f0321768_02401888
墟に共感することは人間の業(ごう)を肯定することに等しい。

だがそのことに気づいている人間は意外と少ない。
by S.I.


 
 若い頃、ジャズを聴き始め、ちょっとピアノをかじり始めた私にとってのアイドルや心の師匠は、レッド・ガーランドやウイントン・ケリー、ジョン・ルイス、それにビル・エヴァンス、など等。当時は教本も豊富ではなく、ピアノの先生や教室に通った経験も無いので、レコードを聴きながら耳コピで練習するのみでした。

 むろんセロニアス・モンクの存在は良く知っていたし、アルバムもたくさん買い求めたました。でも、モンクはアイドルではなかった、というか、ピアニストとして目指す存在ではなかった。モンクをコピーして演ってみると、それはあまりにモンクそのもの、モンク以外には聴こえないのです。モンク風に演奏することは、「影響」ではなく、「真似」になってしまう。それほどにモンクの個性は際立ち、異彩を放っている感じでした。

 アイドルではなかったけど、いつも「気になる」存在だったのを覚えています。目指す存在ではなくても、時々聴きたくなり、「どうも不可解な音だなァ」と思いつつも、また聴きたくなる。考えてみると、不思議で奇異な存在でした。

 あれから数十年が経ち、今ではすっかりヨーロピアン・コンテンポラリー派になったしまった私は、ふとコンテンポラリー・ジャズの発芽はいつごろからで、どんなミュージシャンによるものだったのか・・・そんなことを想っている最中、モンクに行き着いたのです。モンクの音楽こそは、バップの時代の中、コンテンポラリーの要素をふんだんに宿していたのでは、と思い始めたのです。

 
 コンテンポラリー・ジャズの演奏にある通常のコードやスケールからOUTする瞬間の美のような要素。モンクはあの時代に既に演っていたのではないか。さらにモンクはたくさんの名曲を残しているけれど、どの曲も、きわめてユニーク。その曲の中にところどころ不可解な音が数多くちりばめられている。

 G・ガーシュインやC・ポーターの曲のように全ての文脈がすっきり展開・解決するメロディとはきわめて違う異質な曲だ。でも、今にして思うと、これが実にカッコいい、というか、これはコンテンポラリーではないか。彼のピアノスタイルはきわめて素朴で、コンテンポラリーのピアニストのように流麗な印象とは程遠い。だから、ちょっと聴くとコンテンポラリーとは異質な感じだけど、その音使いは、まさにOUT OF SCALEではないのか。

 モンクはその風貌から、「ひとくせある人物」という印象、と云ったら失礼かもしれませんが、彼の音には、私がヨーロピアン・コンテンポラリーに感じる「闇」のようなものが含まれていたのかもしれません。多かれ少なかれ誰の心の中にも深い「闇」のようなものがあると思いますが、モンクはその心の闇をひた隠しにはせず、彼の書いた曲や自身の演奏にそのまま映し出したのでは、と思えてならないのです。

 と・・・そこまで考えて、私はハッと思いついたことがあります。

 
 エリントンはどうなんだ、と・・・。デューク・エリントンはビリー・ストレイホーンと共に、数多くの名曲を残しました。エリントンの曲も、あの当時としてはちょっと不可思議なユニークな音がかなり含まれていたように思います。コード進行も奇妙とも思えるような流れの曲もあります。ガーシュインやH・マンシーニが書くような曲とは、やはり一味も二味もう。


 いや待てよ・・・そういえばジョビンはどうなんだ。ボサノバの開祖のひとりA・C・ジョビンの曲のことも思い出しました。彼の曲もとても美しく、チャーミングで愛くるしいまでの名曲がたくさあります。が、その曲の殆どは、どこかにちょっと首をかしげるような音が含まれている。それはほんの半音だけずらしているような印象を受けてしまうのです。

 
 楽譜を見るとオヤッと思うのですが、実際に音を聴くと、これがなんとも云えないジョビン・ワールドを演出する。デザフィナードという彼の名曲は、「調子っぱずれ」という意味ですね。そういえば、あっちこっち半音ずれているような感じがするのだけど、それが実にお洒落でモダンな印象を振りまいている。やはり只者ではない。

 
 若い頃、ただ何気なくモダン・ジャズを聴き続けていた私はあまり気にもせず通り過ぎていたことが、こうして思い返すとそれぞれのミュージシャンたちが音に封じ込めたメッセージは計り知れない要素があったのかもしれません。

 70年代以降に台頭してきたコンテンポラリー・ジャズは、突如として発生したのではなく、モダンやスゥイングの時代から、ジャズという母体に受胎し、脈々と育まれ、やがてひとつのスタイルとして生み落とされたのかもしれない。

 もしかしたら、モンク、エリントン、ジョビン以外にも、多くのミュージシャンが気付かないところで、モダン全盛時代にもささやかな主張をしていたのかもしれない。

 
 コンテンポラリー・ジャズの本質へ迫る私の旅はまだ始まったばかりです・・・




si50posted by S.I.