“Circle in the Round” (Oct.27.1955-Jan.27.1970) Miles Davis
 
サークル・イン・ザ・ラウンド
マイルス・デイヴィス
ソニー・ミュージックレコーズ
2001-07-18


 Miles Davis、“'Round About Midnight” (1955)~“Jack Johnson"(Feb.18,Apl.7,1970)のアウトテイク集。 
 リリースは休養期の1979年。
 1977年に発表された“Dark Magus”(Mar.1974)、1981年に発表された“Directions” (Mar.1960-May.21.1970)の間のようです。
 ハードバップ期とエレクトリック期が混ざる編集は、聞く方からすると面倒なのですが、マーケティングからすれば、両方のファンにアピールする作戦だったのでしょうかね。
 近年はコンプリート版と称して同年代で集めているようですが、ほとんどがこれらと重複だったり、未発表音源がいくつか含まれていたり、まあややこしい。
 本アルバムは“Miles in the Sky” (Jan.16.,May.15-17.1968)周辺でのセッションが多い感じ。
 目玉はアバンギャルドな<Dec.4.1967>"Circle in the Round"と<Jan.27.1970>"Guinnevere"でしょうか。
 前者は意外にも早い時期、“Miles in the Sky”期の長尺な激烈セッション。
 後者は“Big Fun”収録の近い時期のセッションと合わせて、新しいアルバムを作ろうとしていたのだろうと推察されます。
 インド楽器が鳴り響くエスニックかつアバンギャルドな音が揃っていますが、正規アルバムとして出ていたら面白かったんだろうなあ。
 “Big Fun”をそう編集すれば、あるいはそちらはファンクで絞って、別にこの種のアバンギャルド系を集めればよかったようにも思うのだけども、これまたマーケティングの妙なのかな?
 聞く方は面倒だし作品としての価値がなんとも・・・

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<Oct.27.1955> "Two Bass Hit"
Miles Davis (trumpet)
Red Garland (piano) Paul Chambers (bass) Philly Joe Jones (drums)
John Coltrane (tenor sax)

<May.26.1958> "Love for Sale" 
Miles Davis (trumpet)
Red Garland, Bill Evans (piano) Paul Chambers (bass) Jimmy Cobb (drums)
John Coltrane (tenor sax) Cannonball Adderley (alto sax)

<Mar.21.1961> "Blues No. 2"
Miles Davis (trumpet)
Wynton Kelly (piano) Paul Chambers (bass) Philly Joe Jones (drums)
Hank Mobley (tenor sax)

 こちらはモダンジャズ、ハードバップ期、“'Round About Midnight” (1955), “1958 Miles” (1958), “Someday My Prince Will Come” (1961)の名作の録音時のアウトテイク。
 これは説明無用でしょう。
 10分を超える"Love for Sale"が全く退屈なし。
 何をどうやっても名演です。


<Dec.4.1967> "Circle in the Round"
Miles Davis (trumpet, bells, chimes)
Joe Beck (guitar) Herbie Hancock (celeste) Ron Carter (bass) Tony Williams (drums)
Wayne Shorter (tenor sax)

 “Nefertiti” (Jun.Jul.1967)と“Miles in the Sky” (Jan.May.1968)の間、“Live in Europe 1967: Best of the Bootleg, Vol. 1"(Oct,Nov.1967)の後のセッション。
 まだモダンジャズの香りが残る時代なので・・・と思っていたら大間違い、ちょっとびっくりの激しくアバンギャルドな印象の演奏。
 “Bitches Brew” (Aug19-21,1969)以降のインド系のセッション?と思ったらずいぶん前で、ギター?がJoe Beck?
 シタールか琵琶のような音が終始鳴り響き、沈痛で複雑なメロディ。
 さらにピアノではなく、エレピっぽいセレステ(エレピ?)。
 しかも26分を超える長尺。
 Tony Williamsが最初からドラムソロ状態。
 決してフリーではなく、“Bitches Brew”的でもないのですが、不思議で激しい演奏が続きます。
 それでも少しスペインチックな展開に乗ったトランペットのソロはカッコいいし、サックスも素晴らしい演奏。
 これも“Miles in the Sky”に収めるつもりだったのでしょうか?
 もし入っていたら、一気に問題作になったのでしょう。
 それにしてもギターが・・・
 



<Jan.16.1968> "Teo's Bag"
<Feb.13.1968> "Side Car I","Side Car II"
Miles Davis (trumpet)
Herbie Hancock (piano) Ron Carter (bass) Tony Williams (drums)
Wayne Shorter (tenor sax) George Benson (guitar)

 “Miles in the Sky” (Jan.16.,May.15-17.1968)のセッション。
 George Bensonの参加は"Side Car II"のみ。
 どちらもMilesの曲ですが、"Teo's Bag"はクールなジャズ。
 これはアウトテイクには惜しいハイテンション名演。
 "Side Car ”は変拍子的、メカニカルで新しいムード、難曲にも思えます。
 それらを全く瑕疵なくサラリと演奏してしまっているようなクインテット。
 特にTony Williamsの爆発的なドラムが凄い。
 他のメンバーの凄まじい勢いに対して、George Bensonも頑張っていますが、少々自信なさげでしょうか。
 "Teo's Bag"のようなジャズはもう終わりにして、"Side Car ”のような新しい世界に行こうとしていた記録、といったところでしょうか。
 試行中であったとしても凄い演奏、凄いバンドです。


