吉祥寺JazzSyndicate

 吉祥寺ジャズシンジケートは、東京、吉祥寺の某Barに集まるJazzファンのゆるーいコミュニティです。  コンテンポラリーJazzを中心に、音楽、アート、アニメ、カフェ、バー、面白グッズ、などなど、わがままに、気まぐれに、無責任に発信します。

2017年02月

【Disc Review】“Songs and Lullabies” (2002) Fred Hersch & Norma Winstone

“Songs and Lullabies” (2002) Fred Hersch & Norma Winstone
Fred Hersch (Piano) Norma Winstone (Voices)
Gary Burton (Vibraphone)
 
ノーマ ウインストン
フレッド ハーシュ

 Fred Hersch とNorma WinstoneのDuo作品。
 一部でGary Burtonも参加します。
 少し前の録音になる“Like Song Like Weather” (1998) は夫君のJohn Taylorとのジャズ曲集でしたが、本作は全てFred Herschのオリジナル曲。
 どういった経緯の企画なのかはわかりませんが、普通に考えればFred Hersch が自身の曲をNorma Winstoneに歌って欲しかった、といったところなのでしょうか。
 確かに彼女のボイスのイメージに合った、少し沈んだ感じのセンチメンタリズム、甘すぎないしっとりしたメロディ揃い。
 上品でクセのない美しいピアノ、John Taylorと比べて柔らかくて軽快、明るい感じはアメリカン故でしょうか。
背景のイメージが少々変わってもNorma Winstoneはマイペース。
少し沈みながらのしっとりとしたボイス。
 こちらも相性はバッチリ、というか、明と暗、陽と陰のバランスはこちらの方が良いのかもしれません。
 暗、陰、妖しいムードが少々足らない・・・なんてのはマニアな嗜好なのでしょう。
 この後しばらくして、Norma Winstone はECMへ復帰し、“Distances” (2007)から究極の癒しの音の名作を連発。
 Azimuthよりもしっとりとしたそれらの空気感は、このあたりの作品が流れを作ったのかもしれません。
 音も感じもさることながら、ジャケットまで“Like Song Like Weather”と似ています。
 が、雲が多くて少々暗いそちらに対して、本作は青空も見える明るい夕暮れ。
 そんな絵の違い、そのままの音です。




posted by H.A.


【Disc Review】“Like Song Like Weather” (1998) Norma Winstone & John Taylor

“Like Song Like Weather” (1998) Norma Winstone & John Taylor
Norma Winstone (Voice) John Taylor (Piano)
 
Like Song Like Weather
Norma Winstone
Enodoc
1998-06-29
ノーマ ウインストン
ジョン テイラー


 Norma Winstone, John Taylor夫妻のDuo作品。
 アバンギャルドではないけど、ちょっと普通のジャズからは距離があるイメージのお二人ですが、本作は紛うことなきジャズです。
 半数がジャズスタンダード、残りが盟友Kenny Wheeler, Tony Coe, Carla Bley, Steve Swallowなどの曲者ジャズの皆さま方の楽曲。
 素直でアメリカンなジャズにはなりません。
 が、John Taylorのジャズピアニストぶりは、まあ普通に想像できるとしても、Norma Winstoneが意外にも素直にジャズを歌っています。
 ジャズ的な歌唱なのかどうかはわかりませんが、しっとりとした質感がピッタリはまっています。
 John Taylorの硬質で透明度の高い美しい音、クラシックが香る格調高いピアノと、上品でしっとりとしたボイスの組み合わせは極上。
 しっとり、と書いてしまうと湿った感じのニュアンスですが、乾いているような感じもあって、微妙な湿度感のボイス。
 さらに、ハスキーなのか澄んでいるのか、太いのか細いのか、高いのか低いのか・・・何とも言えない不思議なボイス。
 クールでどこか達観した感じ、寂寥感も強いのですが、これまた暖かな感じもあって・・・
 そんな微妙なボイスで少し沈み込む感じで歌われるジャズ。
 Kenny Wheelerが入ればそのままAzimuthになるのですが、その屈折した感じは薄目、なんだかんだで落ち着いた静かなジャズ。
 後の“Songs and Lullabies” (2002) Fred Hersch & Norma Winstoneと比べると、同じようでこちらの方が沈んだ感じ、ピアノも少々とんがった感じで、それがありきたりの音に留まらないカッコよさ。
 “Azimuth” (Mar.1977) から二十余年、近作の“How It Was Then... Never Again” (1995) Azimuthでは落ち着いた感もありましたが、さらに大人になったような音。
が、枯れた雰囲気はありません。
 “How It Was Then... Never Again”は美しい夜景のジャケットでしたが、本作はこれまたとても美しい夕暮れ。
 そんな穏やかで落ち着いた気分に浸れる、上質、極めつけの一作。
 ほんのちょっとだけ普通と違うような感じなのがいい感じです。




