吉祥寺JazzSyndicate

 吉祥寺ジャズシンジケートは、東京、吉祥寺の某Barに集まるJazzファンのゆるーいコミュニティです。  コンテンポラリーJazzを中心に、音楽、アート、アニメ、カフェ、バー、面白グッズ、などなど、わがままに、気まぐれに、無責任に発信します。

【Disc Review】“Last Decade” (2022) Benjamin Lackner

“Last Decade” (2022) Benjamin Lackner

Benjamin Lackner (piano)
Jerome Regard (bass) Manu Katche (drum)
Mathias Eick (trumpet)

Last Decade
Lackner, Benjamin / Eick, Mathias / Regard, Jerome
Ecm Records
2022-10-14


 ドイツ出身、アメリカ在住?ピアニストBenjamin Lackner、ECMレコードでの初アルバム。
 トランペットを迎えたワンホーンカルテットでの静かで穏やかなコンテンポラリージャズ。

 リーダーのピアノは繊細で美しい系。
 トランペットはノルウェーの哀愁系。
 ドラムはカラリと明るいビート感が新感覚なフランスの名手Manu Katche、ベースはこれまたフランスから。
 難しい人はいないのに、なぜか不思議系。
 このレーベルなので普通のジャズに落ち着かないのはさもありなんとしても、フリーでもない、不協和音系でもない、陰鬱でも、激しくもない。
 淡い色合いながら十分にメロディアス、終始穏やかな表情で気難しさはなし。
 が、不思議系。

 トランペットの醸し出す哀愁、ドラムとベースの明るさ、ポップさ、やんちゃさが混然としつつ、それらを支えるような、抑え込むような、あくまで控えめな美しいピアノ。
 そんな主従、イニシアティブが判然としない、かといってフリーインプロビゼーションな感じはなく、いわゆる”アンサンブル”とも違う感じ。
 ニュアンスが異なる三者三様が入り混じる、ありそうでないバランス。
 哀感とポップネスと美しさの微妙な綾。
 それが不思議感に繋がっているのでしょうか。

 そして全編を通じた強い浮遊感、淡くて穏やかな表情。
 そられが相まって、とても心地よい音。
 何度か聞いていくと、最初に感じた違和感が薄らぎ、より心地よく、より美しく感じられる音。
 これまた不思議。
 これは深い。




posted by H.A.


【Disc Review】“The Song is You” (2021) Enrico Rava, Fred Hersch

“The Song is You” (2021) Enrico Rava, Fred Hersch

Enrico Rava (Flugelhorn) Fred Hersch (Piano)

The Song Is You
Rava, Enrico / Hersch, Fred
Ecm Records
2022-09-30


 イタリアの大御所Enrico Rava、ピアノとのDuo作品、ジャズスタンダード集。
 ピアニストはオーソドックスで穏やかなイメージのベテランFred Hersch。
 名前通りの端正で穏やか、静かなジャズ。
 もちろんECMレコードなので、普通にジャズではなくて、いかにもな音。
 恐ろしいほどに透明度の高いピアノ。
 くぐもっているようで何とも言えない艶のあるフリューゲルホーン。
 ひたすら美しい。
 かつてのような激情やらサイケやらぶっ飛んでいくインプロビゼーションやらはありません。
 少々のフリーな場面も含めて、流れるように漂うように、ゆったりと穏やかに動いていく美しいモノ。
 Jobimで始まりMonkさんの連発で結ぶ神々しいメロディたち。
 クラシカルなムードを纏いつつ、残響を含めて美しい音を敷き詰めていくピアノ。
 スウイングしているようでオーソドックスなようでそうでもない、心地よく揺らぐ背景。
 その中を泳ぐ流麗なホーン。
 美しく懐かしい何かが流れていく時間。
 最後に収められたピアノのみのソロ演奏、美しく妖しいイントロダクションに導かれつつ、どスタンダード”Round Midnight"のメロディが流れてきて、これ、スタンダード集だったなあ・・・って思い出す感じの新しさ・・・、いや、新しくはないのか・・・
 隠れ名作"Diane" (1985) Chet Baker & Paul Bleyってなのを想い出して聴いてみましたが、同じく静かで穏やかで美しいながら、全く違うテイスト。
 本作の方が躍動感が強く、かつ、まろやか、ってな感じでしょうか。
 さておき、とにもかくにもひたすら美しい。
 とても素敵な静かな“ジャズ”。





posted by H.A.


