吉祥寺JazzSyndicate

 吉祥寺ジャズシンジケートは、東京、吉祥寺の某Barに集まるJazzファンのゆるーいコミュニティです。  コンテンポラリーJazzを中心に、音楽、アート、アニメ、カフェ、バー、面白グッズ、などなど、わがままに、気まぐれに、無責任に発信します。

#1.★美しく妖しいJazz

【Disc Review】“Fairytales” (1982, 1979) Radka Toneff

“Fairytales” (Feb.1982, 1979) Radka Toneff
Radka Toneff (voice) Steve Dobrogosz (piano)

フェアリーテイルズ (BOM13001)
ラドカ・トネフ
ボンバ・レコード
2015-11-21


 ノルウェーの女性ジャズボーカリストRadka Toneff、ピアノとのDuo作品。
 とてつもなく美しく、悲しいアルバム。
 アメリカ~スウェーデンのピアニストSteve Dobrogoszは、クラシックのムードも纏った美しく上品な音。
 決して派手ではありませんが、時折のタメ、零れ落ちるような、浮遊するような音使いを含めて、ECMでリーダー作があってもおかしくない、いかにもヨーロッパジャズなピアノ。
 その上を漂うような、透明度の高い可憐なボイス。
 線が細めに聞こえること、上の方で微妙に裏返る事も含めて、とても繊細で儚い歌。
 ポップスからの選曲、“My Funny Valentine”、”Nature Boy”といったスタンダード。
 大きなフェイクもなく、奇をてらったアレンジもありません。
 際立って美しい声とピアノ、全編スローで徹底的に静謐な事を除けば、この時代の作品にはたくさんありそうな構成。
 ECMの名作“Somewhere Called Home” (1986) Norma Winstoneあたりに近い感じではあるのですが、もっとポップで、もっと普通にジャジー。
 静かで淡々とした色合いは、あの時代の北欧ジャズの静かで美しい佳作、確かに妖精だなあ・・・とサラリと聞き流してしまうかもしれません。
 が、なぜか微かに漂う凄み。
 その根源はよくわかりません。
 事実としては、Radka Toneffは本セッションの数ヶ月後に自殺したとのこと・・・
 ・・・
 似た感じだからといって他のアルバムと並べるのはちょっと畏れ多い。
 大名作です。




posted by H.A.

【Disc Review】“Stomach Is Burning” (2006) Melanie De Biasio

“Stomach Is Burning” (2006) Melanie De Biasio 
Melanie De Biasio (vocal)
Pascal Mohy (Piano) Pascal Paulus (Keyboads) Axel Gilain (Bass) Teun Verbruggen (Drums) Steve Houben (Sax, Flute)



 ベルギーのボーカリストMelanie De Biasioの静かなコンテンポラリージャズ作品。
 ピアノトリオに管楽器のオーソドックスな編成。
 零れ落ちるようなピアノ音と柔らかなグルーヴがいかにもなヨーロピアンテイスト。
 ボイスは低音な感じでほんの少しハスキー。
 漂うようなウイスパー系。
 “My man's gone now”なんてスタンダードも入り、ウッドベースとハイハットと交錯してスイングする、オーソドックスな質感の4ビートも多いのですが、あくまでコンテンポラリージャズな空気感。
 ときおり電子楽器も混ざるけども、あくまでアコースティック。
 ECMっぽくもあるし、ポップスっぽくもるけども、あくまでジャズ。
 絶妙なバランスの静かな音。
 とてもクールでダークな夜のジャズ、現代版。




posted by H.A.