posted by H.A.

【Disc Review】“Live At Roccella Jonica” (1984) Norma Winstone, Kenny Wheeler, Paolo Fresu, John Taylor, Paolo Damiani, Tony Oxley

“Live At Roccella Jonica” (1984) Norma Winstone, Kenny Wheeler, Paolo Fresu, John Taylor, Paolo Damiani, Tony Oxley
Norma Winstone (Voice)
Kenny Wheeler (Trumpet/ Flugelhorn) Paolo Fresu (Trumpet/ Flugelhorn) John Taylor (Piano) Paolo Damiani (Bass) Tony Oxley (Percussion)
 
LIVE AT ROCCELLA JONICA
PAOLO FRESU/JOHN TAYLOR/KENNY WHEEL
SPLASC(H)
2009-04-01


 John Taylor 率いるイギリスの名トリオAzimuth にドラムとベースが入り、若き日のPaolo Fresuが加わる豪華メンバーでのライブ録音。
 “Double, Double You” (1983) Kenny Wheeler、“Azimuth '85” (1985)、に近い時期のステージでしょう。
 Paolo Fresuの参加がちょっと場違いな感じもするのですが、イタリアのフェスティバルでの録音のようで、同じくイタリアのPaolo Damianiと二人でイギリス勢をお迎えするホスト役といったところでしょうか。
 Paolo Fresuは、まだリーダー作を出していない時期のようですが、現在まで続く端正なトランペット。
 が、激しい連中に囲まれると・・・
 楽曲はPaolo Damianiが二曲にKenny Wheelerが二曲。
 楽曲の選択、ベースドラムを交えたハイテンションなインプロビゼーションなど、Azimuthというよりも、Kenny Wheelerのアルバムのイメージが強い感じでしょう。
 Kenny Wheelerの勇壮でビヒャヒャーなトランペットと、John Taylorの激しくハイテンションなジャズピアノが目立ちます。
 Paolo Damianiはアバンギャルド系もやる人のようで、それ混じりの楽曲も。
 そんな色合いにはNorma Winstoneの妖しいスキャットがピッタリはまります。
 あの時代のハイテンションで激しく妖しいヨーロピアンジャズの一場面。
 これでバンドを作っていれば結構な名バンドになったんだろうなあ。
 おっと、Paolo Fresuの居場所が・・・




posted by H.A.


【Disc Review】“In Full View” (2012) Julia Hülsmann Quartet

“In Full View” (2012) Julia Hülsmann Quartet
Julia Hülsmann (piano)
Marc Muellbauer (double-bass) Heinrich Köbberling (drums)
Tom Arthurs (Trumpet, Flugelhorn)

