“La Scala” (Feb.13.1995) Keith Jarrett
Keith Jarrett (piano)
 
La Scala
Keith Jarrett
Ecm Records
キース ジャレット


 Keith Jarrett、“Vienna Concert” (Jul.1991)から四年後のソロコンサート。
 大傑作。
 スタンダーズでは “Keith Jarrett at the Blue Note” (Jun.1994)、“Tokyo '96” (Mar.1996)の間。
 本作ももちろん1970年代型ではなく、1980年代~の型のソロピアノ。
 現代音楽的な色合いも強い"Dark Intervals"(Apl.1987)を経て、”Paris Concert” (Oct.1988)、“Vienna Concert” (Jul.1991)あたりではメロディアスさも戻ってきましたが、時間を経るにつれ重厚に抽象的に、あるいはクラシック的になってきている感じがします。
 が、本作、それだけではなく、ここまでの作品とは何か違う凄み。
 “The Köln Concert”ではない、新しいピアノインプロビゼーションのスタイルがここにきて完成を見たようにも思います。
 “The Köln Concert”が大衆小説の大傑作だとすれば、本作は純文学の大傑作。
 人気、わかりやすさ、好みはさておき、本作がKeith Jarrettのソロピアノの最高傑作といっても過言ではないように思います。

 第一部、何かを慈しむような、懐かしむようなとても美しい旋律で幕を開け、静かで淡々とした優しい演奏が十数分続きます。
 が、次第に重苦しい音の流れに変わり、ビートを止めた片手のみでの演奏、さらにはヘビーなビート、スパニッシュなようなアラビアンなような音階・・・深刻な音の流れ、陰鬱で苦し気にも聞こえる演奏。
 それらを経て、冒頭から35分過ぎ、徐々に穏やか、前向きになり、再びリリカルなメロディに戻る展開。
 そこから10分弱、甘すぎることのない、漂うような音の流れの中で静かに幕。
 冒頭、終盤のあまりにも美しい整ったメロディとドラマチックな展開。
 本当にこれも即興なのでしょうか?
 疑いたくもなる素晴らしい演奏、構成。
 唖然としているのか、戸惑っているのか、演奏が終了したことを確認するような間を空けた後の拍手喝采・・・
 が、私見ながら、40分を優に超える長尺な第一部はあくまで予告編に過ぎません。
 それをしのぐ、とてつもない第二部に続きます。

 第二部はフリージャズ~現代音楽的な展開からスタート。
 激しい音の動き。
 おもちゃ箱をひっくり返したような飛び跳ねるような音、怒涛のような演奏の中から現れる日本的な雅な音の流れ。
 それが新たな、そして美しい怒涛に変わります。
 音量、テンポを落とした13分過ぎ辺りから、少し穏やかになった波間にゆったりとした切ないメロディが見え隠れするような、現れては消えていくような展開。
 そこからが10分間以上続くクライマックス。
 止まりそうで止まらないスローのルバート、曖昧なようなはっきりと見えるような何とも微妙な切ないメロディも合わせて、心臓が止まりそうになるような感動的な音。
 グラデーションをつけながら徐々に周囲の景色が変わっていくような音の流れ、次第にまとまり始め、どこか懐かし気なメロディ、インプロビゼーションに続きます。
 そして現れるのは準備されたとしか思えない、とてつもなく美しいメロディ。
 この上なくドラマチックな展開、映画の最後の場面のようなエンディング。
 この部分が、最もカッコいいと思うKeith Jarrettのひとつ。
 “The Köln Concert”前後の名演の連続の中にも、スタンダーズにもカルテットにも、ここまで激しくも繊細で、悲しく美しい音の流れはなかったように思います。
 何度聞いても胸に迫るとてつもなく感動的で素晴らしい演奏。
 ・・・と思っていたら、最後は短い混沌に遷移し、幕・・・
 そしてアンコールは、嵐の後、雨風の余韻が残る空にかかる虹のような、美しいことこの上ない”Over the Rainbow”。
 いやはやなんとも・・・

 全編通じてヘビーな長編映画を通して観たような感覚。
 かつてのソロピアノ演奏は静から動への流れ、明解な起承転結でしたが、この頃は静動が交錯する予測が難しい展開。
 そして最後にとてつもなく美しい旋律、感動的な場面が現れます。
 見方を変えれば、最後の美しい結びを見つけ出し、生み出すために格闘し、葛藤しているようにも聞こえます。
 もし、一部二部ともに終盤の旋律が準備されていたモノではなくて、途中の激しい演奏を経て降りてきたものだとすれば、凡人には想像できないような感性、創造力。
 “Vienna Concert” (Jul.1991)などの一連のコンサートでやろうとしてやり切れなかったことが、ここで結実したようにも思えます。
 新しいクリエイティブのスタイル、公式に残された記録では”Concerts:Bregenz” (May.1981)、”Concerts:Munchen”(Jun.1981)、"Dark Intervals"(Apl.1987)、”Paris Concert”(Oct.1988)、“Vienna Concert” (Jul.1991)を経て出来上がった、1990年代型Keith Jarrettソロピアノのスタイルなのかもしれません。
 そんなことは意識していなかったとしても、とにもかくにも素晴らしい演奏です。
 わかりやすい展開、美しいメロディが、長尺な演奏の終盤に収めれらているため、そこまでたどり着くのが大変なのですが、その構成に気付けば、とてつもない作品、アートが見えてくるように思います。

 ここから二年後、同じくイタリアでのステージ、2016年発表の”A Multitude of Angels” (Oct.23-30.1996)などを経て療養入り。
 こんなことばかりしていると疲れるのも当たり前でしょう。
 この後しばらく間を空けて、“The Melody At Night, With You” (1998)でまた新たな姿で復活を遂げます。
 本作の最後、あるいは”A Multitude Of Angels”の最終トラック、”Over the Rainbow”が、その冒頭曲“I Loves You, Porgy”の穏やかな演奏に繋がっているように聞こえるのは、きっと気のせいなのでしょう。


 

posted by H.A.