<Feb.15.1968> "Sanctuary"
Miles Davis (trumpet)
George Benson (guitar) Herbie Hancock (piano) Ron Carter (bass) Tony Williams (drums)
Wayne Shorter (tenor sax)

 “Miles in the Sky” (Jan.16.May15-17.1968) の一連のセッションでしょう。
 “Bitches Brew” (Aug19-21,1969)で再演される曲ですが、雰囲気は全く異なります。
 あちらは漂うようなバラードから激情に遷移する凄い演奏でしたが、こちらはふわふわとした質感、でもビートはしっかりとした不思議な演奏。
 George Bensonも参加していますが、黄金のクインテットのムード。
 ふわふわとしたビートの中で端正なトランペット、サックス、ピアノの完璧なソロ。
 George Bensonはどう動くべきか迷っている様子。
 そうこうするうちに演奏が終わってしまいます。
 いきなりこの中に入るのは難しいのでしょう。
 さすが、黄金のクインテットと言うべきか、そのさりげない凄まじさがわかる演奏でしょう。
 George Benson は、Jan.16.、Feb.13.、Feb.15.1968の三回のセッションで終了?
 このセッションが最後だとすれば寂しい感じもしますが、一ヵ月セッションしてみてバンドに融け込めなかったといったところでしょうか。
 Milesはこの後バンドに誘ったとのことですが・・・


<Nov.12.1968> "Splash"
Miles Davis (trumpet)
Chick Corea, Herbie Hancock (electric piano) Dave Holland (bass) Tony Williams (drums)
Wayne Shorter (tenor sax)

 “Filles de Kilimanjaro” (Jun.Sep.1968) と“In a Silent Way” (Feb.1969)の間、 “Water Babies” (Jun.1967,Nov.11-12.1968) に収められた同曲の別テイク。
 明るく軽快なジャズロック。
 Tony Williamsが激しい“Water Babies”か、まとまりと軽快感ならばこちら。
 さて、どちらのバージョンがカッコいいか?
 考えてみればこの手のストレートなジャズロックはMilesの公式アルバムには無いかな?
 4ビートはもちろん8ビートでも、この種のシンプルな楽曲やスタンダードならなんでも名演になってしてしまう人たちなので・・・


<Jan.27.1970> "Guinnevere"
Miles Davis (trumpet)
Chick Corea, Joe Zawinul (electric piano) Dave Holland (bass) Harvey Brooks (electric bass) Billy Cobham, Jack DeJohnette (drums) Airto Moreira (percussion)
Wayne Shorter (soprano sax) Bernie Maupin (bass clarinet) Khalil Balakrishna (sitar)

  “Bitches Brew” (Aug19-21,1969), “Jack Johnson" (Feb.18,Apl.7,1970)の間、多くが“Big Fun”に収録された以下の一連のセッションの中のひとつ。
 "Lonely Fire"と同日、同メンバー、Joe Zawinulが参加したセッション。

  <Nov.19.1969> "Great Expectations/Orange Lady" "Yaphet"
  <Nov.28.1969> "Trevere" "The Little Blue Frog"
  <Jan.27.1970> "Lonely Fire" 

 楽曲はフォークロックのCrosby, Stills & Nashの曲のようですが、とてもそんなムードはありません。
 沈痛でダル、ヘビーなムード。
 ゆったりとしたリフと、シタール、パーカッション群、エレピの響きが妖しい空間。
 一連のセッションでは、ゆったりとしたテーマメロディの繰り返しの間に、誰のソロとは決まらないインタープレーを挟んでいく構成が多いのですが、この曲は違います。
 普通にテーマ~インプロビゼーション。
 常時インタープレーが続いていて、普通な感じには聞こえませんが。 
 メロディの流れはあるのですが、ひとつのリフを延々18分繰り返しているようにも聞こえます。
 その上にトランペット、サックス、バスクラリネットが絡みながらのテーマ提示、ソロ、“Bitches Brew”的エレピ、さらにシタールのカウンターを中心としたインタープレーの連続。 
 これらのセッションを集めれば楽にLP一枚は作れそうなのですが、お蔵入り。
 どのセッションも少々重めで、ちょっとマニアック。
 問題作になったのは確かでしょうね。
 “Bitches Brew”を沈痛にした感じ、”Jack Johnson"に繋がるイメージはありません。
 “Live Evil” (Feb.Jun,Dec.19,1970)に繋がる感じはありそうですが。
 さてここでMilesの頭で鳴っていたのは、ヘビーな混沌系ジャズか、ストレートなファンクなのか?
 いずれにしても、アルバムとしてまとめ、世に出してみて欲しかったセッションではあります。
 


posted by H.A.