In Full View
Julia Quartet Hulsmann
Ecm Records
2013-06-11
ジュリア・ハルスマン




 ドイツのピアニストJulia Hülsmann、イギリス出身のトランペッターを迎えたカルテットでのアルバム。
 ここまでのECMでのトリオ作品“The End Of A Summer” (Mar.2008)、“Imprint” (2010)と同様に、オーソドックスなようで少しズレた感じの不思議感はそのままに、シャープな躍動感があるジャズ。
 ピアノトリオのメンバーは不動ですが、ここまでの諸作と雰囲気が違うのはトランペットがほぼ全編で前面に出ていることで音の輪郭がシャープになっていること、半数ぐらいの楽曲をベースのMarc Muellbauerが提供していることもあるかもしれません。
 トランペットはクールなスタイリッシュ系。
 饒舌にして端正。
 録音の具合もありそうですが、少し線が細めの音、流麗にまとめていくタイプ。
 Miles Davisとは違うし、Paolo Fresu的であるけどそれとも違う、オーソドックスなようで個性的でカッコいい演奏の連続。
 リーダーは“Fasıl” (Mar.2008)の儚い感じのピアノではなく、トリオ諸作のように流麗で穏やかなピアノ、ECMのJulia Hülsmann。
 キリッとしたトランぺットにふわりとしたピアノ。
 フュリューゲールホーンになるとどちらもフワフワとした心地よい音。
 相性はバッチリ。
 分厚くない音の空間に、ホーンがキリッと立ち上がったり、フワフワと漂ったり、心地よい音。
 オーソドックスなようで、淡々と進んでいるようで、少しひねったメロディ、展開はこのバンドの色合い。
 ちょっと沈んだイメージの淡々とした演奏が続きます。
 それでも暗くはならない、あくまでクールな質感。
 さらにECMでは珍しく、素直な4ビートも含めて普通にジャズの香りがたっぷりと漂う音。
 何曲かのアップテンポ曲では上品なグルーヴ、うるさくはならないほどよいテンションのインプロビゼーション。
 もちろんECMなのでオーソドックではない妖しさとヨーロッパの香り、汗が出て来ない上品なテイスト。
 クールでスタイリッシュなヨーロピアン・コンテンポラリージャズ。
 オシャレな感じ・・・には、ちょっとひねくれているのかもしれません。
 本作のMVP?トランペットのTom ArthursもそろそろECMから来るかな?・・・ちょっと時間が経ち過ぎか・・・


 

posted by H.A.

【Disc Review】“Imprint” (2010) Julia Hülsmann Trio

“Imprint” (2010) Julia Hülsmann Trio
Julia Hülsmann (piano)
Marc Muellbauer (double-bass) Heinrich Köbberling (drums)

Imprint
Julia Trio Hulsmann
Ecm Records
2011-03-29
 ジュリア・ハルスマン

 Julia Hülsmann、ECMでのトリオでは“The End Of A Summer” (Mar.2008)続く同じメンバーでの第二弾。
Fasıl” (Mar.2008) Marc Sinanも入れるならば第三弾。
 ECM、特殊なレーベルなので、合わせるのに時間がかかり、第一作より第二作がカッコいい・・・の法則があるように思っているのですが、この人の場合はどうでしょう?
 結論からすれば、前作と同様の色合い。
 明るき元気な・・・ではなく、いかにもECMな静かで妖しいジャズ。
 ビート感が強めになり、エキサイティング系な場面も増えてきていますが、不思議さは増幅しているかもしれません。
 予想したところに流れていかないメロディ。
 スケールやオーソドックスな流れから意図的にはずしているんだろうなあと思う展開。
 なんか変だなあ・・・と思っていると、気が付くと美しいピアノソロ、ベースソロに場面は変わっていて、カッコいいじゃん・・・ってな感じ。
 決して分厚くはない音、各楽器の粒立ちがよくて、美しいピアノとベース、ドラムが穏やかに絡み合う光景が見えるような音。
 各人のソロに入ると、なぜかテーマのメロディ、コード進行の不思議感は消えています。
 不思議系なのに難解さや気持ち悪さは一切なく、穏やかで優し気なのもこれまた不思議。
 メロディだけでなく、ビートもそんな感じ。
 複雑なのかもしれないけども、サラリとした上品なグルーヴが常時流れています。
 穏やかな迷宮・・・ってな感じで、もしそれを狙っているとすれば大成功。
 キツイ音がないので繰り返し聞けてしまうのもミソかも。
 なんだろなあ?・・・とか思いながら、ついつい繰り返して聞いてしまうのも前作に同じ。
 ECMマジックならぬ、Julia Hülsmannマジックにかかってしまっているのかもしれません。
 淡い色合いの前作“The End Of A Summer” (Mar.2008)、ビートも効いた本作、さらにシャープなのが“In Full View” (2012)、ってな感じかもしれません。
 いずれも不思議なECMのJulia Hülsmann。






