“Dark Magus”(Mar.1974) Miles Davis
Miles Davis (electric trumpet with wah-wah, organ)
Pete Cosey (electric guitar) Reggie Lucas (electric guitar) Dominique Gaumont (electric guitar)
Michael Henderson (electric bass) Al Foster (drums) James Mtume (percussion)
Azar Lawrence (tenor sax) Dave Liebman (soprano, tenor sax)

Dark Magus
Miles Davis
Music on CD
マイルス デイビス


 Miles Davis、“In Concert”(Sep.1972) 以来のアルバム、ライブ録音。 
 間に“Live in Stockholm 1973”<DVD> (Oct.27,1973)、“Stadthalle, Vienna 1973” <DVD> (Nov.3,1973)といった映像、他にもブートレッグなどはたくさんありそうでますが、公式音源としては一年半ぶり。
 但し、お蔵入りになり、発表されたのは1977年日本限定とのこと。 
 “On The Corner”(Jun.1972)的な複雑なビートではなく、“In Concert”(Sep.1972)で中心だったシンプルなファンク~ロック、キーボードを排して、ディストーションを掛け、ワウを多用するギター中心の音作りへ移行。
 パーカッションは効いていますが、ビート感はほどほどシンプル。
 が、過去にはなかった感じの強烈な疾走感。
 Key PersonはドラムのAl Foster。
 なんでも叩けて、複雑なビートを出せたジャズドラマーJack DeJohnetteに対して、細かいことはさておいて、ハイハットをバシャバシャバシャバシャ、ひたすら鳴らし続けながら、とにかく突っ走るAl Foster。
 Milesがどこかで言っていた「白人のようにぶっ叩く」ことを、あまりやらなかったJack DeJohnetteに対して、ぶっ叩き突っ走るAl Foster。
 好みはさておき、大転換。
 前作“In Concert”(Sep.1972)をどういったイメージで作ろうとしていたのかはわかりませんが、そのアルバムから、本作の音の予見は明確に出ていました。
 動きまくるベース、ワウを掛けたギターのカッティングと一体になって突っ走るバンド。 
 さらにサックスもリードギターも突っ走り型。
 一丸となって突っ走るバンド、疾走するファンクビートでのハードなインプロビゼーションミュージックが出来上がりました。

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 冒頭から凄まじい疾走感。
 疾走するビートを背景にして、ワウを掛けたトランペット、サックス、グショグショロックギターが突っ走りまくり。
 強烈です。
 その流れから時折突入する、激烈、混沌の世界もカッコいい。
 Bitches Brewバンドの混沌は何かねっとりした狂気混じりの印象でしたが、こちらの混沌はどことなくクール。
 これも、混沌になってもフリーにはならず、定型ビートを出しまくるドラム、ベースによる印象が大きいのでしょう。
 概ね10数分でビートのパターンを変え、方向を変えながら進むバンド。
 軽快だったり、ヘビーだったり、沈痛なバラード風になったり、激烈疾走になったり・・・
 楽曲の型はあるのでしょうが、その場の流れでビート、コードをフレキシブルに変更していくスタイルの即興演奏なのでしょう。
 長尺な演奏が続きます。
 あたかも巨大魚の群れが、時にはスピードを上げ、時には留まるように、うねりながら悠々と泳いでいるようなイメージ。
 ワウを掛けてサイケに突っ走るMiilesに、激情を発しながら突っ走るDave Liebman。
 テナーサックスの響きにちょっとだけノスタルジックなジャズのムードを感じる場面もありますが、ハイテンションなソプラノサックス、ズルズルグチョグチョのJimi Hendrixをさらに激しくしたようなギターが寛ぐことを許してくれません。
 ヘビーなミディアムテンポのファンク、ラテン基調の高速でフリーな演奏、エスニックで妖しい演奏などもはさみながら、終盤は再び一丸となって疾走するバンド。
 ハイテンションな音の塊が、次から次へと、これでもかこれでもかと押し寄せてきます。
 終盤は怒涛のポリリズム曲"Calypso Frelimo"、"Ife"ときて、締めはJimi Hendrix風のヘビーなリフから、徐々に熱を冷ますようなパーカッションのソロ。
 お疲れ様でした。

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 本作、完成度の高い素晴らしい演奏だと思うのですが、しばらくお蔵に入ってMiles休養期の1977年のリリース。
 “Big Fun”(Nov.1969-Jun.1972)、“Get Up with It”(May.1970-Oct.1974)、“Agharta”よりも後。
 Miles自身、あるいはスタッフは何か気に入らないところがあったのでしょう。
 大きな瑕疵はなさそうだし、先進的に思えるし、モダンジャズファンからはそっぽを向かれるでしょうが、ロックファンには受けそうです。
 おりしも“Blow by Blow” (1975) Jeff Beckなど、ロックギターフュージョンが人気な時代。
 それでも本作をリリースせず、また、逆にスタジオ録音には、本作的な激烈疾走ファンクはありません。
 素直に考えると、本作は1974年前後のMilesが世に問いたい音では無かったのでしょう。
 ではMilesは何をやりたかったのか?
 本作と“Get Up with It”に収録された半年前の録音の大名演"Calypso Frelimo"<Sep. 1973>を比べて、勝手ながら妙に納得。
 本作のバージョン、ポリリズミック感はさておき、ファンキーさがあまり出ていなくて、 ヘビーさ、激しさ、疾走感が前面に出ているように感じます。
 おまけにフェイドアウト。
 Al Fosterのドラム、ハイハットが均等に鳴りまくり、叩きまくっているもんね。
 諸々を鑑みると、やりたかったのはヘビーな激烈疾走ファンクではなく、ファンキーでポリリズミックな音。
 スタジオ録音では満足するものが出来たが、ライブになるとちょっと・・・の“In Concert”(Sep.1972)と同じ状態だった?と推察します。
 ブートレッグを聞けばまた違う感想になるかもしれませんが。
 ・・・とかなんとか、そんな妄想はさておいて、このあたりのアルバム、どれもぶっ飛んでいます。
 その中でも一番激烈なのは、本作“Dark Magus” (Mar.1974)だと思います。

 


posted by H.A.