit Downes、ピアノトリオ作品、ECMレコードから。
 ECMでは“Time Is A Blind Guide” (2015) Thomas Stronenでタダモノではない感たっぷりな疾走ピアノ、リーダー作としてはパイプオルガン演奏“Obsidian” (2017) 、ベースレスの変則編成“Dreamlife of Debris” (2019)ときて、ようやくオードドックスなピアノトリオ編成。
 が、オーソドックスではない不思議感たっぷりな音。
 難解さ、気難しさはありません。
 美しく、サラサラとした質感の音。
 メロディアス、でも幻想的、そんなバランス。
 柔らかな音の軽やかなピアノ。
 饒舌なベースと静かで自由なドラム。
 静かながら凝りまくったビート。
 誰が何拍子で何を演っているのかわからない複雑さ。
 三者三様、キッチリと主張しているのですが、誰が突出するわけではない一体感。
 淡いメロディ、静かで穏やかな音の流れ。
 疾走や激情はありません。
 ECMでのお約束、ルバートでのスローバラードもありません。
 ビートが効いているのに、なぜか漂う浮遊感。
 メロディアスなのですが、なぜかその芯をつかめない感じ。
 不思議感たっぷり。
 でも迷宮感はない、穏やかで明るい色合い。
 強い浮遊感、淡い色合いは、21世型ECMの典型のような感じですが、このバランスは新しいのかも、とも思います。
 いずれにしても心地よい時間。
 不思議感ゆえなのでしょう、飽きそうにありません。



posted by H.A.



【Disc Review】“Edizione Speciale” (2019) Enrico Rava

“Edizione Speciale” (2019) Enrico Rava

Enrico Rava (Trumpet, Flugelhorn)
Francesco Diodati (Guitar) Giovanni Guidi (Piano) Gabriele Evangelista (Bass) Enrico Morello (Drums)

Francesco Bearzatti (Tenor Saxophone)


Edizione Speciale (Live)
ECM Records
2021-10-29


 大御所Enrico Rava の新作、ライブ録音。
 ライブ録音“Roma” (2018) Enrico Rava, Joe Lovano以来、単独リーダーでは“Wild Dance” (2015)以来久々でしょうか。
 そちらのメンバーからトロンボーンがサックスに代わり、長年共演が続く名ピアニストGiovanni Guidiが加わります。
 “Wild Dance” (2015)はピアノレス、今風ギターがたっぷりフィーチャーされた少しとんがり気味今風コンテンポラリージャズでしたが、本作はよりオーソドックスに寄ったコンテンポラリージャズ。
 冒頭はOrnrtte Colemanっぽいジャズ。
 高速4ビート、リフ一発、ディストーションが効いたロックなギター。
 さらに上品で穏やかな人と思っていたGiovanni Guidiさんのぶっ飛んだ激しいピアノ。
 そんなやんちゃな音もどこ吹く風、硬軟織り交ぜたMiles Davis的な端正なトランペット。
 滑らかで鈍い光を放つ真鍮な感じの音色、しなやかなフレージングは、1970年代から変わらず、衰えなし。
 続く“Once Upon A Summertime”も端正なジャズバラード。
 これまた妖しいロックなギターと激しいピアノが一風変わっていますが、やはりジャズ。
 その他、かつて演奏されたオリジナル曲たちも、このバンドのメンバーの色合いで彩りを変え、いかにもライブなテンションとノリで演奏されていきます。
 締めはラテンな”Quizás, Quizás, Quizás”。
 Ravaさんとしてはありそうですが、ECMさん、ここまでやるの?ってな違和感はマニアな心理に過ぎないのでしょう。
 妖しさは抑えめ、静けさはなし、ECMレコードのEnrico Rava作品としては少々異色の元気で明るいジャズ。
 タイトルをみると“特別版”、なるほど。
 みんなジャズが大好き、明るくてよろしいのでは。




posted by H.A.



【Disc Review】“Subaqueous Silence” (2019) Ayumi Tanaka Trio

“Subaqueous Silence” (2019) Ayumi Tanaka Trio

Ayumi Tanaka (piano)
Christian Meaas Svendsen (double bass) Per Oddvar Johansen (drums)


Subaqueous Silence
Ayumi Tanaka Trio
ECM
2021-10-29


 日本人女性ピアニストAyumi Tanaka、ECMレコードからの第一作。
 “Lucus” (2017), “Bayou” (2018) Thomas StrønenといったECMのアルバムに参加していた人。
 リーダー作はホームグラウンドなのであろうノルウェーの人たちとのトリオ。
 フリー風味たっぷり、静かで繊細なコンテンポラリージャズ・・・というより、音による情景描写。
 静寂と寂寥の時間。
 “廃墟”から始まり、”黒い雨”、”風”などを経て、”水の中の静寂”で締める展開。
 確かにそんな音。
 終始ゆったりとしたテンポ。
 絞り込まれた音とたっぷりの空白。
 流れているようで動かない、留まっているようでゆっくりとグラデーションを描きながら変わっていく音。
 ひんやりした温度感、高いのか低いのか判断がつかない湿度感。
 強いというよりも、ことさら強調されることなく自然に全体を包み込むような浮遊感。
 それらを先導する繊細な質感のピアノ。
 曖昧で抽象的な音の流れの中、ときおり整ったメロディ、定常なビートが表出します。
 が、その時間は短く、再び境界が曖昧な世界へ・・・
 終始沈んだムードの中、抽象的な音の流れが続きます。
 が、なぜか心地よい時間。
 あくまで静かで穏やか、強い音や沈痛で深刻な場面がないからでしょうか。

 気持ちが沈静する不思議な時間。
 これまたどこか遠いところ、非日常へと誘うトリップミュージック。
 静かな夜の、あるいは忙しかった日の終わりのナイトキャップにどうぞ。




posted by H.A.