【Disc Review】“Bordeaux Concert” (2016.7.6) Keith Jarrett

“Bordeaux Concert” (2016.7.6) Keith Jarrett

Keith Jarrett (piano)


Bordeaux Concert
Keith Jarrett
Ecm Records
2022-09-30


 Keith Jarrett、2016年、フランスのステージでのソロピアノ。
 既発の同年同月の演奏“Budapest Concert” (2016.7.3)、“Munich 2016” (2016.7.16)の間のステージ。

 それらに似た構成。
 激しく抽象的で長尺な序盤、表情の違うコンパクトな演奏、緩急、軽重を織り交ぜながら穏やかな空気感に転じていく中盤、メロディアスでフォーキーな表情が増える終盤。

 “Rio” (Apl.2011)あるいは“Creation” (2014)あたりからの構成。
 この期のヨーロッパツアーの記録、リリカルで柔らかな1970年代“The Köln Concert” (1975)~“Sun Bear Concerts” (1976)、ハードでアートな“La Scala” (1995)~“A Multitude of Angels” (1996)に対して、少し硬質で次々と景色が変わる2010年代型のシリーズになってくるのかもしれません。

 ともあれ、この日の演奏、序盤はいきなりトップギアに入った激烈疾走系~混沌とした長尺な演奏から始まります。
 それを抜けると重々しい展開の時間は短く、メロディアス、フォーキーモードへの遷移が早い感じでしょうか。

 リリカル系、センチメンタル系、あるいは祈り系など、めまぐるしく展開し、この期のお約束のブルースの挿入も早々の中盤。
 終盤はテンポを落としてセンチメンタルなメロディの連発、祈り系を経て、穏やかに厳かに大団円。
 結果、全体を通じてぶっ飛び度は低め、カラフルな印象。
 深刻で混沌なスタートから、次々と現れる起伏の中、徐々に不安が解消されつつハッピーエンド・・・、でありながら含みを持たせた映画な感じ。
 ジャケットは、薄曇りの“Budapest Concert”と青空の“Munich 2016”に対して、タイトル通りのボルドー色、少々重め。
 演奏はそこまで暗く重い感じではありません。
 そんな2016年7月のヨーロッパでのドラマ、その一編。




〇:ソロ、除くクラシック ●:Standards

 “Life Between the Exit Signs" (May.1967)
〇“Restoration Ruin"(Mar.1968)
 “Somewhere Before" (Aug.1968)
 “Gary Burton & Keith Jarrett" (Jul.1970) 
 “Ruta and Daitya" (May.1971)
 “The Mourning of a Star" (Jul.Aug.1971)
 “Birth" (Jul.1971)
 “El Juicio (The Judgement)" (Jul.1971)

