“Opening” (2021) Tord Gustavsen Trio
Tord Gustavsen (piano, electronics)
Steinar Raknes (double-bass, electronics) Jarle Vespestad (drums)
ノルウェー発、哀愁のピアニストTord Gustavsen、トリオ作品。
前作“The Other Side” (2018)と同様、オーソドックスなピアノトリオ編成ですが、ベーシストが交代しているようです。
静謐で沈んだ空気感は、この人のいつもの音。
ECMレコードでの初作であろう“Changing Places” (2001)と変わらない沈痛な哀感。
が、前作の流れを引き継いでか、かつての悲壮感が漂うような沈痛さ、あるいは演歌な感じではなく、穏やかで軽い方向、あるいは淡い色合いに振れてきているように思います。
ゆったりと丁寧に置かれていくメロディ。
哀し気でキャッチーなメロディが揃い、涙ちょちょ切れ、これでもかこれでもかと押し寄せてくる怒涛の哀愁。
概ねゆったりとしたテンポながらも、全体を通じた穏やかなグルーブと、ときおりの疾走。
・・・と、ここまでは初期の作品とも同じ。
が、終始哀し気ながら、穏やかでほんのり温かな感じ、そのうえでときおり不穏さが表出する、そんなバランス。
バンド全体のタッチが軽快になり、さらに三者が自由に動く時間が増え、それが初期とは違った軽くて淡い色合いと強い浮遊感に繋がっているようにも思います。
暗いムードや胸を締め付けるような、あるいはベタつくまでの哀感がよければ、初期作品の方がお好みに合うのでしょう。
が、メロディが強いだけに、このくらいのバランスの方がちょうど心地よいようにも思います。
静かで穏やかな諦観。
悟りの境地。
そんな音。
本作も極めて上質、この人のアルバムにハズレなし。
posted by H.A.