“Get Up with It” (May.1970-Oct.1974) Miles Davis
 
GET UP WITH IT
MILES DAVIS
COLUM
マイルス・デイビス



 Miles Davis、知る人ぞ知る、隠れた傑作。
 “Big Fun”(Nov.1969-Jun.1972)と同様に、1970年代初旬のスタジオ録音を集めた作品。
 但し、“Big Fun”が1972年までの未発表録音を集めたアルバムであることに対して、本作の半分はリリース直前のセッション。
 アウトテイク、未発表曲集ではなく、休養前のMilesがやりたかったであろう音のスタジオ録音作品が収まっています。
 Duke Ellintonの追悼を含めていろんな要素が入っているのでわかりにくくなっているように思いますが、もしこのセッションの中から一部をピックアップし、多少整理、修正し、LPレコード一枚分ででもリリースしていたら、大傑作として奉られていた可能性もあったように思います。
 おそらく、直前のスタジオ録音作品“On The Corner” (Jun.1972)とは違う新しい音のアルバムを作ろうとしてセッションを繰り返し、完成までは今少し。
 その途中経過~成果が本作収録の"Calypso Frelimo"、"Maiysha"、"Mtume"あたり。

 そうこうするうちに、Duke Ellintonが急逝、追悼曲を録音し、この形でリリースに至ったのだと推察されます。
 私見では上記の3曲+α(リリースされた形のCDの2枚目に近いイメージ)を中心に、調整して仕上げれば名作になっていたように思います。
 コンセプト、質感の異なるDuke Ellinton追悼作品は、別途出せばそれでよかったように思うのですが、時間の綾は気まぐれで複雑です。

 また、本作のリリースはNov.1974。
 しばらくお蔵に入って1977年リリースの“Dark Magus”、同じく日本以外ではお蔵に入った"Pangaea” よりも、1974年当時のMilesが世に問いたかったことを示しているように思います。
 “Dark Magus”のような激烈疾走ファンクはスタジオ録音にはありません。
 諸々の状況からすると、Milesがやりたかったのは、本作の"Billy Preston"、"Maiysha"、"Mtume"、"Calypso Frelimo"のような音、と推察。
 特に"Calypso Frelimo"に当時のMilesがやりたかった演奏がぎっしり詰め込まれているように思います。
 生涯の大大大名演。 
 ポリリズミック、かつ、粘って跳ねるファンキーなビート、ラテン混じり、それに加えて疾走する音。
 ファンキーではなく疾走するビートを繰り出すAl Fosterを使い続けた理由もそこにあるように思います。 
 "Dark Magus”、“Agharta”、"Pangaea”にもその一部が表出しているけども、スタジオとは勝手が違って・・・ 
 違うかなあ・・・?

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 以下、録音日時順に。
 前後の作品との関係を意識しながら聞くと面白い、かな?

Bitches Brew” (Aug.19-21,1969)
Jack Johnson" (Feb.18,Apl.7,1970)

〇<May.19.1970>"Honky Tonk"
Miles Davis (trumpet)
John McLaughlin (electric guitar) Keith Jarrett (electric piano) Herbie Hancock (clavinet) Michael Henderson (bass) Billy Cobham (drums) Airto Moreira (percussion)
Steve Grossman (soprano saxophone)

 “Live Evil” (Dec.16-19,1970) でも演奏されている当時のライブの中心曲の一つ。
 “Jack Johnson" (Feb.18,Apl.7,1970)の後、Directions” 収録の"Konda"<May.21,1970>の二日前のセッション。
 Keith Jarrett が初参加した演奏でしょうか?
 バリバリのファンクプレーヤーのMichael Hendersonも固定され、一連のBitchesBrew系のライブ作品とロックな“Jack Johnson"を混ぜ合わせて、“Live Evil” に向けて試行中といったところでしょう。
 シンプルな曲ですが、ビート感はシンプルではありません。
 Billy Cobhamのハイハットのキレがカッコいい空間を開けたドラム、ギター、エレピが絡み合う複雑なビート。
 それを背景にしたMilesの堂々としたトランペット。
 Billy Cobhamは先の“Big Fun”収録"Great Expectations/Orange Lady"<Nov.19.1969>でもファンキーなビートを叩きだしていて、Jack DeJohnetteに変わるのはこの人、のイメージがあったのかもしれません。
 あるいは“On The Corner” (Jun.1972) に参加したBilly Hartも考えていたのか?
 結局、後に固定されるのは、その3名ではなく、最もファンキーではない Al Foster。
 そこから読み取れるMilesのドラマーへの要求のイメージは・・・?
 ともあれ、カッコいいドラムです。 
 フェイドアウトされるのが残念ですが、この複雑なビート感がMilesが1974年時点で提示したかった音であり、あえて少し前の音源から選んだ?・・・ようにも思います。

Miles Davis At Fillmore” (Jun.1970)
Live Evil” (Dec.16-19,1970)

〇<Mar. 1972>"Red China Blues"
Miles Davis (electric trumpet with wah-wah)
Cornell Dupree (electric guitar) Michael Henderson (bass) Al Foster, Bernard Purdie (drums) James Mtume (percussion)
Lester Chambers (harmonica) and Brass Section

