『アメリカンビューティ』 (1999)
 1999年、ケヴィン・スペイシー出演、サム・メンデス監督。
 一度見た映画を見たことを忘れてもう一度見た経験はあるだろう。途中で気がついて段々と思い出しながらもまだぼんやりした記憶を手繰る。この映画がそのひとつだった。
 風が小さな竜巻のようにオレンジ色の煉瓦の前で舞う。ビニール袋が延々とそこでダンスを踊るかのように戯れている。手持ちの家庭用のビデオカメラで少年はそれを美としてとらえ撮影し保存し、彼女にみせるシーンがあった。そこで記憶が呼び戻され、ああ見たなと自分の記憶との確認がとれた。
 さて、映画の内容は一度目は記憶にないくらいだからそんなには響かなかったのだが、とても美しい作品だった。
 主人公の中年男が娘の同級生の女の子に一目惚れをして欲情する。筋肉質な男が好みと盗み聞きをして筋トレを始める。妻との生活も仕事もうまくいっておらず、退屈な日々をおくっていたが、精神的にも肉体的にもマッチョになっていく。
 別のアングルで娘の視点でも物語は進む。娘は同級生の女の子と仲良しのふりをしている。隣に引っ越してきた盗撮を平気でするサイコな少年に恋をしてしまう。
 アメリカの中流階級の家族はそれぞれバラバラに各々の生活に不満を抱きながら暮らしている。隣の家に住む家族は父親は元軍人の角刈りの厳格な男、母親は悲しそうに毎日をやり過ごしている。少年はビデオをとってコレクションをし、さらにヤクをさばいて金を稼いでいる。父親にはバイトで稼いでいると内緒にしている。
 それぞれの登場人物の視点で物語は進むので確かに複雑な映画ともいえる。
 隣人の父親はゲイが大嫌いで伏線として息子に対してゲイの悪口を言う。隣人にゲイのカップルを登場させていることか後々効いてくる。
 少年は隠れて彼女にナチスの刻印のあるお皿を食器棚からだして見せたことがばれてボコボコにされる。父親は息子の部屋に入ってビデオテープをたまたま見ると窓にむかって筋トレをしている主人公の中年男の映像をみつける。
 雨の日にヤクを渡しに少年は主人公の中年男に持っていく。父親はその場を見て息子が不埒なことで金を稼いでいると勘違いする。
 が、父親は中年男に泣きながら抱き着いてキスを迫り、実は自分がゲイだったというオチ。
 さらにラストではそれを知られなくなかったためか、中年男を撃ち殺してしまう。
 アメリカのそれぞれの美、奥さんの美、少女たちの美、少年の美、中年男の美、すべての美がラストで崩壊する。
 コメディ映画だけれどもアカデミー賞で五部門受賞するだけあって映画の歴史の中でも新しさを感じる。

 


posted by N.N.