“Directions” (Mar.1960-May.21.1970) Miles Davis 
 
Directions
Miles Davis マイルスデイビス
ソニーミュージックエンタテインメント
1997-06-20


 Miles Davis、"Kind of Blue"(1959)~“Jack Johnson"(Feb.18,Apl.7,1970)のアウトテイク集。
 現在は各種コンプリート版に分散して収録されているようで、未発表曲集としての価値はないのかもしれませんが、Miles長期休養期終盤1981年のリリースのようで、当時世にアピールできる音はどんな感じだったのか、推察するにはいい材料。
 モダンジャズ期のセッションについてはいわずもがな、アウトテイクでもなんでも名演に間違いなし。
 が、エレクトリック期になると実験的な要素も強くなり、いいのもあれば、???なのも・・・
 よければよいで没になった理由が気になり、???なものはいったい何がしたかったのか気になってきます。
 本アルバムにもいろんな演奏が詰まっていますが、"Directions I & II"、"Willie Nelson"のJack DeJohnetteのドラムだけでもこのアルバムの価値あり、は贔屓に過ぎますかね。
 あるいは“Jack Johnson"セッションの未発表曲"Duran"は本作とはまた違ったファンキーなカッコよさ。
 さらにKeith Jarrettのとても穏やかで美しいエレピが聞ける"Konda"も文字通りの掘り出し物の素敵な演奏。
 などなど、バラバラな印象なのはオムニバスゆえの悲しさですが、それぞれカッコいい演奏が粒ぞろいのカッコいい未発表演奏集。
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


<Mar.11,1960>"Song of Our Country"
Miles Davis (trumpet, flugelhorn) Gil Evans (arranger, conductor) Paul Chambers (bass) Jimmy Cobb (drums) Elvin Jones (percussion) Johnny Coles, Bernie Glow, Ernie Royal (trumpet) James Buffington, Tony Miranda, Joe Singer (French horn) Frank Rehak, Dick Hixon (trombone) Bill Barber (tuba) Albert Block, Harold Feldman (flute) Danny Bank (clarinet) Jack Knitzer (bassoon) Romeo Penque (oboe) Janet Putnam (harp)

<Apl.22,1961>"'Round Midnight"
Miles Davis (trumpet) Wynton Kelly (piano) Paul Chambers (bass) Jimmy Cobb (drums) Hank Mobley (tenor saxophone) 

<Apl.16,1963>"So Near, So Far"
Miles Davis (trumpet) Victor Feldman (piano) Ron Carter (bass) Frank Butler (drums) George Coleman (tenor saxophone)

<May.9,1967>"Limbo"
Miles Davis (trumpet) Herbie Hancock (Wurlitzer electric piano) Ron Carter (bass) Tony Williams (drums) Wayne Shorter (tenor saxophone)

 ここまでは、モダンジャズ期で説明無用の名演奏揃い。
 単にLPレコードの収録時間の問題だけでしょう。
 エレピ?が入った"Limbo"<May.9,1967>はアコースティックの音で弾いています。
 このままアコースティックでやっていても、いくらでもカッコいいアルバムは出来ていたのでしょうが、そうはいかないこの人、このバンド。
 エレクトリックの導入に向けた試行が始まります。


<Dec.28,1967>"Water on the Pond"
Miles Davis (trumpet)
Herbie Hancock (Wurlitzer electric piano) Joe Beck (guitar) Ron Carter (bass) Tony Williams (drums)
Wayne Shorter (tenor saxophone)

<Jan.11,1968>"Fun"
Miles Davis (trumpet)
Herbie Hancock (Wurlitzer electric piano) Bucky Pizzarelli (electric guitar) Ron Carter (bass) Tony Williams (drums)
Wayne Shorter (tenor saxophone)