【Disc Review】“De Arvores E Valsas” (2008) Andre Mehmari

“De Arvores E Valsas” (2008) Andre Mehmari
André Mehmari (Piano, Accordion, Bandolim, Bass, Bateria, Cello, Clarinet, Cravo, Fender Rhodes, Flute, Guitar, Mellotron, Organ, Palmas, Percussion, Synthesizer Bass, Viola, Violin, Vocals)
Teco Cardoso (Baritone Sax) Gabriele Mirabassi (Clarinet)
Mônica Salmaso, Sérgio Santos (Vocals)



 ブラジルのスーパーピアニストAndré Mehmariの2008年作。
 南米系の音源は廃盤になるのが早く、その中にはとんでもない名作があるのですが、このアルバムはその最たる作品。
  現在も流通しているであろうオムニバスアルバム“Veredas” (2006-2008)にその一部、一番よさそうなところが収められてはいるのですが、アルバムとしての素晴らしさはまた別格。
 タイトルは「木?とワルツ?」。
 その通りに全編フワフワとした優雅なビートとナチュラルな音の流れ。
 サンバ、ボッサではない、フォルクローレな雰囲気。
 計算しつくされたと思われるアレンジと、オーバーダビングによる自身での演奏、効果的な彩りを加えるゲストの音。
 柔らかな管、弦のアンサンブルと、要所に配置される自身の声、最高のボーカリストMônica Salmaso, Sérgio Santosの声。
 シンプルな編成のピアノトリオ、あるいはソロピアノではなく、いろんな優し気な音が絡み合いながら流れていく時間。
 センチメンタルだけども、暗さや絶望感とはほど遠い優しいメロディ。
 全曲、名曲名演。
 全編を通じた浮遊感と穏やかな郷愁感。
 哀し気なようでとても前向きな、あるいは、前向きなようで悲し気な音の流れ。
 南米音楽共通の質感ですが、その繊細でデリケートな版。
 そんな空気の中を漂うような、零れ落ちてくるようなピアノ。
 スローでは十二分にタメを効かせ、時には突っ走り・・・
 少し前の“Lachrimae” (2003)の素晴らしさに多言は無用ですが、そちらは少々ジャズピアノトリオ寄り。
 この後の作品“Miramari” (2008)以降はクラシックの色合いがより強くなっているように感じます。
 その分水嶺的な作品かもしれません。
 ジャズとクラシックとフォルクローレの最高のバランスのフュージョンミュージック。
 もちろん一番強い成分はブラジル的南米的フォルクローレ。
 どこを取り出しても、とても優雅で美しい音。
 この人の音はいつもどこか遠くを眺めているような音。
 どこを切り出してもその真骨頂。
 これはもう最高でしょう。




posted by H.A.

【Disc Review】“Exotica” (1993) Kip Hanrahan

“Exotica” (1993) Kip Hanrahan
Kip Hanrahan (Producer)
Don Pullen (piano, organ) Jack Bruce (bass, voice) Robby Ameen (drums)
Leo Nocentelli (guitar) Alfredo Triff (violin) 
Guest :
Andy Gonzalez, Anthony Carillo, David Sanchez, JT Lewis, Mario Riviera, Milton Cardona, Lucy Penabaz, Ralph Peterson Jr., Richie Flores