【Disc Review】“Fasıl” (Mar.2008) Marc Sinan, Julia Hülsmann

“Fasıl” (Mar.2008) Marc Sinan, Julia Hülsmann
Marc Sinan (guitar) Julia Hülsmann (piano)
Marc Muellbauer (double-bass) Heinrich Köbberling (drums, percussion)
Yelena Kuljic (vocals) Lena Thies (viola)
 
Fasil
Marc Sinan
ECM
2009-03-24
マーク シナン 
ジュリア・ハルスマン 


 トルコ、アルメニアをルーツに持つギタリストMarc SinanとドイツのピアニストJulia Hülsmannとの双頭?リーダーアルバム。
 いかにもECM、無国籍でとても静かな妖しい音、女性ボーカルをフィーチャーしたコンテンポラリージャズ作品。
 ギターのMarc Sinanは、アラビアンなのか、スパニッシュなのか、クラシックなのか、なんとも形容しがたい無国籍な質感の寂寥感の強い音。
 あまり前面には出ませんが、時折の中近東的エキゾチックな音が印象的。
 もう一人のリーダー、Julia HülsmannはECM、ACTなどにたくさんの録音のある穏やかなピアニスト、ECMでは二作目。
 ピアノトリオでの“The End Of A Summer” (Mar.2008)と同月の録音。
 曲者ぞろいのECMにあっては癖や妖しさのない珍しいタイプだと思うのですが、本作は他の諸作と少し違います。
 いつものピアノトリオにエキゾチックなアコースティックギター、儚いボイス、ヴィオラが加わって寂寥感の塊のような音。
 楽曲はJulia Hülsmannのオリジナル曲を中心として、メンバー共作の即興的、中近東的な演奏、ほぼ全編がバラード。
 彼女のイメージとはちょっと異なる、少々暗め、寂し気で緊張感も高いメロディ。
 多くの楽曲でフィーチャーされるYelena KuljicはいかにもECMな儚い声。
 “Somewhere Called Home” (1986) Norma Winstone、“So I Write” (1990) Sidsel Endresen、あるいは“Celestial Circle” (2010) Marilyn MazurのJosefine Cronholmのような、乾いた感じの寂寥感。
 加えて怖いくらいの切迫感。
 エキゾチックな感じもあるのですが、ドイツの人のようです。
 そのお三方を中心に展開される強烈な寂寥感、とても静かな無国籍ワールドミュージック的なジャズ。 
 何曲かにフィーチャーされるヴィオラも寂寥感を助長する役回り。
 Julia Hülsmannのピアノは相変わらず穏やかな感じで、強い自己主張はしませんが、要所のスケールアウト、舞い落ちるような高音が美しくて、儚い音。
 ACTでの“Scattering Poems” (2001,2002)のスムースでポップな人とは別人みたいだなあ・・・
 すっかりECMのJulia Hülsmann・・・
 というか、典型的なECM、エキゾチシズム、寂寥感、妖しさが強烈な、静かなコンテンポラリージャズ。

 大名作“Vespers”(2010) Iro Haarlaと似た感じのとても素敵なジャケット。
 あちらは北欧的な航空写真ですが、こちらはどこの国か分からない、夜の曇り空、少し沈んだ感じの美しい航空写真。
 そのポートレートそのままの音です。
 
 
 

posted by H.A.