 エレピとギタリストの導入、“Miles in the Sky”(Jan.May.1968)に向けたセッションでしょう。
 結局ギタリストはこれらのセッションのJoe Beck、Bucky PizzarelliではなくGeorge Bensonに。
 エレピの音も今一つで、これらは文句なしの没テイク。
 "Water on the Pond"<Dec.28,1967>は複雑な構成のMilesの曲。
 三分の二ほど吹き続けるMilesのミュートがカッコいいし、続くテナーもいい感じ。
 が、楽曲が複雑すぎてか、リズム隊が今一つまとまらず、Joe Beckの活躍の場もなく、残念ながらフェイドアウト。
 "Fun"<Jan.11,1968>は明るいラテン調、こちらもMilesの曲、これまた複雑な曲。
 テナーとエレピがソロをとり、テナーはカッコいいのですが、エレピの音がまだスッキリしません。
 これまたBucky Pizzarelliの活躍の場面なく、未完でフェイドアウト。
 エレピもギターの導入もまだまだ試行錯誤中といったところ。
 ここから一気に?完成された“Miles in the Sky”(Jan.May.1968)へと向かいます。


<Nov.27,1968>"Directions I & II"、"Ascent"
Miles Davis (trumpet)
Herbie Hancock, Chick Corea (electric piano) Joe Zawinul (piano) Dave Holland (electric bass) Jack DeJohnette (drums)
Wayne Shorter (soprano saxophone)

  “Filles de Kilimanjaro”(Jun.Sep.1968)と“In a Silent Way”(Feb.1969)の間、“Water Babies” (Nov.11-12.1968)のセッションよりも後。
 Dave Hollandは“Filles de Kilimanjaro”からの参加、Joe Zawinulは二度め、Jack DeJohnetteは初めての参加でしょうか? 
 ここまでのアルバムとは違うムード。
 楽曲も提供したJoe Zawinulの色合いが強く、それが“Filles de Kilimanjaro” “Water Babies”と“In a Silent Way”の大きな違いに繋がっているのでしょうか?

 "Directions I & II"はいわずと知れた(?)Bitches Brewライブでの定番オープニング曲。
  ライブの主だった演奏もテーマがゆっくりしていて、もったりした感じもありますが、それでもあのハイテンション感は十分。
 Jack DeJohnetteのドラムが凄い。
 “In a Silent Way”では再び Tony Williamsに戻りますが、ちょっとびっくりの凄まじいドラム。
 後のECM時代まで続く、ヒタヒタと迫ってくるビートはこのセッション、この曲からなのでしょうか?
 さらに、徐々に音量を上げながら叩きまくり。
 天才Tony Williamsに代わる人はこの人しかいなかった、と思える凄い演奏。
 ここから続いて“In a Silent Way”にも参加するDave Hollandも凄まじいベース。
 ホーン陣もそれにつられてか、ライブでのこの演奏と同じようなハイテンションなソロ。
 “Bitches Brew”(Aug.19-21,1969)もさることながら、"1969Miles” (Jul.25,1969)、“Miles Davis At Fillmore” (Jun.1970)などの一連のライブの激烈な演奏は、Jack DeJohnette、Dave Hollandコンビのこの曲から始まったように思います。
 “In a Silent Way”、“Bitches Brew”のどちらにでもいけそうな感じがありますが、なぜアルバムに入れなかったのかはわかりません?
 なお作者はJoe Zawinul、”Live in Tokyo”(1972)("I Sing the Body Electric"(1971,1972))Weather Reportで演奏していますが、このスタジオ録音のイメージではなく、Milesのライブ"1969Miles”で聞かれるようなハイテンポ、さらに明確な4ビート。
 さて、Milesのライブでの演奏は誰のアレンジだったんだろう? 

 "Ascent"は淡いメロディ、長尺な漂うようなバラード。
 複数のエレピの絡め方の試行開始といった感じでしょうか。
 エレピの幻想的なインタープレーが続きます。
 この幻想的な不思議感は“Filles de Kilimanjaro”、“Water Babies”とは違うムード。
 やはりJoe Zawinulの参加が大きいのでしょう。
 前半でとてもカッコいいソプラノサックスのソロが入りますが、MilesバンドよりもWeather Reporを思わせるムード。
 さらに全体ではHerbie Hancock的な端正な色合いも強い感じでしょうか。
 中盤過ぎてやっと登場するトランペットのソロも素晴らしい音、素晴らしいフレージング、悠々としたカッコいい演奏。
 編集すれば素晴らしい演奏になりそうですし、このままでも長尺でいくとしても、ほんの少し整理すれば幻想的でカッコいいムードの演奏になりそうなのですが・・・




