“Concerts: Bregenz/München” (May.28.1981/Jun.2.1981) Keith Jarrett

Keith Jarrett (piano)
 

Concerts: Bregenz/Munchen
Keith Jarrett
Ecm Records
2013-12-10
キース・ジャレット


 Keith Jarrettのソロピアノ、2013年にCD化された作品、1981年の録音。

 LPレコードは聞いていませんでしたが、CD化されていた“Concerts:Bregenz” (May.28.1981)は聞いていたし、1970年代の神がかったようなメロディアスな演奏はないだろうと思って見送っていたアルバム。

 ところがどっこい、アンコールにとても素敵な名曲、名演が収められていました。

 ”Mon Coeur Est Rouge(Paint My Heart Red)"。

 “The Carnegie Hall Concert” (2006)のアンコールで演奏されていましたが、ここでも演奏されていたことは知りませんでした。
 落ち着いた印象のそちらのバージョンとは少々違う、1970年代Keith Jarrettのムードが漂う演奏。

 “My Song” (1977)に収められた“My Song”、”Country”、あるいは“Nude Ants” (May,1979)の“Innocence”を凌駕するような、優しくて懐かしいメロディ。

 さらにインプロビゼーションもあの神がかったKeith Jarrett。

 演奏の違い自体は、わずかな変化なのかもしれませんが、その違いが、スタイルの変化の典型のひとつのようにも思います。
 この8分間だけでもこのCDの価値あり。


 ・・・と書いてしまうとMünchen本編がよくないように聞こえてしまいそうですが、そうではありません。

 ただ、このあたりからソロ作品の作風が変わったように思います。

  “The Köln Concert”(Jan.1975)、“Sun Bear Concerts” (Nov.1976)のような激甘なメロディの連発、それに連なる神がかったようなインプロビゼーション、ドラマチックで高揚感を誘う様式美はありません。
 思索的な音の流れ。

 甘さが抑えられたクラシック色も強い展開。

 ポップス、あるいはジャズ的な要素も残っているように思うのですが、メロディが淡くなり、ビート感が少し違ってきているように感じます。

 また、思い入れたっぷりなタメ、激情がほとばしるような高速なロングフレーズの場面が少なくなってきているようにも感じます。

 それでもステージ開始後約30分、“Pt. 2”あたりには“The Köln Concert”で聞いたようなとても切ない音の流れと高速なフレージングの連続。

 が、それも長くは続かず、不思議な音階、しばしば現れるフリージャズあるいは現代音楽的な抽象度の高い音の流れに変わります。

 聞き方によっては、無意識に出てしまうあのフレーズ、あの展開を意図的に抑え、新しい別の流れを作ろうと格闘しているようにも思えます。

 後半“Pt. 3”は8ビートのフォークロックなKeith Jarrettでスタート。

 優しく楽し気ですが、中盤からは再び思索的で静かなバラード、メロディは淡く、クラシック的な音の流れ。

 そのまま最終章“Pt. 4”へ続き、珍しく直接弦を弾く抽象的な音使いへ移行。

 これから何が起こるのか、先の読めない緊張感の中、そのままエンディング・・・

 1970年代のような明快な起承転結はありません。

 その緊張感を解きほぐすかのように、アンコールはとてもメロディアスな”Mon Coeur Est Rouge”、さらに”Heartland”。

 1980年代型、新しいKeith Jarrettのソロピアノ。

 その中で1970年代のスタイルが短く現れては消えていく、モデルチェンジの途上といったところでしょうか。

 以降、スタンダーズのジャズ演奏は続きますが、ソロピアノはクラシック色、あるいは現代音楽色も濃厚な別のスタイルの音。
 その端緒の時期、あるいは分岐点のステージ・・・だったのかもしれません。

 そして公式作品では"Dark Intervals"(Apl.1987)、”Paris Concert”(Oct.1988)、“Vienna Concert” (Jul.1991)を経て、後の“La Scala” (Feb.13.1995)が、ポスト“The Köln Concert”、その到達点だったように思います。

 また、近いうちに。





posted by H.A.