〇"Facing You" (Nov.1971)
 "Expectations" (Apl.1972)
 "Hamburg '72" (Jun.1972)
 “Conception Vessel” (Nov.1972) Paul Motian
 "Fort Yawuh" (Feb.1973)
 "In the Light" (Feb.1973)
〇”Solo Concerts:Bremen/Lausanne” (Mar.Jul.1973)
〇“Molde Jazz Festival 1972 & 1973” (Aug.1973)
 “Berliner Jazztage 1973” (Nov.1973)
 “Treasure Island” (Feb.1974)
 “Belonging” (Apl.1974)
 “Luminessence” (Apl.1974) 
 “Live In Hanover 1974” (Apl.1974) 
 “Death and the Flower” (Oct.1974)
 “Back Hand” (Oct.1974)  
〇“The Köln Concert” (Jan.1975)
〇“Solo Performance, New York ‘75” (Feb.13.1975)
 "Gnu High" (Jun.1975) Kenny Wheeler
 “Arbour Zena” (Oct.1975)
 “Mysteries” (Dec.1975)  
 “Shades” (???.1975) 
 “Closeness” (Mar.1976) Charlie Haden
 “The Survivor's Suite” (Apl.1976)
〇“Staircase” (May.1976) 
 “Eyes of the Heart” (May.1976) 
 “Hymns/Spheres” (???.1976)
 “Byablue” (Oct.1976)
 “Bop-Be” (Oct.1976)
〇“Sun Bear Concerts” (Nov.1976)
 “Ritual” (Jun.1977)
 “Tales Of Another” (Feb.1977) Gary Peacock
 “My Song" (Oct.-Nov.1977)
〇“Live At Budokan 1978” (Dec.12,1978)
 “Sleeper” (Apl,16-17.1979)
 “Personal Mountains” (Apl,16-17.1979)
 “Nude Ants:Live At The Village Vanguard” (May,1979)

 "Invocations/The Moth and the Flame" (1979,1980)
 "G.I. Gurdjieff: Sacred Hymns" (Mar.1980)
 "The Celestial Hawk" (Mar.1980)
Concerts:Bregenz” (May.1981)
〇”Concerts:Munchen” (Jun.1981)
●“Standards, Vol. 1” (Jan.1983)
●“Standards, Vol. 2” (Jan.1983)
●“Changes” (Jan.1983)
 "Arvo Part: Tabula Rasa" (Oct.1983,1984,1977) 
 "Spirits" (May-Jul.1985)
●"Standards Live" (Jul.1985)
 “Barber/Bartók” (1984-85)
●"Still Live" (Jul.1986)
 "Book of Ways" (Jul.1986)
 "No End" (Jul.1986)
 "Well-Tempered Clavier I" (Feb.1987)
〇"Dark Intervals" (Apl.1987)
●“Changeless” (Oct.1987)
 “J.S. Bach: Das Wohltemperierte Klavier, Buch I” (1987)
〇”Paris Concert” (Oct.1988)
 “Lou Harrison: Piano Concerto” (1988)
●”Standards in Norway” (Oct.1989)
●“Tribute” (Oct.1989)
 “Hovhaness, Alan: Piano Concerto:Lousadzek (Coming Of Light) ” (1989)
 “J.S. Bach: Goldberg Variations” (1989)
●“The Cure” (Apl.1990)
 “J.S. Bach: Das Wohltemperierte Klavier, Buch II” (1990)
 “G.F. Handel: Recorder Sonatas with Harpsichord Obbligato.” (1990)
〇“Vienna Concert” (Sep.1991)
●“Bye Bye Blackbird” (Oct.1991)
 “J.S. Bach: The French Suites” (1991)
 “J.S. Bach: 3 Sonaten für Viola da Gamba und Cembalo” (1991)
 “At the Deer Head Inn” (Sep.1992)
 “J. S. Bach: 3 Sonatas with Harpsichord Obbligato. 3 Sonatas with Basso Continuo” (1992)
 “Peggy Glanville Hicks: Etruscan Concerto” (1992)
 “Dmitri Shostakovich: 24 Preludes and Fugues op.87” (1992)
 “Bridge of Light" (Mar.1993)
 “G.F. Handel: Suites For Keyboard” (1993)
●“At the Blue Note” (Jun.1994)
 “W.A. Mozart: Piano Concertos, Masonic Funeral Music, Symphony In G Minor” (1994)
〇“La Scala” (Feb.1995)
●“Tokyo '96” (Mar.1996)
〇“A Multitude of Angels” (Oct.1996)
 “W.A. Mozart: Piano Concertos, Adagio And Fugue” (1996)