【Disc Review】“The End Of A Summer” (Mar.2008) Julia Hülsmann Trio

“The End Of A Summer” (Mar.2008) Julia Hülsmann Trio
Julia Hülsmann (piano)
Marc Muellbauer (double-bass) Heinrich Köbberling (drums)
 
End of a Summer (Ocrd)
Julia Hulsmann
Ecm Records
2008-11-24
 ジュリア・ハルスマン

 ドイツのピアニストJulia Hülsmann、ECMでの第一作。
 しっとりしたムードの静かなジャズ。
 元気で明るいヨーロピアン・コンテンポラリージャズのかつての作品“Scattering Poems” (2001,2002)と同じトリオですが、さすがにECM、そうはなりません。
 冒頭から気怠い感じのメロディ。
 オーソドックスなようで何かズレたような不思議な感じのコード進行と、微妙にスケールアウトする静かなピアノの微妙な組み合わせの妙。
 疾走、グルーヴもできるはずなのに、あくまで穏やかに音を置いておくようなピアノ。
 全編そんな感じの淡くて不思議なメロディ、ゆったりとしたテンポの淡々とした音の流れが続きます。
 どの曲もコンパクトにまとめられていて、冒険らしい感じ、攻撃的な場面はありません。
 甘いメロディが見え隠れする場面は多いのですが、綿々としたバラードや妖しいムードの展開もありません。
 中盤でやっとジャンピーな演奏が出てきますが、あくまで上品に抑制された感じ、全体を見ても二曲だけ。
 ECMの真骨頂、ルバートでのスローバラードもあるかな?と思いつつも、それらしいのは中盤の短い“Sepia”一曲のみ・・・
 ・・・ってな感じで、淡くて曖昧な感じで刺激もない音なのですが、つまらないかといえばそうでもなく、繊細な感じ、全編通じて普通のようで少しひねられた感じが奥深そうでついつい聞き入ってしまう不思議なアルバム。
 本作はさらに沈んだ寂寥感の強いワールドミュージック的ジャズ“Fasıl” (Mar.2008) Marc Sinan, Julia Hülsmannと同月のセッション。
 本作もECMマジックに掛かったJulia Hülsmann・・・なのかな?

 別のレーベルからECMに移籍してきた人の一作目は地味になってしまうのが近年まで続く傾向のように思います。
 Stefano Bollani然り、Marcin Wasilewski然り、Tigran Hamasyan然り、Avishai Cohen然り、Wolfgang Muthspiel然り、・・・Aaron Parksなんて・・・
 この人も例に漏れず。
 以降の“Fasıl” (Mar.2008)、“Imprint” (2010)、“In Full View” (2012)で、以前とは違う方向で本領発揮といったところでしょうか。
 結果論ですが、わかるような気もします。
 いずれにしても“Scattering Poems” (2001,2002)の明るく元気なJulia Hülsmannには戻らないのでしょうね。

 


posted by H.A.  


【Disc Review】“Scattering Poems” (2001,2002) Julia Hülsmann Trio/Rebekka Bakken

“Scattering Poems” (2001,2002) Julia Hülsmann Trio/Rebekka Bakken
Julia Hülsmann (Piano)
Marc Muellbauer (Bass) Heinrich Köbberling, Rainer Winch (Drums)
Rebekka Bakken (Vocals)
 