【Disc Review】“When we leave” (2020) Matthias Eick

“When we leave” (2020) Matthias Eick

Mathias Eick (Trumpet, Keyboard, Vocals)
Andreas Ulvo (Piano) Audun Erlien (Bass) Torstein Lofthus (Drums) Helge Andreas Norbakken (Drums, Percussion)
Håkon Aase (Violin, Percussion) Stian Carstensen (Pedal Steel Guitar)

When we leave
Matthias Eick
ECM
2021-09-24


 ノルウェーのトランペッターMathias Eick、哀愁ヨーロピアン・コンテンポラリージャズ、ECMレコードから。
 前作“Ravensburg” (2017)と同様、ピアノトリオにバイオリン、パーカッションを加えた編成に、一部にスチールギターが加わります。
 いつもと変わらない寂寥感の塊トランペットに、いつもと変わらない哀愁滴るメロディ、それでいてとても穏やかな空気感もいつもと変わりません。
 トランペットの寂寥感に対して、音楽自体はもともと明るい色合いの人。
 ECMでの第一作“The Door” (2007)と比べても、その質感は変わりません。
 とはいえ、メロディアスな楽曲が揃ったからなのか、アンサンブルが洗練の極みに達したからなのか、全編が穏やかな空気感だからなのか、哀愁指数、郷愁指数は本作が一番高いかもしれません。
 ゆったりとしたビート。
 優しくセンチメンタル、ノルウェーの色合いなのであろうエキゾチシズム、微かな違和感を含んだメロディ。
 インプロビゼーションよりもアンサンブル。
 ドカーンとではなくジワジワくる系。
 計算し尽くされ編み上げられているのであろう、が、さりげなく聞こえる柔らかな音の流れ。
 さらに一曲一曲の中に込められた、これまたさりげない起承転結。
 さりげなくとてもドラマチック。
 あくまで穏やかなのですが、まるで涙腺と琴線を狙い撃ちしているかのようなメロディ、アンサンブル、展開。
 連発される哀愁のメロディとアンサンブル中心の構成、8ビート系中心のリズムは、ともすればポップにも聞こえるかもしれません。
 実際、ポップでキャッチーだと思います。
 が、最初の20秒のみで図らずも涙腺がゆるんでしまいそうな破壊力をもったメロディがたくさん。
 全部含めて哀愁・郷愁の金太郎飴。
 切るところによって微妙に表情は違います。
 どの表情もとてもSaudade。



 
posted by H.A.



【Disc Review】“Side-Eye NYC (V1. IV)” (2019) Pat Metheny

“Side-Eye NYC (V1. IV)” (2019) Pat Metheny

Pat Metheny (Guitar)
James Francies (Keyboards) Marcus Gilmore (Drums)


SIDE-EYE NYC (V1.IV)
PAT METHENY
ADA/BMG/MODERN RECORDINGS
2021-09-10


 Pat Metheny、新作は新メンバーでのトリオ。
 スタジオ録音とライブ録音が半分ずつ。
 少し前の録音、“From This Place” (2019)とも時期は遠くないのだと思いますが、全く違うメンバー。
 ドラムは長年の盟友Antonio Sanchezではなく同世代の名手Marcus Gilmoreへ、キーボードは若手コンテンポラリージャズの名手。
 デジタル色も交えつつのコンテンポラリージャズ。
 キーボードは21世紀型。
 Herbile Hancockな感じに、Hip Hop的というか、ミニマル的というか、そんな色合いも交えつつの今な感じのコンテンポラリージャズピアノ&オルガン&シンセサイザー。
 冒頭は長尺で激しい演奏のライブ音源。
 ドラムは静かにヒタヒタと迫ってくる系、“Still Life (Talking)” (1987)あたりのあの感じ。
 静かな緊張感、シンセサイザーとフワフワしたエレピが絡み合う中でギターが奏でる物憂げなメロディ。
 複雑に形を変えながら、中盤から終盤に向けて激しいインプロビゼーションとともにテンションを上げていくバンド、強い高揚感の中での幕。
 今風ポップな先端ジャズに彩られたドラマチックなPat Methenyサウンド。
 なるほど、新基軸はこの線か・・・
 と思いきや、以降は意外にも普通な感じのコンテンポラリージャズフュージョン。
 続くBetter Days Ahead、他にもBright Size Life, Turnaround, The Batといった懐かしい楽曲も演奏され、それらはどこかで聞いたバージョンに近い感じ。
 他にもジャズブルース・フュージョンやら、爽やかフュージョンっぽい感じやら。
 ギターはいつも通りですが、リズムはひねった感じがそこかしこ、キーボードはジャズフュージョンの形を守りつつも変幻自在、アグレッシブなインプロビゼーション。
 “From This Place” (2019)は壮大でゴージャスな音絵巻でしたが、本作は少々カジュアル、今風コンテンポラリージャズ。
 さて、次は本作の一曲目の線なのか、あるいは”The Way Up” (2003-4)From This Place” (2019)路線なのか、それらのフュージョンなのか、はたまたもっと別な形なのか。
 さて、、、?



 


posted by H.A.



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