〇“The Melody At Night, With You” (1998)
●"After The Fall" (Nov.1998)
●“Whisper Not” (Jul.1999)
●“Inside Out” (Jul.2000)
●“Always Let Me Go” (Apl.2001)
●“Yesterdays” (Apl.30.24.2001)
●“My Foolish Heart” (Jul.22.2001)
●“The Out-of-Towners” (Jul.28.2001)
●“Up for It” (Jul.2002)
〇“Radiance” (Oct.2002)
〇“The Carnegie Hall Concert” (Sep.2005)
 ”Jasmine” (2007)
 “Last Dance” (2007)
〇“Testament” (Oct.2008)
●“Somewhere” (May.2009)
〇“Rio” (Apl.2011)
〇“Creation” (2014)
〇“Budapest Concert” (2016.7.3)
〇“Bordeaux Concert” (2016.7.6) 
〇“Munich 2016” (2016.7.16)


posted by H.A.


【Disc Review】“Elastic Wave” (2021) Gard Nilssen Acoustic Unity

“Elastic Wave” (2021) Gard Nilssen Acoustic Unity

Gard Nilssen (Drums)
Petter Eldh (Double Bass) André Roligheten (Tenor, Soprano, Bass Saxophones, Clarinet)

Elastic Wave
Nilssen, Gard / Acoustic Unity
Ecm Records
2022-09-02


 ノルウェーのドラマーGard Nilssenのサックストリオ、ECMレコードから。
 リーダーは“Three Crowns” (2019) Maciej Obara Quartet、“Skala” (2010) Mathias Eickなど、ノルウェーの人の作品でよく見かける人。
 本作は同じくノルウェーのサックス奏者をフロントに立てたバンド、ピアノレストリオ。
 摩訶不思議系ジャズ。
 Ornette Colemanの影響が強いようで、また違った色合い。
 不思議系のメロディのテーマを決めたら後はビートをキープしつつ自由に、ってなところは似ているのですが、オーソドックスにベースとドラムがリズムをキープするOrnette Colemanバンドに対して、このバンドのリズムとコードのキープ役はサックス、その後ろで暴れまくるドラム、行ったり来たりのベース、そんなバランスの場面が多い感じ。
 リーダーのドラムは、決して激しい音でも大きな音でもないのですが、とにかく自由。
 あちこちに飛び回る打撃音。
 ベースはときおりCharlie Hadenな感じも見せる動きまくり系。
 サックスは近年に多い鋭く繊細な感じの音色。
 あの時代のフリージャズを想い起こす感じだったり、ピアノレスでのSonny Rollinsな感じもしたり、もどかし気な緊張感はJohn Coltraneな感じでもあったりしますが、こってりした感じはなく、スッキリ系。
 全部合わせて紛れもない不思議系ではありますが、沈痛さ陰鬱さはなく、激烈な場面も混沌もなし、うるさい場面もありません。
 ぶっ飛んだ感じながらサラリとした感じがいかにも今風。
 さらにテーマやインプロビゼーションの中に北欧系の懐かし気なメロディが見え隠れして・・・
 かつてのジャズの香り、エスニックな香りを振り撒きつつの新しい質感。
 小人数、ピアノレスならではのほどほどの余白。
 その中に響く各楽器の残響がとてもクール。
 そんなハードボイルドな今風ジャズ、不思議系。




posted by H.A.


