“Titok” (2015) Ferenc Snetberger
Ferenc Snetberger (guitar)
Anders Jormin (bass) Joey Baron (drums)
ECMでの前作はソロギターでの“In Concert” (2013)、その前には同じくドイツのレーベルEnjaから本作と同じくトリオでの“NOMAD” (2005)などがあります。
予想に違わない静謐な音。
数曲がフリーインプロビゼーションとも思しき抽象的な演奏、他はほのかなエキゾチシズムが漂う寂寥感の強いメロディ。
明確な楽曲でバンド全体が疾走する場面も多かった“NOMAD”に対して、淡い色合いの空気感、静かに音が進む、いかにもECMな音の流れ。
冒頭から二曲はフリーインプロビゼーション的な演奏。
予想外の方向にあちこちに飛び回るギター。
ベースの動きが方向性を示しているようで、その通りには流れていかない音、あるいはギターの動きにバンドが同調すると見せて、突然終わる音楽・・・
変幻自在、予測不可能。
が、三曲目以降は哀愁のメロディの連続、静かな音と相まって強い寂寥感を帯びた音の流れ。
この種の音楽が最も得意であろうAnders Jorminが本領発揮。
フリーテンポであれ、スローテンポであれ、抽象的な音の流れであれ、何であれ、静かに穏やかに続くグルーヴ。
ソロではタメと疾走、高音と重低音が交錯する、沈むような浮遊するような不思議な感覚のメロディと躍動感のあるビート。
シンバルの残響音だけが残る静謐な空間に重低音だけが響く場面がしばしば。
音数が決して多いタイプではないだけに、かえって凄みを感じます。
バッキングにしろソロにしろ、空間をしっかり開けてくるから、後続の高速フレーズがカッコいいし、スローテンポでもグルーヴが出るんでしょうかね?
決して派手ではありませんが、全編凄い演奏です。
リーダーのギターは勢いで弾き切るのではなく、一音一音模索するような丁寧な演奏。
ジプシー系の音楽がベースなのだろうと思いますが、悲しげで儚げな音使い。
ECMのお約束、全編ルバートでのスローバラードっぽい演奏も中盤に収められています。
“NOMAD”ではド派手なArild Andersenのベースが全体をけん引し、ギターがそのうえで自在に動く印象でしたが、本作は三者が一体になって、静かでなんとも言えない深い含蓄のある音場を作っている感じ。
わかりやすいのはそちらかもしれませんが、幻想的な色合いが強く、深みを感じるのははこちら。
どちらがいいかはお好み次第。
私はこちらに一票。
どちらも名作だと思います。
posted by H.A.