 “On The Corner” (Jun.1972)の三か月前の録音。
 ドラマーはJack DeJohnette ではなくて、Al FosterとBernard Purdie。
 そろそろジャズドラマーではない、別のビートを出す人を、といった意図があったのかもしれません。
 “On The Corner”はJack DeJohnette抜きではできなかったと思いますが、Al Fosterに大きな可能性を感じていたのは確かなのでしょう。
 演奏は“On The Corner”的ではなく、シンプルでハイテンションなブルース。
 ハーモニカが常時鳴り続け、ブラスセクションがゴージャスな色付け。
 Milesはワウを掛けながらハイテンションなトランペット、全編吹きまくり。
 ソウル系のビッグネームなリズム隊は強い個性を発揮するには至らず。
 隠し味が何かあるのかな・・・

On The Corner” (Jun.1972)

〇<Sep.6.1972>"Rated X"
Miles Davis (organ)
Cedric Lawson (electric piano) Reggie Lucas (electric guitar) Khalil Balakrishna (electric sitar) Michael Henderson (bass) Al Foster (drums) James Mtume (percussion)
Badal Roy (tabla)

 “In Concert” (Sep.29.1972)と同月、それに先立つその冒頭曲のスタジオ録音。
 Milesはトランペットを吹かず、終始鳴り響くオルガンで主導。
 “In Concert”での演奏の後半部分、ヘビーで緊張感の強い深刻系の演奏です。
 ビートはポリリズミック系。
 Al Fosterはいつものハイハットは抑え気味、複雑なビートを出しているように聞こえます。
 “In Concert”では同曲のみがポリリズミックな展開がなんとかできている感じでしたが、このセッションが土台になっているとすれば、それも納得。
 他の曲についてはどう処理するかが曖昧だった、と考えれば筋が通ります。
 “On The Corner” (Jun.1972)からどう発展させるかを模索中、といったところでしょうか。

In Concert” (Sep.29.1972)

〇<Dec.1972>"Billy Preston"
Miles Davis (electric trumpet)
Cedric Lawson (fender rhodes) Reggie Lucas (electric guitar) Khalil Balakrishna (electric sitar) Michael Henderson (bass) Al Foster (drums) James Mtume (percussion)
Badal Roy (tabla)
Carlos Garnett (soprano saxophone)

 これはカッコいい。
 “In Concert” (Sep.29.1972)の三ヶ月後のセッション。
 ファンキーに粘って跳ねるビート。
 Al Fosterのハイハットは相変わらず単調に鳴り響いていますが、タメのあるベースとカッコいいカッティングのギターが繰り広げるファンキーかつポリリズミックなグルーヴ。
 タブラも“In Concert”のようなお祭りビートにはならず、いい感じの絡み具合。
 キーボードも含めて、複雑に絡み合うポリリズミックかつファンキーなビートが出来上がっています。
 さらにハイハット(シンバル?)の単調な響きのおかげで、かえって“On The Corner” (Jun.1972)よりもわかりやすくなり、前に進む推進力もつくなっているように思います。
 しかもポップで明るい色合い。
 その上で朗々と鳴り響くトランペットがこれまた最高にカッコいい。
 おそらく“In Concert”でやりたかったのはこんな感じの音だったのでしょう。
 これこそが“On The Corner” の発展型だ、と言われれば納得のカッコよさ。
 これが続くとすれば、ドラマーをJack DeJohnetteからAl Fosterに交代したことにも合点がいきます。 
 もしこの感じで一作作っていたとしたら新たな神話が出来た・・・
 ・・・かもしれません。
 



〇<Sep. 1973>"Calypso Frelimo"
Miles Davis (electric trumpet electric piano, organ)
Pete Cosey, Reggie Lucas (electric guitar) Michael Henderson (bass) Al Foster (drums) James Mtume (percussion)
Dave Liebman (flute) John Stubblefield (soprano saxophone)