EXOTICA
KIP HANRAHAN
ewe
2010-07-21
キップ・ハンラハン

 Kip Hanrahanのファンクアルバム。
 本作のテーマがファンク、あるいはアップビートでシンプルにいこう、といった計画だったかどうかはわかりませんが、最初から最後まで、凄まじいグルーヴ、どカッコいいファンク、あるいは強烈で危ないダンスミュージック。
 前作“Tenderness” (1988-1990)の激しくカッコいい場面を抜き出して、ほんの少しだけマイルドにした感じでアルバム一枚作りました、ってな最高のバランス。
 冒頭からカッコいいビート。
 この曲ではパーカッションの参加は無く、オルガン、ベース、ドラム+ピアノのシンプルな編成での演奏ですが、とんでもないグルーヴ。
 ドスの効いたヘビーなエレキベースがブンブンうなりながら強烈な推進力。
 クレジットに詳細が無いのですが、このベースはJack Bruceなのでしょうか?
 縁のあるつわものたち、Bill Laswell, Jamaaladeen Tacuma, Steve Swallowも真っ青の凄まじいベースライン。
 さらに途中から加わるDon Pullenのとんでもないピアノ。
 こりゃスゲーや。
 オルガン含めて、最初から最後まで、これでもかこれでもかと弾き倒しまくり。
 生涯最高の名演・・・かどうかはさておき、前作“Tenderness” (1988-1990)と同様、情け容赦なし、ピアノが破壊されそうな凄まじい演奏。
 すっかりレギュラーに定着したRobby Ameenもドラムも、いいタイミングでスネアドラムが入り続けるKip Hanrahanのハードなサウンドに欠かせないカッコいいビート。
 基本的にはピアノトリオ+オルガン+パーカッションのシンプルな編成が中心なのだけども、そうとはとても思えないド迫力。
 さらに、いつものクラーヴェ、怒涛のパーカッションが鳴りはじめ、ホーンやバイオリンが乗ってくると、これはもう桃源郷・・・
 鳴り続けるパーカッションの連打、強烈な推進力とグルーヴ、シンプルなリフの繰り返しで引き起こされる陶酔感。
 クラクラしてくるような音の渦の裏で表で叩き回され、引っ搔き回されるピアノ・・・
 とても激しい音、強烈なグルーヴを背景にした囁くような激渋ボイスが何ともクール。
 もちろんメロディはいつものやるせない哀愁が漂うライン。
 いつものパターンではあるのですが、背景の激しさ、グルーヴが尋常ではないだけに、激渋ボイスがいつにも増してクールに妖しく響きます。
 激しくとも、どことなくオシャレ。
 やはりKip Hanrahanワールドです。
 この人の作品で、ここまでファンク、あるいはシンプルなアルバムはないと思いますが、これを最高傑作とするのは反則なのでしょうかね?
 Kip Hanrahanのファンクの大名作、いや、古今東西のジャズファンクの中での大名作。




 posted by H.A.

【Disc Review】“Statements” (2003, 2004) Batagraf

“Statements” (2003, 2004) Batagraf
Jon Balke (Keyboards, Percussion, Vocals)
Frode Nymo (Alto Saxophone) Kenneth Ekornes, Harald Skullerud, Helge Andreas Norbakken, Ingar Zach (Percussion) Arve Henriksen (Trumpet) Sidsel Endresen, Miki N'Doye (Recitation) Solveig Slettahjell, Jocelyn Sete Camara Silva, Jennifer Mykja Balke (Voice)



 ノルウェーのピアニストJon BalkeのバンドBatagrafの何とも不思議なアルバム。
 “Clouds In My Head” (1975) Arild AndersenなどからECMに参画している大ベテラン。
 ヨーロピアンらしいクラシックの香りと美しい音、さらに強烈な疾走感がカッコいいピアニスト。
 近年では同じく北欧の若手アーティストのサポート、“The Door” (2007)、“Midwest” (2014) Mathias Eickなどでもよく見かけます。
 バンドでの表現が好きなようで、以下のようないろんなバンドに参加、あるいは自ら作っています。
  Masqualero、“Bande a Part” (1986)  etc.
  Oslo 13、“Nonsentration” (1990)  etc.
  Magnetic North Orchestra、“Further” (1993), “Kyanos” (2001)  etc.  
 それらは十分にジャズな音だったのですが、本作はジャズからはみ出した不思議なバンド。
 詞の朗読なども絡めつつ、ナイジェリア?の「バタ」なる楽器?音楽?を中心とした音なのだと思います。
 メンバーはノルウェーの人が中心のようなのですが、音は完全に無国籍、ノンジャンル。
 アフリカ的なパーカションとフワフワしたエレクトリックピアノ、電子音、声、そしてジャジーながら狂気を秘めたサックスが交錯する不思議な世界。
 ムードとしてはフューチャージャズな感じもあるし、アコースティックなパーカッションがプリミティブな民族音楽的でもあるし。
 ジャズとか何とかのジャンル云々はもとより、一体ここはどこなのか、ヨーロッパなのかアフリカなのか、今なのか過去なのか未来なのか、さっぱりわからない空間。
 さらに、声とか口笛とかが醸し出す、現実なのか非現実なのかすら曖昧なムード。
 でも、あくまで静かで穏やか。
 そんな背景の中に、唐突にコラージュされる乾いた女性のボイス、泳ぐような乾いたサックスの響きがとてもクール。
 ときおり現れる電子音、穏やかで淡い感じは環境音楽的な感じなのだと思いますが、無機質な感じではなくて、あくまでアコースティックな響きが中心。
 ちょっと聞きではなんだこりゃ?
 が、マニアックなようで、エスニックなようで、慣れてしまえばわかりやすくて心地いい音。
 意味不明でも難解でもない、全編通じてとてもカッコいい静かなグルーヴ。
 サックスの動きがジャズっぽいのも、とても心地いいバランス。
 ボイスには、Nils Petter Molværの作品に参加するSidsel Endresenがクレジットされているし、音量を上げ、ハードさ、深刻さを加えると、彼の音にも近い場面が多いのは、ノルウェーの空気感ゆえなのでしょうか?
 全編を漂う哀感、さらにちょっとしたところにオシャレな感じもあり、全く違う音なのですが、Kip Hanrahan を想起します、ってなのは飛躍しすぎなのでしょうかね?
 そちらはニューヨーク&キューバですが、こちらは北欧&アフリカ。 
 さながら静かでエスニックな環境音楽、現実と非現実が交錯するトリップミュージック。
 残念なのは、あの素晴らしいアコースティックピアノが聞けないこと。
 が、さすがに何をやってもタダモノではないクリエイティブなオヤジ。
 とてもカッコいい音、名作だと思います。



