“And If” (2010) Anat Fort
Anat Fort (piano)
Gary Wang (bass) Roland Schneider (drums)

And If
Anat Trio Fort
Ecm Records
2010-09-14
アナト フォート

 イスラエル出身のピアニストAnat Fort、ピアノトリオ作品。
 Paul Motianの逝去と、制作、発表のタイミングの関係はわかりませんが、彼へのオマージュでもあるのでしょう。
 冒頭と最後の曲名は”Paul Motian”。
 いかにもPaul Motian、いかにもECMな、スローでのフリービート、ルバートでのスローバラード、2バージョン。
 とても悲し気でハードボイルド。
 いかにも・・・
 二曲目かからビートが入るといつものAnat Fort。
 というか、前作“A Long Story” (2007)よりも明るい“Peel” (1998,1999)に近い感じでしょうか。
 少し遅れ気味に音を置く感じは薄くなったままながら、穏やかにどこまでも続いていく感じ、その中で明後日の方向に動いていく感じが戻ってきました。
 ECM的な少し沈んだ空気感、悲しげな表情、妖しさ、緊張感が強い場面はありますが、あくまで明るく穏やかで優し気。
 いかにも女性的な空気感。
 興奮や妖しさを求める向きには物足らないのかもしれませんが、穏やかに流れていく音はとてもいい感じ。
 一聴、平和なようでなんだか複雑で、少しだけひねくれている感じがあるのも奥が深そうでいい感じ。
 それがこの人の個性、Eicherさんが買っているところなのでしょうかね。
 本作の録音は前作とは違って、ECMのホームグランド、オスロのRainbow Studio、プロデューサーはManfred Eicherのみ。
 が、逆に、明るく穏やかでわかりやすい質感は、ECMのイメージとは異質な感じ。
 この人なりのポジションが確立しましたかね。
 近年のECMの新しい色合いのひとつ、かもしれません。
 ・・・と思っていたら、次作“Birdwatching” (2015)、また色合いが違う素晴らしい作品へと続きます。




posted by H.A.