“At Home in Anger” (2007-2011) Kip Hanrahan
Kip Hanrahan (direction, percussion, voice) 
DD Jackson, Lysandro Arenas, Mike Cain (piano) John Beasley (piano, keyboards)
Brandon Ross, Roberto Poveda (voice, guitar)
Steve Swallow, Andy Gonzalez, Anthony Cox (bass) Fernando Saunders (voice, bass)
Robby Ameen, Horacio “El Negro” Hernandez (drums, percussion) Dafnis Prieto (drums, voice)
Milton Cardona (congas, percussion) Pedrito Martinez (congas)
Don Byron (clarinet) Craig Handy (sax) Yosvany Terry (percussion, sax)
Bryan Carrott (vibraphone) Alfredo Triff (violin) 
Xiomara Laugart, Lucy Penabaz (voice)

AT HOME IN ANGER
KIP HANRAHAN
ewe
2012-01-18
キップ・ハンラハン

 アフロキューバンジャズ~ポップスのKip Hanrahan、少し前の録音~発表ですが、2017年6月時点での最新作。
 前作“Beautiful Scars” (2004-2007)に続く作品、メンバーも色合いも類似しています。
 悲し気でやるせなさ気ながらポップでキャッチーなメロディに、少し丸く、穏やかになった音。
 かつての作品と比べると、マニアックさ、緊張感が少々薄らぎ、馴染みやすいアルバムなのかもしれません。
 が、もちろんベースはいつもの気怠く囁くような歌声と、その背後の狂気を秘めた演奏。
 鳴り続けるパーカッションと激情をほとばしらせるバイオリン、サックス・・・
 あの独特の激しいドラムと強烈なグルーヴが戻ってきた演奏も何曲かあります。
 ときおり顔を出すDon Pullenを想わせる激しいピアノは、弟子のDD Jacksonでしょうか?
 明るくのどかな時間もあるのですが、長くは続きません。
 穏やかなキューバンポップスな曲も時空がねじれたような不思議なアレンジだったり、久しぶりのサイケなギターが鳴っていたり、Bill Frisell風のギターが漂うルバートでのスローバラードがあったり、フレットレスベースがスペーシーな空気感を作る中でのフォークックロックだったり、不可解な肉声、あるいはクラリネットのアカペラがあったり・・・
 その他諸々、一筋縄ではいかない多彩で凝ったアレンジの演奏揃い。
 一曲一曲の楽曲のテイスト、編成、アレンジは全く異なります。
 一見バラバラなようで、不思議な統一感、あるいは全体でのストーリー性を感じるのは、Kip Hanrahanが作るメロディラインゆえ、キャスティングを含めた構成力ゆえでしょうか。
 キューバンポップス、アフロキューバンネイティブ、ひねりの効いたポップスが混ざり合う感じは、やはり初期作品“Coup de tête” (1979-1981)、“Desire Develops an Edge” (1983)の頃を想起し、さらに後のハードなアフロキューバンジャズの色合いが自然に混ざり合ったイメージ。
 それは“Beautiful Scars” (2004-2007)と同様。
 その意味でもこの二作、初期からのさまざまな音、キャリアを通じた集大成のようでもあり、破天荒だったさまざまな音が時間を掛けて熟成した結果のようにも感じます。
 全体を通じた不思議な高揚感と不思議なやるせなさはここまでの作品通り。
 やはり妖しく、クールです。
 このアルバムからもかなり時間が経っていますが、そろそろ新作が出ないのかなあ・・・





※名作揃いですが、初期はポップス~ロック色が強く、“Tenderness” (1988-1990)あたりから、Don Pullenのピアノの炸裂含めて、ハードなジャズ色。
 キューバンネイティブなDeep Rumbaを経て、最近の二作は、どちらもキャリアのさまざまな要素を詰め込んだ集大成的な出来具合。
 諸々の変化はあるものの、30年間、流行の変化に迎合するわけでも無く、どの作品も今聞いても古くないのは傑出したセンスゆえなのでしょう。
 私的な好みは、Don Pullen、DD Jacksonのぶっ飛んだジャズピアノが炸裂する“Tenderness”、“Exotica”、“A Thousand Nights And A Night: Red Nights”ですねえ。
 同じ時期の作品になってしまうのは偶然ではなく、必然なのでしょうね。

Coup De Tête” (1979-1981)
Vertical's Currency” (1984)

Tenderness” (1988-1990)
Exotica” (1993)

This Night Becomes a Rumba” (1998) Deep Rumba
A Calm in the Fire of Dances” (2000) Deep Rumba
“Bad Mouth” (2006) Conjure
Beautiful Scars” (2004-2007)
At Home in Anger” (2007-2011)


 posted by H.A.