<Feb.17,1970>"Duran"
Miles Davis (trumpet)
John McLaughlin (electric guitar) Dave Holland (electric bass) Billy Cobham (drums)
Wayne Shorter (soprano saxophone) Bennie Maupin (bass clarinet)

 “Jack Johnson" (Feb.18,Apl.7,1970)セッションの前日。
 ドラムのBilly Cobhamが”On The Corner” (Jun.1972)的な粘って跳ねるファンキーなカッコいいビートを出しています。
 これを聞くと”On The Corner”のビートの元はJack DeJohnette ではなく、Billy Cobhamだったか?と思ってみたり。
 Billy CobhamがMilesバンドで活躍するのは“Jack Johnson"のみ。
 “Big Fun”収録の"Great Expectations/Orange Lady"、"Yaphet" <Nov.19.1969>などのセッションでもファンキーなカッコいいドラムを叩いていましたが、お蔵入り。
 この後はJack DeJohnetteに戻り、”On The Corner”のセッションには呼ばれていたようですが、演奏した楽曲は採用されず。
 結局、ドラマーは後にAl Fosterには固定。
 さて、この三人のドラマー、さらにBilly Hartを含めて、御大Milesは何を考えていたのでしょう?
 楽曲としての面白みはさておき、ドラムのカッコよさに加えて、各人のソロ、ギターとの絡み方もカッコいいので、上手くピックアップして“Jack Johnson"に入ってもよさそうなのですが、そうはならなかったことも謎・・・かな?


<Feb.27,1970>"Willie Nelson"
Miles Davis (trumpet)
John McLaughlin (electric guitar) Dave Holland (electric bass) Jack DeJohnette (drums)
Steve Grossman (soprano saxophone)

 “Jack Johnson" (Feb.18,Apl.7,1970)の一度目のセッションの再演。
 “Jack Johnson"_“Yesternow” (14:00~)に収められたバージョンよりも、こちらの方がテンポ速め、ドラムのビートが細分されていて、ファンキーな演奏。
 公式盤に採用された演奏よりも倍ぐらいの数を高速に叩き続けているイメージ。
 もしTony Williams だったらもっと爆発的なドラムを叩いていたように想像されますが、Jack DeJohnetteの場合はひたすらヒタヒタと迫ってくるような抑えられた凄み。
 さり気ないようで凄いドラム。 
 Dave Hollandのベースもよく動いています。
 “Big Fun” 収録の"Go Ahead John"<Mar.3.1970>ではちょっと苦しそうでしたが、ここではファンキーなベース。
 各人のソロもカッコいい演奏揃い。
 公式盤に採用された演奏はもう少しゆったりとして静かな場面から。
 それよりもこちらの方が好みだけども、採用されなかったのは、そちらの方がJohn McLaughlin のソロ、エレピを含めたインタープレーがカッコよかったから?
 Jack DeJohnetteが軽く細かく叩いているので、他の楽曲と合わなかったから? 
 こちらのバージョンが採用されなかったことにも、何かしらの意味がありそうです。
 いずれにしてもJack DeJohnetteの最高のドラムが聞けるカッコいい演奏。
 未発表集に入れておくにはもったいないような名演です。


<May.21,1970>"Konda"
Miles Davis (trumpet)
Keith Jarrett (electric piano) John McLaughlin (electric guitar) Airto Moreira (percussion)

 “Get Up with It”に収められていた"Honky Tonk"<May.19,1970>の二日後のセッション。
 Keith Jarrettの加入直後の演奏でしょう。
 珍しくベースレス。
 Miles作の明るい雰囲気のメロディ、三拍子系?の不思議で優雅なビート感。
 とても柔らかく浮遊感のある演奏です。
 冒頭から9分間Milesのソロが続き、クレジットにはありませんが、ドラム(Jack DeJohnette?)が入ってピアノとギターのインタープレー開始。
 徐々にテンションが上がって、エキサイティングな展開へ移って、残念ながらフェイドアウト。
 楽曲集めて整理していけば、この編成でアルバム一枚作っても結構な名作になってしまいそうな予感。
 が、この編成、このテイストの演奏はこれっきり。
 Milesのやりたい音のイメージとは違っていたのでしょうね。


posted by H.A.