 
 posted by H.A.

【Disc Review】“Komitas/Gurdjieff/Mompou: Moderato Cantablie” (2013) Anja Lechner, Fracois Couturier

“Komitas/Gurdjieff/Mompou: Moderato Cantablie” (2013) Anja Lechner, Fracois Couturier
Anja Lechner (cello) Fracois Couturier (piano)
 


 ドイツのチェリストAnja Lechner、フランスのピアニストFrançois CouturierのDuo作品、本作はクラシック寄りのECM New Seriesレーベルから。
 お二人は“Nostalghia - Song For Tarkovsky” (2005)、“Tarkovsky Quartet” (2011)などで共演済。
 二人とも他のアーティストとの共演も多く、現代のECMのクラシック寄りの作品には御用達の人。
 この二人で、トルコのKomitas、アルメニアGurdjieff、スペイン?のMompouといった、思想家&音楽家?の楽曲を演奏したアルバム。
 企画から予想されるそのままの敬虔な音、静謐な空間に響くチェロとピアノの絡み合い。
 同じような企画、編成では“Chants, Hymns And Dances”(Dec.2003)Anja Lechner, Vassilis Tsabropoulos、あるいはチェロとピアノのDuoでは“The River” (Jun.1996) Ketil Bjørnstad, David Darlingなど、定番企画のひとつ。
 近い感じではあるのですが、わかりやすい楽曲、演奏が揃っています。
 Gurdjieff3曲、Komitas1曲、Mompou3曲にFracois Couturier3曲。
 どれもゆったりとしたテンポ、悲し気なメロディですが、“Chants, Hymns And Dances”(Dec.2003)と比べると、重々しさ深刻さが薄く、軽快なイメージ。
 楽曲の影響が大きいのでしょう。
 さらに、同じくクラシック色が強いヨーロピアンジャズピアニストでも、タメとグルーヴが効き、感情的なモノも前に出るVassilis Tsabropoulosに対して、あくまでクールで淡々としたFracois Couturierといった違いでしょうか。
 Gurdjieff、Komitasの楽曲は厳かな表情。
 対してMompouの楽曲は古典ながらなぜか現代のポピュラーミュージック的な印象。
 Keith Jarrettのソロピアノで出てきそう場面もちらほら。
 たっぷりとリバーブが効いた美しい音、少し線が細めな感じがクールなピアノが映える楽曲が並びます。
 無音、空白の空間の中、あるいは静かにチェロが鳴る空間の中、ピアノの高音が心地よく響きます。
 あるいは、わかりやすいメロディ、コードを背景にすると、頻繁にスケールアウトするフレーズの美しさが際立ちます。
 Anja Lechnerのチェロはいつもながらに表情豊か。
 前後上下左右、強弱長短、自在に伸び縮みする音と優しげな表情。
 Fracois Couturierの沈痛なメロディに乗った“Voyage"などは、今にも泣きだしそうな悲し気な音、昂ぶる感情が乗ったような素晴らしい演奏。
 などなど含めて、アルバムとしての統一感を保ちながらもさまざまな表情の楽曲。
 クラシックと静かなフリージャズな空気感が交錯する、かつ、わかりやすい、素晴らしい演奏が続きます。
 クラシカルで精神的で宗教的で・・・だけではない、ジャズの耳で聞いてもとても心地よく聞ける音。
 Anja Lechner、あるいはFracois Couturierの作品を聞くならば、意外にこのアルバムからがわかりやすくていいのかもしれません。
 俗な私が知る限り・・・




