“For Gyumri” (2018) Tigran Hamasyan

Tigran Hamasyan (piano, voice)

 Tigran Hamasyan、“An Ancient Observer”(2017)に続く、Nonesuchレーベルからのピアノソロ作品。
 "Gyumri"は故郷アルメニアの街の名前、そのイメージをモチーフに演奏しているのだと思います。
 どこか哀し気で淡々とした音の流れ。
 不思議なビート感と、東欧なのか中東なのかアジアなのか判然としない、エスニックで哀し気なメロディ。
 敬虔で重い空気感の“Aragatz”から始まり、哀し気な“Rays of Light”、ジャズピアノな疾走を見せつつも不思議感たっぷりの“American”、“Self-Portrait”と題された激しくもがくような短い演奏と続き、締めはジャズとロックとエスニックが交錯しつつ疾走する長尺な“Revolving – Prayer”。
 ジャズでもクラシックでもロックでもない、どの時代なのか、どこなのかもわからない、Tigran Hamasyanワールド。
 楽曲、音楽の構成は明確なのですが、複雑で先が読めない展開。
 時空が折れ曲がっているような、一度通ったところに戻ることを繰り返しているような・・・・そうでもないような・・・不思議感たっぷりの迷宮ミュージック。
 まとまっているようでなんとなく理不尽で、静かで敬虔なようで隠しきれない激情・・・
 この人の近作の表情はいずれもそんな感じ。
 それがこの人の心象風景、“New Era” (2007)などの初期の作品も、激しいビートに隠れされていただけで、実は同じだったのかもしれません。
 さながらArmenian Saudade、非日常へのトリップミュージック。




posted by H.A.