【Disc Review】“The Next Door” (2022) Julia Hulsmann Quartet

“The Next Door” (2022) Julia Hulsmann Quartet

Julia Hulsmann (piano)
Marc Muellbauer (double bass) Heinrich Kobberling (drums)
Uli Kempendorff (tenor sax)


The Next Door
Julia Hulsmann Quartet
Ecm Records
2022-09-30


 ドイツのピアニストJulia Hülsmann、2022年作。
 前作に当たるのであろう“Not Far From Here” (2019)と同じメンバー、サックスを迎えたワンホーンカルテット編成。
 コンスタントな制作ペース、これだけ続けば21世紀のECMレコードの代表的ピアニスト、その穏やかで優しい系。
 いつもながらの安心・安全印、明るくて柔らか、落ち着いたヨーロピアンコンテンポラリージャズ。
 端正なピアノ。
 端正なサックス。
 端正なリズム隊。
 とても端正でノーブルなヨーロピアンコンテンポラリージャズ。
 ・・・で終わってしまうと・・・なので・・・
 ミディアムテンポで穏やかにスイングするビートの中に丁寧に置かれていく美しい音。
 クラシカルな色合いがあるのかもしれませんが、このレーベルにあっては、ジャズに寄った端正なピアノ。
 崩れたり、疾走したり、不協和音が鳴り響いたり、はありません。
 その雰囲気もときおりありますが、あくまでノーブルにまとまっていきます。
 サックスも同様。
 クラシカルな風味、音色ながら、あくまでジャズ。
 ときおりぶっ飛んでいくかと思わせつつも、これまた上品に収まっていきます。
 ともあれ本作、諸作に比べるとちょっと不思議系のメロディが増えた感、フリーな場面が増えた感、無きにしも非ずですが、その時間は長くはありません。
 全部合わせて、美しくて明るくて柔らか、上品なヨーロピアンコンテンポラリージャズ。
 トゲや毒気はないので、きっと体にもいいのでしょう。
 たぶん。




posted by H.A.


【Disc Review】“Elegy” (2016) Theo Bleckmann

““Elegy” (2016) Theo Bleckmann

Theo Bleckmann (voice)

Shai Maestro (piano) Ben Monder (guitar) Chris Tordini (double-bass) John Hollenbeck (drums)


Elegy
Bleckmann, Theo
Ecm Records
2017-01-27


 ドイツ出身、今はアメリカ在住でしょうか、男性ボーカリストTheo Bleckmannのリーダー作、ECMレコードから。
 近い時期の“A Clear Midnight: Kurt Weill & America” (2015)で優しい系ECMの代表的ピアニスト Julia Hulsmannと共演の後のリーダー作。
 サポートは、今風軽快疾走系のピアノトリオと、これまた今風先端系ギタリスト。
 そんな手練れたちが奏でる強い浮遊感、いかにも今な感じのコンテンポラリージャズに、クルーナー系の優しい歌。
 ECMレコードのヴォーカルものは異色なのでしょうが、いかにも21世紀型ECMな音、優しく穏やか系。
 “A Clear Midnight: Kurt Weill & America”と近い質感ながら、ジャズスタンダード色がないからか、共演者の色合いか、妖しさ強め。
 が、あくまで悲痛ではない穏やか系、明るい空気感。
 とにもかくにも美しい音。
 遠くから聞こえてくるようなクラシカルな音のピアノ、静かに鳴るシンバル、丸いクリーントーンのエレキギター。
 多くの場面でのスキャットも含めて、とても幻想的。
 全編を覆う強烈な浮遊感を含めて、あの期のPat Metheny Groupな感、Milton Nascimentoな感、南米感たっぷり・・・な感じ、無きにしも非ず。
 ときおり表出する、あの疾走か?なピアノ、あの先端な表情になりそうなギター、混沌に突っ込んでいきそうなフリーなビート。
 あるいは、とてつもない美メロが出てきそうな展開、空気感。
 が、それらの片鱗が見えつつも、あくまで抑制的。
 気が付けば、また淡い色合いの中。
 全部合わせて、穏やかで柔らかでストイックな幻想、そんなイメージ。
 これでいくつかのキャッチーなメロディや、ハイテンションなインプロビゼーションの場面があれば、大名盤になるんだろうなあ。
 が、この慎ましやかなバランスがオシャレでカッコいいんでしょうね。
 とても心地よくてよろしいかと。

 名作。



posted by H.A.