posted by H.A.

【Disc Review】“Jazz at Berlin Philharmonic III” (2015) Leszek Możdżer & Friends

“Jazz at Berlin Philharmonic III” (2015) Leszek Możdżer & Friends
Leszek Możdżer (piano)
Lars Danielsson (bass & cello) Zohar Fresco (percussion)
Atom String Quartet :
Dawid Lubowicz (violin) Mateusz Smoczyński (violin) Michał Zaborski (viola) Krzysztof Lenczowski (cello)
 
レシェック モジジェル

 ヨーロッパのスーパーピアノトリオ、ストリングスをゲストに迎えたライブアルバム。
 “The Time”(2005)、“Between Us & The Light”(2006)、“Polska” (2013)といった一連のトリオ作品の延長線、楽曲もその他の作品からチョイスが中心。
 が、ライブという事もあるのでしょう、それらの淡い色合いと比べると、強烈なインプロビゼーションが前面に出る場面が多いと思います。
 やっと弾いてくれたか、と思う一方、Zohar Frescoのボイスが出る場面はなく、彼が主導していたと思われるエスニックで幻想的な空気感は抑え気味。 
 Leszek Możdżerの楽曲、クラシック色の強い演奏が多く、クレジット通り、トリオというよりも彼の色合いが最も強い作品。
 クラッシック~現代音楽?ベースのとんがった激しいピアノソロから始まり、Lars Danielssonの哀愁曲、ストリングスを交えた優し気で妖し気な演奏、などなど、Leszek MożdżerLars Danielssonのショーケースのような演奏が並びます。
 とてつもなく透明度が高く美しいピアノのピキピキパキパキした音と、間々に挟まれるLars Danielssonの郷愁感、哀愁感の塊のようなメロディ。
 コンサートのメインはストリングスを交えた優雅ながらテンションが高い演奏なのかもしれませんが、ついついそちらに耳が行ってしまいます。
 Lars Danielsson曲で取り上げられているのは、何処かのアルバムに入っていたいずれも大名曲の”Praying”、”Africa”、”Eden”。
 美しいメロディとコードを背景にして突っ走り飛び回るピアノ。
 氷のように鋭く冷たく、この世のものとは思えないような美しい音、指に加速装置がついているとしか思えないような疾走感を含めて、人間業とは思えない演奏。 
 そのぶっ飛んだピアノと、ベタベタなメロディ、上品なグルーヴの対比がこのバンド、数多くの作品を制作しているこのコンビのカッコよさなのでしょう。
 美しくて上品、かつ、とんがった妖しい音、さらにセンチメンタル。
 “Liberetto” (2012)などのTigran HamasyanLars Danielssonのコンピネーションも素晴らしいのですが、Leszek Możdżerとの組み合わせの方がより繊細な感じがする分、私的には好み。
 Leszek Możdżer、あるいはこのトリオ、このアルバムあたりを集大成として、そろそろ次に行こうとしているのかもしれませんが・・・




posted by H.A.

