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実は私、なにを隠そう廃墟マニアなのです。
by S.I.



 「四十にして惑わず」との格言がありますが、私は50才代後半になり、混迷の日々送ることになりました。と云っても、リストラされたわけではありません。あくまで趣味の分野ではあるのですが、それなりに深刻な問題です。

 「五十にして天命を知る」どころか、ますます迷宮の迷い道の路上で、途方にくれている日々です。高校生の頃からジャズを聴き始めました。私の世代では、廻りはカーペンターズやらレッドツエッペリン、むろんビートルズやらが流行ってましたね。つまりは欧米のポップカルチャーが怒涛の勢いで押し寄せていた頃でしょう。そういえば日本のフォーク・ソングもありました。

 孤高の道を歩むつもりもなかったけど、なぜか私の胸にはもっともモダン・ジャズが響いたのです。ピアノも少しかじっていた私にとってのアイドルは、レッド・ガーランドやウイントン・ケリー、それからビル・エバンスやジョン・ルイス。ですからモダン時代の洗礼を受けと云っていいのでしょう。

 あれから40年以上、私はモダンジャズ・ファンでした。むろん70年代あたりからチック・コリアやH.ハンコック、それからキース・ジャレットとか当時新主流派なんて呼ばれる新しい感覚のジャズプレイヤーが続々と登場したのも良く知ってますし、フュージョンとかアシッド・ジャズなんてものが出てきたのも認識はしていました。フリージャズの存在も知っていたのは云うまでもありません。

 ただ、私はあまりそちら側に強い興味を感じなかった、というか意識的に避けてきたのかもしれません。あくまで自分はモダンジャズのファンであり、それこそがジャズ・ファンとしての王道である、なんて信じ込みたかったのでしょう。

 ですが、その信念らしき思い込みがもろくも崩れたのは、ほんの2年ほど前のこと。それはある店との出会いがきっかけでした。

 Foxholeという名のJazzのお店が吉祥寺にできたのです。不運(?)にも、私はこのお店にふらりと入りました。中に入ると、私にとってはなじみの無いサウンドが鳴り響いていました。およそ私の知るジャズとは縁遠いと思われる音楽、それはどうやらコンテンポラリー・ジャズと呼ぶらしい。おそらく私にとってお気に入りの店にはならないだろうと思っていたこのFoxholeになぜか時々足を運ぶようになりました。それはマスターの気さくな人柄に惹かれたのかもしれませんが、そのうち大きなスピーカーから流れてくる異質なサウンドが、徐々に自然と耳から入り胸に響くようになってきたのです。

 そのうち、Foxholeに集まる常連客たちと親しくなり、このような類の音楽のファンと初めて交流が生まれたのです。ほとんどは私より若い人たちで、中には私の息子と言ってもよいくらいの若者たちからコンテンポラリー・ジャズの教えを請うことになり、お勧めのアルバムも続々と入手しました。

 不思議な出会いではあったかもしれませんが、私のジャズ・ライフは大いなる混迷の日々を迎えることになったのです。それは、これまで気がつかなかった美を知った悦楽と、信念がもろくも崩れた絶望。

 ですが、そんな人たちとの出会いこそが、このブログをはじめるきっかけでもあったのです。モダンジャズ・ファンのまま死んで行くべきだったのかもしれませんが、実は本当は私がずっとずっと以前から心の底で求めていたのはこんな音だったのかもしれないと、思えるようになったのです。

 いささか遅きに失したかもしれませんが、私の悦楽と絶望のコンテンポラリージャズ・ライフが始まったのです。モダンジャズではあり得ないOUT OF RULEのサウンドに、なぜこれほど美しさを感じるのか、その理由を探求する旅はまだ幕を開けたばかりなのです。

 それは人間の意識の奥底に潜む不可思議な魍魎を紐解いて行くいばらの道なのかもしれません。


 
"Your Eyes" from ALBUM“CelestialCircle” (2010)
MarilynMazur(percussion) John Taylor (piano) Anders Jormin (bass) Josefine Cronholm (voice)

si50posted by S.I.