SCATTERING POEMS
Julia H lsmann
Act Music + Vision

レベッカ・バッケン ジュリア・ハルスマン

 ドイツのピアニストJulia Hülsmann、ノルウェーのボーカリストを迎えたコンテンポラリージャズ作品。
 Julia Hülsmann、今はECM所属ですが本作は同じくドイツのACTから。
 後のECMでの諸作“The End Of A Summer” (Mar.2008)などでは抑制された穏やかなピアノ、ひねったコード展開の楽曲が特徴的なように思うのですが、ここでは躍動感が勝る演奏。
 上品で流麗な感じはこのからの色合いですが、ジャンピーなナンバー、エキサイティング系のソロまでカッコよく決めています。
 クラシックの香りと時折これまた上品にスケールアウトするヨーロピアンコンテンポラリージャズの教科書のようなピアノ。
 強烈な癖が無い分、スムース、さらにはしなやかなグルーヴ感と疾走感。
 考えてみれば完璧なピアニスト、欠点は癖や妖しさが無いことぐらい。
 ボーカルのRebekka Bakkenはジャズっぽくありませんが、極めて透明度の高い声と、上品でサラリしているようで、強いビブラートのインパクトの強い歌。
 さらに上品なグルーヴを出すドラム、ベースと相まって、とても洗練された明るいヨーロピアンジャズ。
 楽曲はJulia Hülsmannのオリジナル曲が中心、後のひねった感じはあまりなく、キャッチーでポップささえも感じるメロディ、音作り。
 基本的にはアコースティックなジャズですが、オーバーダビングされたコーラスの場面などとてもポップでいい感じ。
 さわやかだし、グルーヴはあるし、明るいし、上品だし、とてもいい感じのヨーロピアンコンテンポラリージャズ、ボーカル作品。
 この人、こっちのレーベルの方が合っていたんじゃないのかなあ・・・?
 ・・・と、思ったり、思わなかったり。




posted by H.A.  

【Disc Review】“Ante Lucem For Symphony Orchestra And Jazz Quintet” (2012) Iro Haarla

“Ante Lucem For Symphony Orchestra And Jazz Quintet” (2012) Iro Haarla
Iro Haarla (piano, harp) 
Hayden Powell (trumpet) Trygve Seim (soprano, tenor saxophones) Ulf Krokfors (double bass) Mika Kallio (drums, percussion) 
Norrlands Operans Symfoniorkester, Jukka lissakkila (conductor)
 フィンランドの女性ピアニストIro Haarla、オーケストラを迎えた作品。
 2016年発表ですが、録音は少し前の2012年。
 ベースとなるコンボの編成は、“Northbound” (2004), “Vespers” (2010)と同じですが、トランペッター、ドラマーが変わっています。
 新しいメンバーもノルウェー、フィンランドの北欧陣。
 前二作はルバートでのスローバラードを中心とした素晴らしい作品でしたが、本作も同じ。
 今時珍しい十数分の長尺な楽曲、四曲。
 もともとアンサンブル中心の人、ジャズwith オーケストラではなく、クラシック的な作品を作りにいったイメージなのでしょうし、全編そのテイストですが、タイトル通り、要所でIro Haarlaのジャズ的なビート、インプロビゼーションが展開される構成。
 ルバートで伸び縮みするビート感はクラシックのオーケストラならお手のモノ。
 とても優雅なのは前二作と同様ですが、さらに豪華。

 冒頭はハープの響き。
 漂うようなストリングスと穏やかな表情のサックスのソロから、激しいオーケストラのアンサンブルへ。
 さらにはストリングスが主導する、いまにも止まりそうな、とても優雅な音の流れ。
 いつものジャズコンボとオーケストラの違いはあれど、いかにもIro Haarlaな音で第一部は幕。
 第二部はベース(チェロ?)アルコのソロをフィーチャーした重厚なスタート。
 漂うようなピアノから、勇壮なオーケストラと妖しいサックス、トランペットが交錯するフリージャズ的な展開。
 長くはない混沌時間を経て音は整い、ドラマチックなエンディング。
 第三部はジャズ的な演奏。
 無音の空間に響く、強烈な寂寥感のサックスの独奏からスタートし、ジャズコンボを中心としたルバートでのスローバラード、Iro Haarlaの真骨頂。
 ピアノ、サックス、トランペットの今にも止まりそうなゆったりとしたインプロビゼーションとストリングス、オーケストラの絡み合い。
 ジャズなベースとドラムのDuo演奏を経て、トランペットをフィーチャーしたコンボでのフリージャズ的な演奏へと続きます。
 締めはピアノ、サックスが前面に出るこれまたドラマチックな展開で幕。
 第四部、最終章はサックスとオーケストラによる幻想的なスローバラードから。
 とてもセンチメンタルなメロディ。
 中盤からシンバルレガート、初めてジャズなビートが登場、緊張感が高くグルーヴィーなジャズ演奏を経て、最後は音量を上げてのオーケストラによる超スローバラード。
 儚いメロディとともに幕。
 ドラマチックです。
 