【Disc Review】“La Scala” (Feb.13.1995) Keith Jarrett

“La Scala” (Feb.13.1995) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
La Scala
Keith Jarrett
Ecm Records
キース ジャレット


 Keith Jarrett、“Vienna Concert” (Jul.1991)から四年後のソロコンサート。
 大傑作。
 スタンダーズでは “Keith Jarrett at the Blue Note” (Jun.1994)、“Tokyo '96” (Mar.1996)の間。
 本作ももちろん1970年代型ではなく、1980年代以降の型のソロピアノ。
 抽象度の高い"Dark Intervals"(Apl.1987)を経て、”Paris Concert” (Oct.1988)、“Vienna Concert” (Jul.1991)あたりではメロディアスさも戻ってきましたが、時間を経るにつれ重厚に、あるいはクラシック的になってきている感じがします。
 が、本作、それだけではなく、ここまでの作品とは何か違う凄み。
 “The Köln Concert”ではない、新しいピアノインプロビゼーションのスタイルがここにきて完成を見たようにも思います。
 “The Köln Concert”が大衆小説の大傑作だとすれば、本作は純文学の大傑作。
 人気、わかりやすさ、好みはさておき、本作がKeith Jarrettのソロピアノの最高傑作といっても過言ではないように思います。

 第一部、何かを慈しむような、懐かしむようなとても美しい旋律で幕を開け、静かで淡々とした優しい演奏が十数分続きます。
 が、次第に重苦しい音の流れに変わり、スパニッシュなようなアラビアンなような音階・・・深刻な音の流れ、陰鬱で苦し気にも聞こえる演奏。
 それらを経た35分過ぎ、徐々に穏やか、前向きになり、再びリリカルなメロディに戻る展開。
 甘すぎることのない、漂うような音の流れの中で静かに幕。
 冒頭、終盤のあまりにも美しく整ったメロディとドラマチックな展開。
 本当にこれも即興なのでしょうか?
 唖然としているのか、戸惑っているのか、演奏が終了したことを確認するように、間を空けた後の拍手喝采・・・
 が、私見ながら、40分を優に超える長尺な第一部はあくまで予告編に過ぎません。
 それをしのぐ、とてつもない第二部に続きます。

 第二部はフリージャズ的な展開からスタート。
 激しい音の動き。
 おもちゃ箱をひっくり返したような飛び跳ねる音、怒涛のような演奏の中から現れる日本的な雅な音の流れ。
 それが新たな、そして美しい怒涛に変わります。
 音量、テンポを落とした13分過ぎ辺りから、少し穏やかになった波間にゆったりとした切ないメロディが見え隠れするような、現れては消えていくような展開。
 そこからが10分間以上続くクライマックス。
 止まりそうで止まらないスローのルバート、曖昧なようなはっきりと見えるような何とも微妙な切ないメロディも合わせて、心臓が止まりそうになるような感動的な音。
 グラデーションをつけながら徐々に周囲の景色が変わっていくような音の流れ、次第にまとまり始め、どこか懐かし気なメロディ、インプロビゼーションに続きます。
 そして現れるのは準備されたとしか思えない、とてつもなく美しいメロディ。
 この上なくドラマチックな展開、映画の最後の場面のようなエンディング。
 “The Köln Concert”前後の名演の連続の中にも、スタンダーズにもカルテットにも、ここまで激しくも繊細で、悲しくも美しい音の流れはなかったように思います。
 何度聞いても胸に迫るとてつもなく感動的で素晴らしい演奏。
 ・・・と思っていたら、最後は短い混沌に遷移し、幕・・・
 そしてアンコールは、嵐の後、雨風の余韻が残る空にかかる虹のような、美しいことこの上ない”Over the Rainbow”。
 いやはやなんとも・・・