【Disc Review】“A Clear Midnight: Kurt Weill & America” (2015) Julia Hulsmann, Theo Bleckmann

“A Clear Midnight: Kurt Weill & America” (2015) Julia Hulsmann, Theo Bleckmann

Julia Hülsmann (piano) Theo Bleckmann (vocals)
Marc Muellbauer (double bass) Heinrich Köbberling (drums)
Tom Arthurs (trumpet, flugelhorn)



 ドイツのピアニストJulia Hülsmann、2015年作。
 “In Full View” (2012)と同メンバーのトランペットワンホーンカルテットに男性ボーカリストを迎えた編成。
 Kurt Weillの作品集、ジャズスタンダードな曲が並んでいますが、アメリカっぽさはありません。
 作曲者の出自はドイツだから・・・はさておき、紛れもないヨーロピアンなジャズ。
 その気難しさのない、穏やかで優しい音系。
 ゆったりとした、漂うようなビート。
 深く美しい音のピアノ、動きまくるベース、静かでしばしば自由に振る舞うドラム。
 その上に乗ってくるクルーナー系の男声、繊細ながらキリッとしたトランペット。
 どスタンダード“Mack the Knife”から始まりますが、クレジットを見るまで気づきません。
 アレンジされ、フェイクされていますが、奇をてらった感じではありません。
 聞き慣れたメロディではないのですが、とてもメロディアス。
 そんな感じのジャズスタンダードの演奏が並びます。
 もともと優雅なメロディ、コードが、表情の異なる別種の優雅さに様変わり。
 いかにもECMレコードな静かなフリーの場面もちらほら交えつつ、全部合わせてヨーロピアンな色合いのジャズ。
 少しだけ妖しのだけど、あくまで優雅で上品な優しい今風ジャズ。
 そんなバランスが心地よくてよろしいのでは。




posted by H.A.



【Disc Review】“Abaton” (2002) Sylvie Courvoisier, Mark Feldman, Erik Friedlander

“Abaton” (2002) Sylvie Courvoisier, Mark Feldman, Erik Friedlander

Sylvie Courvoisier (Piano)
Mark Feldman (Violin) Erik Friedlander (Cello)


Abaton
Courvoisier, Sylvie
Ecm Import
2003-10-14


 スイスのピアニストSylvie Courvoisier、Mark Feldmanのバイオリンとチェロを迎えたトリオ作品。
 クラシック~現代音楽な作品ですが、ECM New Seriesではなく、ECMレコードから。
 楽曲を準備したのであろう長尺な演奏が揃ったCD一枚目、短い演奏が続くCD二枚目は即興演奏集なのでしょう。
 静謐な空気感。
 ゆったりとした音の流れ、定まらないビート。
 不思議感、不安感たっぷりの旋律。
 哀し気な表情、不穏なムードを醸し出す不協和音。
 三者の誰が前に出るともなく、カウンターを当て合うようなアンサンブル。
 たっぷりの余白。
 ときおり強烈に加速したり、音量が上がったりしますが、次の瞬間は残響音のみ、あるいは無音・・・
 全部合わせて強烈な緊張感、強烈な非日常感。
 極めて耽美的、内省的。
 が、甘いメロディは出てきません。
 いわゆるわかりやすいグルーヴもありません。
 あるいは、それらの断片が見え隠れするだけで、長くは続きません。
 ジャズの耳からすれば、気難しく難解。
 が、暗くはなく、あくまで透明、あるいは雑味のない“白”な空気感。
 透明で美しい音。
 静謐ながら、とても豊かな表情。
 流れ始めてしばらくすると、部屋の空気感が変わってしまうような気がします。
 非日常的な空気感ですが、とても心地よいので、何かよからぬものに絡めとられていってしまうような感、無きにしもあらず。
 そんな音。



posted by H.A.



