『ニュー・シネマ・パラダイス』 (1988)

 1988年、監督、脚本ジュゼッペ・トルナトーレ、出演フィリップ・ノワレ、ジャック・ペラン、サルヴァトーレ・カシオ他
 いわずと知れたイタリアの名画。
 約120分の『劇場版』と170分を超える『完全版』。
 本国以外での上映の際にカットされたシーン+α、約50分の違いですが、別の映画を観たように感じるほどに異なる印象。
 子ども~青年時代の映写技師との温かな関係、悲喜こもごもの思い出を中心とした『劇場版』。
 かつての恋人との顛末が加わり、男女関係のウエットな機微が強調される『完全版』。
 なぜ別れることになってしまったのか、主人公が知らなかった真相。
 その背景にある深い思いと、人生を左右したのであろう取り返しのつかないすれ違い。
 『劇場版』の温かでサラリとした郷愁に、『完全版』では強烈な感傷が加わります。
 終始感傷的な主人公に対して、再会した元恋人の立ち振る舞いと、その上でのハードボイルドネスに少しだけ救われたような気がします。
 そして、いずれのバージョンも、それら全てを含めた過去を流していくような、あるいは逆にフラッシュバックしていくかのようなフィルムラッシュによるエンディング。
 涙する主人公の心情を慮ると、こちらもそのユーモラスな映像に思わず顔がほころびながらも、涙腺も・・・
 過去の思い出に浸るように見える『劇場版』に対して、流しきれない感傷が残るような『完全版』。
 この上なくセンチメンタル、それでいてほのぼのとした温かな空気感。
 近いようで遠い、遠いようで近い、故郷と若い日の思い出。
 エピソードは違えど、似た感じの感覚は誰にでもあるはず。
 それが琴線に触れるとともに、忘れてしまっていた記憶が蘇ってくる人も少なくないのでしょう。
 穏やかに遠い所を眺めるような時間。
 『劇場版』『完全版』、テイストは違えど、いずれも不朽の名作。
 古今東西、Saudadeな映画の決定版


 

posted by H.A.