 全編通じてヘビーな長編映画を通して観たような感覚。
 かつてのソロピアノ演奏は静から動への流れ、明解な起承転結でしたが、この頃は静動が交錯する予測が難しい展開。
 そして最後にとてつもなく美しい旋律、感動的な場面が現れます。
 見方を変えれば、最後の美しい結びを見つけ出し、生み出すために格闘し、葛藤しているようにも聞こえます。
 “Vienna Concert” (Jul.1991)などの一連のコンサートでやろうとしてやり切れなかったことが、ここで結実した新しいクリエイティブのスタイル、1990年代型Keith Jarrettソロピアノのスタイルなのかもしれません。
 わかりやすい展開、美しいメロディが、長尺な演奏の終盤に収めれらているため、そこまでたどり着くのが大変なのですが、その構成に気付けば、とてつもないアートが見えてくるように思います。

 ここから二年後、同じくイタリアでのステージ、2016年発表の”A Multitude of Angels” (Oct.23-30.1996)などを経て療養入り。
 しばらく間を空けて、“The Melody At Night, With You” (1998)で新たな姿で復活。
 本作最後の”Over the Rainbow”が、その冒頭曲“I Loves You, Porgy”の穏やかな演奏に繋がっているように聞こえるのは、気のせいでしょうか。


 

posted by H.A.


【Disc Review】“Vespers” (2010) Iro Haarla Quintet

“Vespers” (2010) Iro Haarla Quintet
Iro Haarla (Piano, Harp)
Mathias Eick (Trumpet) Trygve Seim (Tenor, Soprano Saxophone) Ulf Krokfors   (Double-Bass) Jon Christensen (Drums)
 
Vespers
Iro Quintet Haarla
Ecm Records
2011-04-12
イロ・ハールラ

 フィンランドの女性ピアニストIro Haarla、リーダー作としてはECM第二作。たぶん。
 大名作。
 前作“Northbound” (2004)から、かなり時間が経っていますが、メンバーは全く同じ。
 本作も前作と同様、ほぼ全編ルバートでのスローバラード。
 強い浮遊感のとても優雅な演奏のオンパレード、ほどほどの妖しさ、寂寥感は前作そのままですが、さらに、もっと穏やかで優し気。
 懐かし気な感じ、郷愁感が強くなり、逆に沈痛系の場面は少なくなっているように思います。 
 優雅なピアノとハープ、強い寂寥感を発するホーンの浮遊感の強いアンサンブルの絡み合い。
 誰も激しい音や性急なフレーズを出さない中で、ゆったりとした上質な時間が過ぎていきます。
 前作を聞く限り、淡い色合い、甘いメロディやキャッチーさをあまり前面に出さないタイプかと思っていましたが、本作にはわかりやすいメロディの楽曲が何曲も収められています。
 冒頭の”A Port on a Distant Shore”、最後の”Adieu”など、タイトル通りとても悲し気、かつハードボイルド、それでいてふわりとした感じが残るとても素敵なメロディ。
 それらを今にも止まりそうなスローのルバートで演奏するのだから・・・・・・
 “Satoyama”なんて曲もあり、トランペットが尺八風に、ハープが琴風に響くとても典雅な演奏。
 その他諸々、素敵なメロディ、演奏が揃っています。
 各曲自体がドラマチックな構成になっていますが、アルバム全体のコンセプトも何らかのストーリー性をもった構成なのでしょう。
 最初から最後まで通して聞くと何か見えてきそうな、想像力を掻き立てる音作り。
 それでいてどのトラックから再生しても、とても素敵な世界が広がります。 
 本作も前作に引き続き、とても素敵な北欧旅情、トリップミュージックです。
 空気感はひんやりとしていながら、なぜか穏やかで優し気。
 まさにジャケットのような音。
 きっとスカンジナビアの空気なのでしょう。 




posted by H.A.