【Disc Review】“Far Star” (2022) Gilad Hekselman

“Far Star” (2022) Gilad Hekselman

Gilad Hekselman (guitars, keyboards, bass, whistle, tambourine, body percussion, voice)
Shai Maestro, Nomok (keyboards) Oren Hardy (bass) Eric Harland, Ziv Ravitz, Amir Bresler, Alon Benjamini (drums & percussion)
Nathan Schram (viola, violin)


Far Star
Edition Records
2022-05-13


 イスラエル出身、今はアメリカ在住でしょうか、ギタリストGilad Hekselmanのコンテポラリージャズ。
 “Ask For Chaos”, “Further Chaos” (2018)以来、久々のアルバムなのだと思います。
 それらはオーソドックスなギタートリオと先端系の二バンドを並行して展開する形だったと思いますが、本作はまた違った流れ。
 デジタル色強め、先端色強めのスペーシーなサウンド。
 あくまで軽快ながら、もはや何拍子なのか考えるのも憚れるというか、個々の楽器が違うビートで絡み合う、複雑なビート感。
 メロディアスでわかりやすいのだけども、不思議感が漂うメロディを奏でる、丸くて柔らか、艶やかなギター。
 強い浮遊感と強烈な疾走感。
 諸作よりも目立つコンピュータで作った音と、超絶な演奏力の生楽器が絡み合い、無機的なようでそうでもない、複雑な質感。
 そんなサウンドを中心に、ときおりアコースティックギターを絡めた爽やか系やら、重いビートとディストーションなギターやら。
 とても”今風”な”ジャズ”。
 各曲、静かに始まり、終盤に向けてテンションを上げていく、ドラマチックな展開、さらにアルバムを通じたドラマ仕立てな展開は、いかにもなこの人のアルバムの構成。
 本作のテーマは宇宙な何某なのでしょう。
 確かにそんな音。
 激しくなっても突っ走ってもへんてこりんでも、あくまで優雅でメロディアス、とてもスムース。
 構成、テーマがどうあれ、心地よいこの人のサウンド。
 カッコいいんじゃないでしょうか。




posted by H.A.



【Disc Review】“John Scofield” (2021) John Scofield

“John Scofield” (2021) John Scofield

John Scofield (Electric Guitar, Looper)


John Scofield
John Scofield
ECM
2022-05-06


 大御所John Scofield、ECMレコードからの第二作はソロ演奏集。
 枯れた味わいのギターミュージック。
 但し、枯れたイメージなのは、意図的に作っているのであろう音色とギターのみでの限定された音量。
 クランチではなくてクリーントーン、“Swallow Tales” (2019)よりもさらに繊細な方向に振ってきているように思います。
 が、フレーズはぶっ飛んでいます。
 ウネウネグニョグニョしながらあらぬ方向に飛んでいくあの動き、音数もたっぷり。
 前作のトリオ作品“Swallow Tales” (2019)は落ち着いたジャズ、こちらも静かで落ち着いてはいるのですが、ソロ演奏ゆえか、かえって不思議感たっぷりの音の動きが印象に残ります。
 オリジナル曲に加えて、ジャズ曲、スタンダード曲、その他、自身のルーツなのであろうアメリカンなメロディを奏で、インプロビゼーションでぶっ飛んでいくギター。
 かつての作品のような激しさやブルージーさ、あるいはダークなムードはありません。
 楽曲の選択もビート感も普通。
 ジャズスタンダードの4ビートでの演奏が、サラサラとした質感で心地よく流れていく・・・ようで、よく聞くとなんだかへんてこりん。
 そんなバランス。
 近作では、同じくアメリカンルーツな色合いながらぶっ飛んだギターソロ作品“Music IS” (2017) Bill Frisellを思い起こしますが、こちらの方が普通。
 が、別種の不思議感たっぷり。
 いわゆる流麗さやオシャレさとは距離を置いた硬派な“ジャズ”。
 レーベルカラーもどこ吹く風。
 そんな一風変わったハードボイルドネスがなんとも味わい深い。
 カッコいいんじゃないでしょうか。




posted by H.A.



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