 クラシック音楽としての善し悪しを判断する感覚は持っていませんが、とてもドラマチックで素敵な音、心地よく聞ける素晴らしい音楽たと思います。
 コンボでの前作“Vespers” (2010)のようにわかりやすいメロディ、ジャジーな演奏が常時流れているわけではありませんが、その分とても上品でドラマチック。
 寂寥感と暖かなムードが交錯する、ルバートのスローバラードを中心とした、いかにもなIro Haarlaの世界。
 パラードと少々のスパイスになっているフリーな展開の組み合わせがちょうどいいバランス。
 全編通じてこれまたとても優雅です。
 タイトルは「夜明け前」。
 そんな音です。




posted by H.A.


【Disc Review】“Vespers” (2010) Iro Haarla Quintet

“Vespers” (2010) Iro Haarla Quintet
Iro Haarla (Piano, Harp)
Mathias Eick (Trumpet) Trygve Seim (Tenor, Soprano Saxophone) Ulf Krokfors   (Double-Bass) Jon Christensen (Drums)
 
Vespers
Iro Quintet Haarla
Ecm Records
2011-04-12
イロ・ハールラ

 フィンランドの女性ピアニストIro Haarla、リーダー作としてはECM第二作。たぶん。
 大名作。
 前作“Northbound” (2004)から、かなり時間が経っていますが、メンバーは全く同じ。
 本作も前作と同様、ほぼ全編ルバートでのスローバラード。
 強い浮遊感のとても優雅な演奏のオンパレード、ほどほどの妖しさ、寂寥感は前作そのままですが、さらに、もっと穏やかで優し気。
 懐かし気な感じ、郷愁感が強くなり、逆に沈痛系の場面は少なくなっているように思います。 
 優雅なピアノとハープ、強い寂寥感を発するホーンの浮遊感の強いアンサンブルの絡み合い。
 誰も激しい音や性急なフレーズを出さない中で、ゆったりとした上質な時間が過ぎていきます。
 前作を聞く限り、淡い色合い、甘いメロディやキャッチーさをあまり前面に出さないタイプかと思っていましたが、本作にはわかりやすいメロディの楽曲が何曲も収められています。
 冒頭の”A Port on a Distant Shore”、最後の”Adieu”など、タイトル通りとても悲し気、かつハードボイルド、それでいてふわりとした感じが残るとても素敵なメロディ。
 それらを今にも止まりそうなスローのルバートで演奏するのだから・・・・・・
 “Satoyama”なんて曲もあり、トランペットが尺八風に、ハープが琴風に響くとても典雅な演奏。
 その他諸々、素敵なメロディ、演奏が揃っています。
 各曲自体がドラマチックな構成になっていますが、アルバム全体のコンセプトも何らかのストーリー性をもった構成なのでしょう。
 最初から最後まで通して聞くと何か見えてきそうな、想像力を掻き立てる音作り。
 それでいてどのトラックから再生しても、とても素敵な世界が広がります。 
 本作も前作に引き続き、とても素敵な北欧旅情、トリップミュージックです。
 空気感はひんやりとしていながら、なぜか穏やかで優し気。
 まさにジャケットのような音。
 きっとスカンジナビアの空気なのでしょう。 




posted by H.A.


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