【Disc Review】“Encounter” (1976、1977) Flora Purim

“Encounter” (1976、1977) Flora Purim

Flora Purim (Vocals)
George Duke (Piano, Electric Piano, Synthesizer) Hermeto Pascoal (Electric Piano, Clavinet, Vocals) McCoy Tyner (Piano) Hugo Fattoruso (Synthesizer)
Alphonso Johnson, Byron Miller (Electric Bass) Ron Carter (Acoustic Bass)
Airto (Drums, Congas, Percussion) Leon Ndugu Chancler (Drums)
Joe Henderson (Tenor Saxophone) Raul De Souza (Trombone)
 
Encounter
Flora Purim
フローラ・プリム



 Flora Purim、どれだけ有名な作品なのかはわかりませんが、私的大名作。
 Chick CoreaもStaley Clarkも参加していませんが、“Return to Forever” (Feb.1972)、 “Light as a Feather” (Oct.1972)に続くReturn to Foreverの作品はこれ、ってな感じが似合うサウンド。
 それらに並ぶような・・・は少々大げさなのかもしれませんが、そんな大名作だと思います。

 この期のファンクな音は抑えられ、いかにもブラジリアンなとても柔らかでしなやかなビート、幻想的なムードとほどほどの洗練が絡み合うブラジリアンコンテンポラリージャズってな面持ち。 
 同時期のド強烈なファンクアルバム“Open Your Eyes You Can Fly” (1976)、“That's What She Said” (1976)がGeorge Duke+Alphonso Johnsonの色合いだとすれば、こちらはHermeto Pascoal+Ron Carter。
 穏やかで柔らか。
 ジャズ、ファンク、ポップスのバランスの取れた前々作“Stories to Tell” (1974)よりもさらに穏やかなイメージ。
 ここまでの作品、質感に大きな幅はあれど、MPBにカテゴライズすると落ち着きそうな内容でしたが、本作は「コンテンポラリージャズ」の色合い。
 全編しっとりとしたイメージに加えて、4ビートの場面もしばしば、少しながら初期Return to Foreverのムードもあり、ジャジーなFlora Purimが戻ってきています。
 多くの楽曲を提供したブラジリアンHermeto Pascoal、さらにRon Carterの柔らかなベースの色合いが強いのでしょう。
 ファンクナンバー、サイケな色もありますが、それらもマイルドな質感。

 冒頭のChic Coreaの”Windows”から、柔らかなビート、サックスが醸し出すジャジーなムード。
 続くは、優しいHermeto Pascoalのブラジリアンメロディ、スキャットが交錯する幻想的なバラード。 
 さらに美しいエレピに導かれる漂うようなバラードから、高速な4ビートでのインプロビゼーション。
 Hermeto Pascoalのエレピのフワフワとした感じと、自身のいかにもブラジリアンな柔らかで切ないメロディの組み合わせは最高。
 さらにRon Carterはジャズっぽさ、柔らかさに加えて、Miles Davis黄金のクインテット時を想い起こさせる伸び縮みするビートもしばしば。 
 これだけ穏やかな音だと、さすがのFloraさんもあまり頻繁に奇声を上げることが出来なくて・・・
 それでも常時感じられる強烈なグルーヴは、ブラジリアンフュージョン最高のリズム隊ならでは、と言っておきましょう。
 4ビートかと思っていると思うとサンバになったり、その他諸々カッコいいビートの曲が並びます。
 
 LPレコードB面に移ると重厚なMcCoy Tynerのピアノとスキャットとの幻想的な絡み合い等々、素晴らしい演奏が続きます。
 時折の4ビート、さらにエレクトリックマイルス的な激しさと狂気が入り混じるような音。
 最後も漂うような定まりそうで定まらないルバート的な展開から、強烈なJoe Hendersonのサックスと幻想的なスキャットとの絡みで締め。

 Flora Purim の私的ベストを上げるとすれば、本作か、“Stories to Tell” (1974)。
 ジャズの人は本作、ファンクが好きな人は“Open Your Eyes You Can Fly” (1976)、諸々のバランスが取れていて洗練されているのは“Stories to Tell” (1974)、洗練されたAORがよければ“Everyday Everynight” (1978)、といったところでしょうか。
 いずれにしても作品の色合いの幅が広い人ですが、柔らかな音、ジャズ寄りならば、本作で決まりでしょう。


 

posted by H.A.  


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