“Rising Grace” (2016) Wolfgang Muthspiel
Wolfgang Muthspiel (Guitar)
Brad Mehldau (Piano) Larry Grenadier (Double Bass) Brian Blade (Drums)
Ambrose Akinmusire (Trumpet)
 
Rising Grace
Wolfgang Muthspiel
Ecm Records
2016-10-28
ウォルフガング・ムースピール

 オーストリアのギタリストWolfgang Muthspiel、"Driftwood” (2014) に続くECMでのリーダー作、第二弾、最新作。
 コンテンポラリージャズ系の中では、Kurt Rosenwinkelよりは少しだけ上の年代、若手、中堅ではなく、すでにベテランになるのでしょう。
 前作はトリオでのフワフワした作品でしたが、本作はピアノとトランペットが加わります。
 ベースとドラムは前作と同じメンバーですが、もともとBrad Mehldau、あるいはJoshua Redman、Pat Methenyあたりと共通する人脈。
 Pat Methenyの作品では、ドラマー違いでのギターカルテット作品“Metheny/Mehldau Quartet” (Dec.2005)もありました。
 もちろんそれらとは全く質感の異なる、基本的には前作"Driftwood”と同様に淡くて穏やかな音。
 寂寥感、哀愁感はそのままに、ピアノが入っている分、全体の音の輪郭が明確になり、トランペットが寂寥感を増幅。
 トランペットの入り方、端正で上品な演奏も相まって、Lars Danielssonの“Liberetto” (2012)のようなムードも漂っています。
 そちらよりはビート、メロディが複雑で、淡く漂うような不思議系の音作り。
 ギターが前面に出るのではなく、ドラムとベースが後ろでしっかりとビートを作り、ギター、ピアノ、トランペットがインタープレーを展開する場面が目立ちます。
 冒頭から穏やかながら複雑なビートの上を、瑞々しいガットギター、美しいピアノ、寂寥感の強いトランペットの絡み合い。
 誰が前面に出るわけではなく、淡々とした美しい音の絡み合い。
 エコーがたっぷり聞いた美しいガットギターで導かれる次曲も同様。
 ギター、ピアノ、トランペットが短く代わる代わる前に出ながら、他の楽器がさまざまに反応しながら、淡々と音が流れていきます。
 三曲目でビートが強めになり、フロントの三人がソロスペースを分け合うオーソドックスな構成になりますが、穏やかで淡い空気は続きます。
 フォークロック調の優しいメロディとコードをべースに、美しくかつ強い疾走感のピアノとクギター、トランペット。
 誰も激しい音は使いません。 
 そんな穏やかな演奏、楽曲が続きます。
 エレキギターの使用も少なめ、あくまでクリーントーン。
 “Earth Mountain” (2008)あたりの作品ではキャッチーな楽曲が増えてきたように思っていたのですが、本作は全編通じて不思議系。
 ECM的といえば、そうなのかもしれません。
 終盤にECMの定番、ルバート中心のスローバラードもあります。
 静かなフリービートに漂うようなギター、はらはらと舞い落ちるような美しいピアノ。
 タイトルを見ると“Den Wheeler, Den Kenny”、近年逝去したKenny Wheelerへのトリビュート、とても静かで優しい音。
 この曲が私にとってはベストでしょう、今のところ・・・
 最後もガットギター、ピアノ、トランペットの静かで不思議な絡み合いで幕。
 抽象的ではないほどほど明解な音の流れ、淡い感じの明るいムードは、近年のECMの色合いでしょう。
 取り立ててメロディアスではないし複雑ですが、普通にカフェで流れていてもオッケーそうな上品で心地よい音。
 登場した当時のとんがったムードがなくなり、2000年以降の少々キャッチーな感じもなくなり、複雑な、それでも淡くて穏やかな音。
 一貫しているのは寂寥感。
 ECMのWolfgang Muthspielはこの色合いで行くのかな?




posted by H.A.