 LPレコード二枚目A面に収められたこの曲がこのアルバムの目玉なのでしょう。
 “Dark Magus”(Mar.1974)、“Agharta”、"Pangaea” (Feb.1.1975)の録音、リリースが前後するので見えづらくなっているのですが、この曲が休養前のMilesがたどり着いたピークのように思います。
 "Billy Preston"<Dec.1972>と同様にポリリズミック系ビートの楽曲、30分を超える長尺な演奏。
 “Dark Magus”でも演奏されていて、そちらも凄い演奏ですが、こちらの方がもっと激烈。
 深刻なムードではなく、ラテン、カリブ混じりのむしろ明るい質感。 
 インド系楽器が抜け、ほぼ“Dark Magus”バンドですが、単なる疾走ファンクではなく、強い疾走感に加えて、パーカッションが強烈に効いたエスニックで複雑なビート感。
 軽い感じではありませんがファンキーなグルーヴ。
 さながら、ファンキーな激烈・疾走・ポリリズミック・エスニック・ファンク。 
 この曲に当時のMilesがやりたかった演奏がぎっしり詰め込まれているように思います。
 当時のWeather Report、Return to Forever、Head Hunters、 Mahavishnu Orchestraが束になっても勝てない凄い音、は大げさでしょうか?
 Miles Davisの演奏としても、過去、将来のすべての中で頂点、たとりついた高み・・・とまではいわないまでも、ベスト10に入る演奏だと思います。
 これがベストといわれても、私的には、そうかもしれませんねえ・・・と納得してしまいます。
 Al Fosterのいつものハイハットでなく、シンバル?を複雑に鳴らし、パーカッションが怒涛のビート。
 ベースライン、ワウのかかったギターもいい感じでファンキーさを醸し出しています。 
 徐々にテンションを上げるヒタヒタと迫ってくる系のビートを背景に、ホーン陣のハイテンションでカッコいいソロの連続。
 最初のテーマの提示が終わった瞬間から、音の塊が怒涛のように押し寄せてくるような凄まじさ。 
 中盤はテンポを落として粘りのあるビート、ハードボイルドなトランペットソロを経て、再びエスニック風のポリリズミックスなビートへ。
 最後は徐々に高揚していくバンドとハイテンションなトランペットソロが一丸となってドカーンと盛り上がって締め。 
 明るいのか、キツイのか、なんとも不思議で凄まじい、ファンキーな激烈・疾走・ポリリズミック・エスニック・ファンクな一曲。
 とにもかくにも凄まじいエネルギーの放出、凄まじい演奏。
 この曲だけでも十分すぎる名作、というよりも、Miles Davis最高の演奏のひとつだと思います。
 



Dark Magus” (Mar.1974)

〇<June.1974>"He Loved Him Madly"
Miles Davis (electric trumpet, organ)
Pete Cosey, Reggie Lucas, Dominique Gaumont (electric guitar) Michael Henderson (bass) Al Foster (drums) James Mtume (percussion)
Dave Liebman (alto flute)

 “Dark Magus”(Mar.1974)の三か月後の録音。
 “Dark Magus”バンドでのDuke Ellingtonの追悼曲。
 厳かなオルガンと、ダルなムードのギターの幻想的なインタープレーが続くこと十数分。
 ようやくビートが定まり、フルートが奏でる淡く悲し気なメロディ。
 16:00から始まるトラペットが静かに奏でる追悼のメロディ。
 言葉になるような、ならないような、悲しみが滲み出すような音。
 黙祷。

〇<Oct. 1974>"Maiysha"、"Mtume"
Miles Davis (electric trumpet, organ)
Pete Cosey, Reggie Lucas, Dominique Gaumont (electric guitar) Michael Henderson (bass) Al Foster (drums) James Mtume (percussion)
Sonny Fortune (flute)

 “Dark Magus” (Mar.1974)、“Agharta” (Feb.1.1975)の間の録音。
 "Maiysha"は“Agharta”にも収められていたオシャレなラテン風味AOR風の曲。
 今でいうところのレアグルーヴ風。
 これが硬派なMiles作曲というのがいまだに今一つピンときません。
 Miles御自らのオルガン、激烈JimiHenギター陣、フルートもちょっと戸惑い気味かな?
 ”Agharta”でのリズムギターとフルートはいかにもそれらしくやりきっていましたが・・・
 トランペットもあまりにも聞き慣れない展開なので、聞いているこちら側が照れてしまいます。
 中盤から我慢しきれずか、少しだけ激烈系が混ざってくるのもご愛嬌。
 さらに中盤の一部に後のStuff、ベースがGordon Edwardsみたいなグルーヴを出してて・・・ 
 ・・・とか含めて聞いていて思わず顔がほころんでしまうのはマニアだけ?
 そんなこんなで演奏は少々パンクなAORといったムードですが、とても素敵な曲です。

  

 "Mtume"はポリリズミックな“On The Corner” (Jun.1972)風。
 ファンキーで複雑なビートと、エスニック風メロディ、電子音が入り混じる、不思議なポリリズミック・ファンキー・ポップといった面持ち。
 Al Foster のドラムがポリリズムの中にいい感じで据わるようになってきました。
 "Billy Preston" "Calypso Frelimo"と同様に完璧でしょう。
 途中で高速なシャッフルに移行する瞬間などは、この人ならではのカッコよさ、疾走感。 
 MilesがAl Fosterにこだわってやりたかったことは、この曲のような演奏なのかもしれません。 
 遠くで音が鳴っているイメージは、新しい時代の”In a Silent Way” (Feb.1969)といった雰囲気も無きにしも非ず。
 このセッションからすれば、この種のポップテイストとポリリズミックアプローチを混ぜ合わせて、さらに粘って跳ねるファンキーな色合いにして、カッコいいやつができないか?と模索していたように思えます。
 深刻、激烈な“Dark Magus”的ではない何か。 
 Jimi Hendrix風ではなく、Santanaをもっともっとファンキーにポリリズミックして、さらに疾走するような音。
 もし、“Agharta”、"Pangaea”以降の長期休養がなかったら?
 想像、妄想は深まるばかり・・・・・・

Agharta”、"Pangaea” (Feb.1.1975)


posted by H.A.