“A Fable” (2010) Tigran Hamasyan
Tigran Hamasyan (piano, voice)
 
Fable
Tigran Hamasyan
Verve
2011-09-27
ティグラン・ハマシヤン

 アルメニア出身のスーパーピアニストTigran Hamasyan、ピアノソロ作品。
 ジャズとも、クラシックとも、ワールドミュージックともつかない、それらが入り混じったような音。
 何曲かではスキャットを中心としたvoice、パーカッションが入る不思議なテイストのソロ作品。
 オリジナル曲を中心として、アルメニア系の伝統曲?教会系曲?、さらに同じくアルメニアのGeorges I. Gurdjieffが一曲、ジャズスタンダードが一曲加わります。
 いろいろ混ざっているようで、どれも同じテイスト。
 アルメニア系を前面に出していく方向が絞られた作品なのかもしれません。
 全編不思議で妖しいムード。
 いきなり中世のサーカスのような妖しげな短いイントロダクションからスタート。
 続くは複雑で強烈なビートに乗って疾走するピアノと、幻想的なボイスが交錯する、後々まで続くこの人独自の世界。
 演奏力はいわずもがなのすごさ。
 とても美しいパキーンとしたピアノなのですが、聞き慣れない音階と、これまたパキーンとしていながら変幻自在、目くるめくようなこの人独特のビート。
 ノリもグルーヴもブレークも強烈ですが、ジャズっぽくはありません。
 指にバネか加速装置が付いているのかと思うような、ビートに乗ってくるとどこまでも突っ走っていきそうな疾走感、かつ強力で美しいタッチ。
 クラシック的なのか、ジャズ的なのか、いまだによくわかりませんが、全く迷いの感じられない小気味いいピアノ。
 ゴツゴツしていて硬質なようで、しなやかな筋肉のような音の流れ。
 そんな音、そんな演奏が続きます。
 “Someday My Prince Will Come”も、リズムこそ素直にワルツ、メロディもきちんと出しているようで、ちょっとずれている感じがとても妖しげ。
 ロマンチックなようで、やはりどこかしら中世的な空気が漂います。
 などなど、全編妖しげで神秘的なムード、情緒的なムードも強いのですが、どこかあっけらかんとしていて、沈痛さや陰鬱さがあまりないのは、現代の若者だからでしょうか?

 現代の若手~中堅では、この人に加えてポーランドのLeszek MozdzerMarcin Wasilewskiが傑出しているように思うのですが、Tigran Hamasyanは彼らよりも一回り若い世代のようです。
 氷のように冷たくカミソリのように鋭いLeszek Mozdzer、柔らかくて明るいMarcin Wasilewskiに対して、温度感は少々高め、ナタあるいはソード(中世ヨーロッパっぽい!)のような力感のある切れ味のTigran Hamasyan。
 三者三様の現代のスーパーピアニスト、妖しさ、激しさではこの人がNo.1かもしれません。
 そんな彼の現代?中世?的な、東欧?中東?的な、スーパーなジャズ「かもしれない」ピアノ作品。

 


posted by H.A.