“An Ancient Observer”(2017)Tigran Hamasyan
Tigran Hamasyan (piano, voice, Synthesizer, Fender Rhodes, Effects)
 
An Ancient Observer
Tigran Hamasyan
Wea
2017-03-31
ティグラン ハマシヤン

 アルメニア出身のスーパーピアニストTigran Hamasyanのソロ作品。
 ECMでの制作“Atmospheres” (Jun.2014)、”Luys i Luso” (Oct.2014)を経て、本作は前のレーベルNonesuch から。
 ECMとの契約は終わったのか、Nonesuchとの残契約の消化なのか、そのあたりの事情はわかりません。
 どのタイミングの録音なのかも現時点では不明です。
 いずれにしても上掲のECM作品とは全く質感は異なります。
 Nonesuch での前作、プログレッシブロックなジャズ“Mockroot” (2014)とも違うし、同じくソロ作品の“A Fable” (2010)に近いといえばそうですが、さらにジャズっぽさは薄く、それにクラシック色、 ECM二作の教会音楽?色が強く混ざったような不思議な色合い。
 メロディアスな要素が薄まって、自在にインプロビゼーションを展開しているようにも聞こえるし、事前にキッチリ組み立てているようにも思えるし。
 ピアノのソロ演奏に加えて、要所でいつもの幻想的なボイスが加わり、パーカッションその他が彩をつけていく構成。
 “A Fable” (2010)に比べると、妖しい感はそのままに現代的なビート感が薄まり、さらに不思議感が強くなっています。
 冒頭はクラシックか民族音楽のような空気感の静かな演奏。
 続く強いビートの演奏は、何拍子かわからないブレークと切り返しが意外なところに入る、いかにもTigranな変拍子ロックと幻想的なボイスの絡み合い。
 それらが交錯するような構成。
 ジャズ的なビートはあまり出てきません。
 “Liberetto” (2012) Lars Danielssonなどのジャズ諸作のように、わかりやすいコードの流れ、強烈なグルーヴに乗って弾き倒して欲しいと思うのは、古いジャズファンの古い志向なのでしょう。
 そんな世俗な気持ちを突き放したような独自の世界観。
 ジャズなんて中途半端に古くて俗な世界ではなく、もっと古(いにしえ)の空気感。
 アメリカや西欧の馴染みやすい場所ではなくて、おそらく東欧~中東であろう、よくはわからない場所の香り。
 この人の音は、ハードで大音量にしても、静かな音にしても、どこか遠い所に連れて行ってくれるようなトリップミュージック。
 タイトルにピッタリくる音といえばその通り。
 ヨーロッパ、中近東、アジアの狭間、アルメニアの空気感、ジャズ、ロック、クラシックを超越したノンジャンルなアート、Tigran Hamasyanの世界・・・ですかね。


 

 posted by H.A.